第34話 後始末1
……目が覚めた。どれだけ寝ていたのだろうか?
何が起きたのだろうか? 眠る前の記憶が曖昧だ。
昨日は確か第六都市に向かっていて……。
ハッとして、立ち上がろうとするとベットから転げ落ちた。
自分の手足を確認すると縄で縛られている。
いわゆる、簀巻きという状態だ。
篭手も、コートも取られている。
まず、落ち着こう。記憶の整理からだ。
確か、魔物使いを捕らえたはずだ。そして、ダンジョンに向かおうとした時だった。
そこで、ネーナに締め上げられたのであろう。
そして今は拘束されている?
ネーナの考えが読めない。
──カツーン、カツーン
誰かが降りて来たようだ。ここは、地下だと思われる。そして目の前には鉄格子がある。
多分だが、牢屋なのだと思う。入ったことないので知らなので多分としか言えないけど。
見張りはいなかったが、先ほどの転倒の音で僕が起きたと知ったのだろう。
「ビット、起きたようね。気分はいかがかしら?」
「ネーナ。これはどうゆうことですか? 何で僕が牢屋で縛られていなければならないのですか?」
ネーナが、ため息を吐いた。
「婚約者を騙した罪ですわ。市中引き回しの上で、釘バットでも良かったのですが、投獄で済ませた温情を感謝して欲しいのだわ」
うわ~。ネーナの釘バットですか。
口を割らなかった相手はいないという、この国最高の拷問だ。
「ネーナ。今外がどうなっているか教えてください」
「話題を逸らしましたのね。まあ、良いですわ。私が、迷宮支配者を捕らえて魔物の氾濫は収まりましたわ」
「はい!?」
頭が回らない。迷宮支配者をネーナが捕らえた? というか、迷宮支配者って何?
竜人相手にネーナが勝ったということ? 少なくとも【闘気】を使用する相手のはずだ。
いくらネーナが〈怪力〉持ちだからと言っても勝てる相手ではない。
いや、ネーナにはもう一つ力がある。
「まさか、狂戦士化を使ったのですか?」
ドヤ顔のネーナ。
僕はため息を吐き、崩れ落ちた。
「ネーナ。あれほど使用禁止と言われたのに……」
ネーナの表情が見る見る赤くなって行く。
「もう嫌ですわ! せっかくの〈怪力〉持ちだというのに!!
使うな! 使うな! 使うな!
冗談じゃありませんのよ! 何が『笑顔で上品に振舞っていれば良い』ですか!
『お姫様なのだから』とか、もう聞き飽きたのですわ!
私だって開拓村で活躍したかったのですわ! それなのに、毎日毎日、王城で来客の相手ばかり……」
「ネーナ! 自分の役割を理解してねと何度も言いましたよね?」
「ふん! 王位継承権など放棄してやりましたわ! 今はただの第六都市の領主なのだわ!」
「えっ!?」
僕がいない間に何が起きたのだろう。
ネーナは完全に頭に血が上っている。これでは詳細は聞けないだろう。
というか、マシンガンのように不満を口にし出した。これは、疲れ果てるまで止まらないぞ。
ギャーギャーと不満を口にするネーナの横に誰かが来た。
リセイ関長だ。
「リセイ関長! 現状を教えてください」
「まだ、私の話は終わってないのかしら!」
「ネーナ様。今は緊急を要する事態です。どうかご留飲をお下げになってください。事が済みましたら、ビットをいかようにもお好きにして構わないので……」
「リセイ関長!?」
リセイ関長……、あなたのことは尊敬していたのに。
「ふん!!」
ネーナが牢屋前から出て行った。
「さて、まず体は大丈夫か?」
「……」
体は大丈夫だけど、心が痛いです。それと、リセイ関長への信頼感が失墜しました。
僕はため息を一つ吐き、【闘気】を生成して、身体能力を上げた。
縄を引きちぎり、首の骨をポキポキと鳴らす。
ちょっと、肋骨が痛いけど、まあ明日には治っているだろう。
リセイ関長が牢屋のカギを開けてくれた。
「どうして、牢屋なのですか?」
「ああ……。第六都市は壊滅状態でな。使える建物は、怪我人で溢れてしまっている。そして、ネーナ
様が少し反省させたいと言い出してな……」
ため息しか出ない。
階段を登りきると、壊滅した第六都市がそこにあった。
昨日より酷い。ネーナの狂戦士化が通り過ぎた跡だ。
まあ、終わったことを言っても仕方がない。
「僕の装備を返してください。篭手とコートは貴重な物です。それと、愛用していた棍棒もお願いします」
「それらは、ネーナ様が管理している。それよりも先に。捕らえた『黒幕』に会って貰いたいのだが」
そう言われれば、そうだ。
僕は、リセイ関長に連れられて竜人に会いに行くことにした。




