第33話 ネーナの戦闘1
◆ネーナ視点
「我は、チョウホウと申す……….。迷宮支配者だ」
何か知らないけど、名乗って来た。これは試合ではない。戦場では、相手のことなど知らない方が良いのだ。
一足飛びで間合いを潰し、モーニングスターの一撃を見舞わせる。
──パシ
!? ありえない……。
私の一撃を片手で受け止めたのだ。こんなことは今まで誰も出来なかった。
ここから力比べが始まる。
「ぐ……」
片膝を付いてしまった。腕一本で〈怪力〉持ちの私を抑え込むとは……。
このままでは、抑え込まれてしまう。ここで、チョウホウの膝にケリを入れてみる。
だが、体勢を崩すことは出来なかった。
私はモーニングスターを手放して、一度距離を取る。
「はあ、はあ……」
数秒で息が切れた。
ビットは、こんなのと戦っていたのか。
「無駄なことは止めて貰いたいのだがな……。そこの青年を引き渡してくれたら、引き上げることを約束する」
──ブチ
絶望的なまでのステータスの差だ。確かに無駄かもしれない。だけど、ようやく捕まえたビットを引き渡すことは、絶対に出来ない!!
それと、ビットのことに触れられたのでキレてしまった。血液が沸騰するような感覚。
止まれなかった。
私には、〈怪力〉のスキル以外にも、もう一つ秘密がある。まあ、国民が皆知っているので秘密でもないのだが。
・狂戦士化
精神のバランスを崩し、目の前の相手を仕留めるか、力尽きるまで止まらない奥の手……。
制御出来ないので、私は極度に怒ったり、感情を揺らしてはいけなかった。
だけど、今日だけは自分の意思で使おうと思う。
感情が昂って行く……。
「何をしているのだ?」
私の様子が変わったので、チョウホウは驚いているようだ。
次の瞬間には、チョウホウに掴みかかろうとしている私が、そこにはいた。
チョウホウは、油断していた。絶対的なステータスの差による油断……。
それと、ビットと同じ光る何かを放出している。何かしらの技術なのだろう。
チョウホウは、私の右手をモーニングスターの柄で止めた。私の右手が光る粒子を触る。
「深く、もっと、深く……」
私は、精神を深く沈めた。アスリートの聖域などとは比較にならないほどの集中力。
それが、狂戦士化の本質だ。理性が飛んで行く。
左手で、チョウホウの右手首を掴んだ。そして、握り潰す。
──ボキ
「なに?」
チョウホウは、意表を突かれて動揺している。だが、離す気はない。このまま振り回し、地面に叩きつけようとした時だった。
チョウホウが消えた。掴んでいたというのに。
しかし、私の索敵は、瞬時にチョウホウを捕らえていた。
場所は、右後ろ後方の二階。
一足飛びで天井を蹴り破ってチョウホウに迫る。チョウホウが、モーニングスターを私に投擲して来た。そして、次の瞬間には消えていた。
モーニングスターを再度装備して、チョウホウを追う。だが、追い付けなかった。
どうやら、〈瞬間移動〉のようだ。実在していたとは……。
「はあ、はあ……」
全力を超える動きで体力が尽きて来た。これが、チョウホウの狙いかもしれない。
ビットは、リセイ関長が守っている。私が、この相手を取り押さえれば全てが終わるのだ。
私の全てを投げ捨てても勝たなければならない。ここだけは、絶対に引けない!
──キーン
耳鳴りがした。いや、私のスキルが何か動いた感じだ。
右手を見ると、光る粒子を発現していた。
ビットの動きを真似る。光る粒子は、私から出ているが、それを再度吸収する意味……。
「あはは……」
今、理性はほぼない筈なのだが、笑い声が出た。体が歓喜に満ちていたので、反射で笑い出してしまったみたいだ。
「まさか、今の一瞬で【闘気】を理解したいというのか?」
背後から声を掛けられた。もちろん、チョウホウだ。
チョウホウは、真っ青だ。今の私は、とても怖い笑顔なのだろうな。
それと、この光る粒子は、【闘気】というのか。良い物を教えて貰った。私は、【闘気】を体力に変換した。
これで、互角以上の戦いが出来るだろう。
鋭い踏み込みで、間合いを詰める。先ほどとは、スピードが違う。もはや、目でも追えないだろう。
チョウホウはまた消えたが、私の索敵で次の場所は分かっている。瞬時に方向転換し、チョウホウに迫った。
チョウホウの〈瞬間移動〉は、連続では行えないようだ。数秒のインターバルが必要と思われる。それと、私の動きを目で追えていない。
不意打ちのような一撃が入った。チョウホウが、吹き飛んで行く。そして、柱に当たって動きを止めた。
「げほ。ぐ……」
今度は、チョウホウからの攻撃のようだ。何かが飛んで来た。だけど全てを躱す。背後の建物は、切断されているので、投擲と推測する。
危険な攻撃のようだが、今の私は感覚で理解している。そして、スピードが違う。掠りもしない。
私がチョウホウに近づくと、防御壁のような魔法で対抗して来た。全身を覆っている。
──ガン
モーニングスターで叩いてみたが、防御壁は破壊出来そうにはなかった。
視線が合う。チョウホウは震えている。この人は、後方支援タイプのようだ。近接戦闘タイプではないのであろう。
私は【闘気】をモーニングスターに纏わせる。
理解はしていない。だけど、感覚でこうすれば良いことが分かった。そのまま、モーニングスターで防御壁を叩きまくる。
──ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン……、パリン
防御壁が割れた。
チョウホウは、両手を上げて降参のポーズだ。【闘気】も止めている。それとガタガタと震えている。
だけど、分かっていない。私のことを……、私の狂戦士化のことを……。
私は、モーニングスターを振り上げた。
2021年ですね。
新年あけましておめでとうございます。




