第31話 防衛戦4
僕は、大きな鳥の墜落現場に向かった。
すると、そこには鳥に騎乗していた竜人が待ち構えていた。たしか、インコウと名乗った人物だ。逃げなかったのか……。
憎悪を含んだ目で僕を見ている。
「……ここまでされるとは、予想外だったよ」
ただ単に、僕の実力を測れていなかっただけじゃないか。
自分の実力を過信していたから、配下の魔物を失ったのだ。
それにこちらとしても、開拓村と第六の関所、そして第六都市を全壊させられている。
僕だって結構怒っているのだ。
「僕が戻って来た時点で目的は達成されているはずです。魔物の氾濫を納めて帰ってくれませんか?」
インコウがため息を付いた。
「本来であれば、帰るべきなのだろうな。だが、君の強さは予定を超えている。簡単には引けなくなったのだよ」
意味が分からない。
僕を帰らせるための、魔物の氾濫であるはずだ。
先ほども話したけど、目的は達成しているはずである。
これ以上、人類領を破壊し続ける意味はないと思っていたけど、別な意図が感じ取れる。
──ピク
周りを見渡すと、魔物に囲まれていた。
結構な数だ。
インコウが逃げずにいたのは、魔物を集める時間稼ぎだったのか。
迂闊だったかもしれない。まんまと罠にかかってしまったか……。
「ふぅ~」
大きく息を吐き、再度【闘気】を開放する。
「私は、魔物使いだ。私を止めれば、魔物の氾濫は止まり、魔物達は霧散するだろうな」
インコウは、笑いながら自分のことを話している。
この人は、知恵者だと思われる。これは、裏のある話だな。
別な意図があるはずだ。
出来の悪い頭で考える。僕をここに足止めしている理由は……。
「……三ヵ所の結界を襲わせているのですか?」
「いや、違う。私も民間人の被害は最小限に抑えたいと思っている。今のところ我々を迎撃出来ているのは君だけだ。君をここに釘付けにすれば、何が起きると思う?」
ハッとする。
「人類領に来ている竜人は、あなただけではない?」
「正解だ」
やられた。複数人で別行動を取られたら、僕は一ヵ所しか対応出来ない。
どこかを切り捨てる選択を迫られているのか。
「ちなみに、この魔物の氾濫を起こしている竜人は二人だ。もう一人はダンジョンにいるよ」
信じてはいけない。これもフェイクの可能性がある。
だけど、僕の第一はネーナだ。第六都市に襲い掛かる魔物の撃退が最優先だ。
色々と情報を与えられて、揺れたけど、僕の行動方針は変わらない。
僕は、一足飛びで、インコウに突撃した。
インコウは、片手斧を抜いて僕の棍棒の一撃を止める。
すると、周囲にいた魔物達が一斉に僕に襲い掛かって来た。
「汚い戦い方かもしれないが、これが私の戦闘スタイルなのだ。悪く思わないでくれよ」
要するに、近接戦闘が苦手というわけか。使役した魔物で戦うと……。
汚いとは思わないが、ずるいとは思う。
インコウから距離を取って、一方向の魔物を数匹吹き飛ばす。とりあえず、囲まれないように移動だ。
止まったら終わりだ。精密な動きで、生存出来るルートを選択しながら移動を続ける。
インコウを見ると、立ち止まって【闘気】を生成している。
魔物達を精密に操る場合は、動けないのかもしれないな。
今僕に襲い掛かって来る魔物達の種類はバラバラだが、統率は取れている。インコウが指示を出しているのだろう。
ならば!
僕は、崩れた建物の二階の屋根に登った。建物の中を魔物達が列をなして登ってこようとして来る。
だけど、数秒間だけは自由に動ける時間が出来た。
僕は、家の屋根に備え付けられている煙突に棍棒を振るった。
打ち砕かれた石材と煙突の先端部分が、インコウを襲う。
インコウは、予想していたとばかりに魔物達を盾にして自分の身を守った。
まったく、何匹使役出来るかと聞きたいくらいだ。
まあ、ここまでは僕の予想通りである。
今のインコウは、土煙で姿は見えない。でも、インコウは使役した魔物で僕を補足していると思われる。
普通だったら、このまま突撃なんだろうな。テンプレ的には、煙を突破して一撃をお見舞いする……。
でも、僕は予想を裏切る行動に出た。
次々に建物を移動して、屋根や煙突等をインコウに向けて飛ばして行った。
僕自身が、第六都市を破壊することになるのだろうけど、もうここまで来ると作り直すしかないと思うので、気にせずに建物を壊してインコウに飛ばして行った。後で復興に協力すれば良いだろう……。
土煙で見えないが、インコウの周りにいる魔物にも数に限りがあるはずである。
「その周りにいる全ての魔物を吹き飛ばしてやる!」
グルっとインコウの周りを一周すると、魔物達の動きが止まった。
そして、魔物達は第六都市から逃げ始めた。
魔物使いが気を失ったのかな? 支配力が消え失せたと思われる。
次第に土煙が晴れて行った。
インコウの姿を確認すると、瓦礫に埋もれて瀕死の状態であった。ピクピクしている。
ちょっと、やりすぎたかもしれないな。
……生きているのだろうか?




