第28話 防衛戦1
「待て、ビット!」
僕が飛び出そうとした時だった。不意に声をかけられる。
そちらを向くと、良く見知った顔があった。リセイ関長である。
リセイ関長は、魔道具に魔力を送っているようだ。そうか、この結界はリセイ関長が作り出していたのだな。
「リセイ関長、手短にお願いします」
「うむ。再会を喜びたいところだが後にしよう。私ではこの結界は長く持たない。攻撃よりもまず、この建物を守る方法は何かないか?」
確かにそうだな。攻撃ばかりを行っていても、この建物にいる避難者が殺されては意味がない。
「イルゼ。魔法は使えないの? というか、なぜ車椅子なの?」
ビックっと反応したイルゼが、恐る恐る口を開いた。
「……私は、こないだの開拓村での負傷から回復出来ていないの。どんなに回復魔法を受けても治らなくて……。今、魔法を使って魔力を枯らすと、私は死んでしまうわ」
良く分からないが、魔力を消費出来ないのかな?
本当は、イルゼと協力などしたくないが、今は私情を捨てよう。
ステータス変更:マインド特化
魔法の効果を高めるため、精神を強化する。
僕は、【闘気】を篭手に集めて、魔力に変換して行く。
ネーナ達は驚いている。僕から発せられる光る粒子は、見たことがないだろうな。魔力とは明らかに違うし。
今の人類で【闘気】を使えるのは僕だけであろう。
……魔力が溜まった。
火魔法:焔壁結界
いつも使っている〈焔纏〉の巨大版だ。リセイ関長の結界の外側に〈焔の壁〉を生成した。
一度魔物に焔が付けば、命が尽きるまで焔は消えない。無生物系統の魔物であれば突破されてしまうが、今はこれで大丈夫であろう。
「リセイ関長。結界を解いてください」
「分かった」
さて、一度落ち着こう。
この後の行動で救える命の数が決まる。
「第六都市の経緯を教えて貰っても良いですか? 急いで戻って来たので現状が理解出来ていないのです」
「……うむ。まず昨日、第六の関所にアルゼンチノザウルスが現れた。どうあってもあの巨体による進軍を止めることは出来ないと判断したので、第六都市へ撤退を決めたのだ。その後、第六都市の住人を逃がしている間に追い付かれてしまった」
「民間人の被害は、ないと考えて良いですか?」
「逃げられない者は、結界により保護している。ここを含めて三ヵ所に避難場所を設けたが、今はどうなっているか分からない」
結界はたしかに三ヵ所あった。まだ、結界を突破されていなければだが……。
「魔物の数は分かりますか?」
「分からん。ただし、増え続けているのだけは確かだ」
増えているのか……。
ここまで魔物を運んでいる方法が分からない。最優先は、他の結界場所の確認だが、黒幕を殺害しないと、この現状は終わらないだろう。
「魔物は、第六都市を突破してさらに内地に進んでいると思いますか?」
「分からん。避難と結界で手一杯だったのだ。だが……、魔物の先頭はもっと内地にいると思う」
考えを纏める。
「イルゼ。焔の結界の操作権を渡すので、この場所を守って欲しい。リセイ関長は、突破してくる魔物がいたら撃退してください。僕は他の結界の状況を確認しつつ、黒幕を探します」
「「「え!? 黒幕?」」」
ネーナとイルゼ、リセイ関長が驚いている。
「今回の襲撃は、目的があるみたいです。交渉して来ます。最悪、殺害します」
「待て、ビット。何を言っている? 魔物の襲撃に目的がある? それに黒幕とは?」
「この襲撃が終わったら、全て話します。今は従ってください」
「……分かった。任せる。いや、私達ではどうしようもないので、ビットに頼る他ないのだがな」
リセイ関長は、僅かな会話で状況を理解してくれたのだろう。
それとイルゼに、結界のコントロールを渡す。
「魔力は必要ないけど、この形を崩さないように調整するんだ」
イルゼが、両手で結界のコントロールを受け取る。
何かを考えているようだ。まあ、見たこともない魔法だし結構無茶を言っているかもしれないな。
「……大丈夫そうね。結界の維持は任せて」
さすがは〈超回復:魔力〉の持ち主だ。短時間でこの魔法の概要を理解したのだろう。
魔法に対する理解が速い。
それと、一応保険もかけておこう。僕は指輪を取り出して、イルゼの前に差し出す。
「……この指輪は、なに?」
「スキルを止めることが出来るんだ。指にはめてみて」
不思議そうなイルゼが、指輪を指にはめた。
「……え? スキルが?」
「指輪の効果は理解出来るよね? 今は、スキルに振り回されている場合ではないので、その状態で耐えて」
「……こんな物をどこで」
これで、この結界は大丈夫であろう。
僕は〈空間収納〉からコートを取り出す。
そのまま飛び上がり、焔の壁より高い高度を取り、第六都市を見渡した。




