第26話 追い付く
森林に入り、沼地が見えて来た。
もうすぐ開拓村である。雑魚の魔物を屠りながら進んで行く。
そして、もうすぐ日暮れだ。
出来れば、太陽が出ている間に開拓村に着きたかった。森林や沼地を暗闇の中進むのは自殺行為である。最悪、火魔法で明かりを確保すれば良いのだが、魔物が寄ってくるだろう。
出来るだけ無駄な戦闘を避けて進みたい。
魔物を屠りながらようやく開拓村に戻って来れた。帰って来たのだが……。
見事なまでに真っ平だ。踏みつぶされたと言った方が良いだろう。
「はぁはぁ……」
流石に丸一日の全力疾走は、体を酷使しすぎた。しかも二日連続だ。
とりあえず日も暮れたので、ここで一度睡眠をとろう。
明日からは、本格的な戦闘に発展するだろうから。
僕は、〈空間固定〉でキャンプ場を作った。そこで泥のように眠りに入る。
だが、眠る前に気が付いたことがあった。
「開拓村前の森林や沼地は、無傷だった……。この開拓村から突然大きな足跡が現れている。魔境から連れて来たにしては不自然だな……」
明らかな違和感。あの竜人と名乗った人達は、未知の技術を持っていそうだ。まあ、追い付けば分かるであろう。
僕は急ぎたい気持ちを抑えつつ、心を静めて眠りに着いた。
◇
夜が明けたので、再度進む。
僕は、少し進んで物資の集積所に到着した。
「なぜだろう? ここだけは踏みつぶされていない?」
数日前と変わらない簡易的な建物と、積みあがった物資がある。ただし、誰もいない。
足跡を見ると一直線に進んでいる。まるで目的地があるみたいだ。
この進行方向は……、第六の関所の方向だ。
各関所は、山や川を迂回するように建てられている。海岸近くに建てられた関所もある。
この足跡が一直線に進むのであれば、破壊されない関所も出て来るだろう。
誰もいないのであれば、ここにいても仕方がない。再度、進むことにする。
僕は少し走って、開拓村と第六の関所の中間に位置する村についた。リセイ関長の管轄の村だ。
だが、破壊はされていなかった。住民は、家の中で身を守っているようだ。
魔物の足跡は、この村には向かっていなかったのである。足跡の進行方向からズレていたので、助かったのは明白だ。
予想が確信に変わって行く。
とりあえず、聞いてみるか。
「誰かいませんか!?」
大声を上げると、数人が出て来た。
「え……? あなたは、開拓村の方ですか? 関所の方ではありませんよね?」
こないだ、ぶつかりそうになった女性が出て来た。まあ、僕がビットだとは分からないだろう。
とりあえず、情報だけでも聞き出そう。
「そうです。魔物は何日前にここを通りましたか?」
「え……、あ。昨日の昼にとても大きくて、山のような何かが通り過ぎました。あれは、魔物だったのですか?」
「数は?」
「……とても大きいのは一匹だったと思います。ただし、私より大きい魔物は何匹か付いていたみたいです」
「情報ありがとうございます。……ここは危ないです。あなた達は、第五の関所に向かってください」
「何が起きているのですか?」
「僕も巨大な魔物が襲って来たとしか分かりません。数十年に一度の魔物が襲って来たみたいですね。推測すると、目的地を持っておりそこに向かっています。仮に往復するのであれば、この村も踏みつぶされる可能性がありますよ」
「……魔物の反乱ですか? ダンジョンからではなく、魔境からの?」
「明確には言えませんが、魔物の反乱で合っていると思います。この国の歴史にも何度かありましたよね?」
村人達は驚いていた。まあ、驚くか。
僕は、一礼して第六の関所に向けて走り出した。
「もう、3日過ぎている。魔物の群れがどこまで進んでいるかも分からない」
不安を口にしてみた。
魔物の進行速度が分からない以上、昨日ここを通ったとしても現状どこにいるか分からない。
もう、移動速度の速い魔物が単騎で王城にまで到達しているという、最悪の予想が頭を過るが、考えていても仕方がない。
とにかく走る。
リセイ関長が守る関所が見えて来た。第六の関所だ。
巨大な魔物が、通り過ぎた跡があり、関所は半壊していた。一部の城壁が壊れているので、魔物は関所を突破して中へ入ってしまっただろう。
関所に生きている人は見えない。撤退したと思われる。
第六の関所に着いて壊れた城壁から中に入った。
「……、死体がない?」
戦闘の形跡がなかった。
もぬけの殻……。何があったかを想像する。
巨大な魔物を見て、即時撤退したと言うのが僕の結論になったが、それではリセイ関長は何処に向かったのだろうか?
関所を放棄した理由も気になる。
「あの竜人達は、魔物を操る技術を持っているのは分かったけど、どうやって指示を出しているのだろうか?」
独り言が出たが、いまはそれどころではない。
まず、周囲を調べて竜人がいないことを確認した。多分だが、あの魔物達は真っ直ぐ進むことだけを命令されているのだろう。
そうでなければ、途中で進路から外れた物資の集積所や村が襲われていないことが説明出来ない。
違和感を覚えつつ、関所を後にする。
関所から出た時だった。
かなり遠くだが、土煙が上がっている。
「……追い付いた。あそこは、第六都市か!」
思ったよりも速度は遅かったのだろう。全てが蹂躙される前に追い付けたことに安堵した。
だが、第六都市は、数百人規模の人が住んでいる。
二十年かけて作られた、比較的新しい都市だが、見捨てることは出来ない。
僕は、第六都市に向かった。
巨大な魔物は、魔境で出会った魔物であった。木の枝を咀嚼していた魔物だ。
たしか記録があった。竜脚類のアルゼンチノザウルスだったかな? 百年以上前に第三の関所が破壊された時は、あれがダンジョンから出てきたと書かれていた。
今は第六都市の目の前まで迫っている。他の魔物は、第六都市に襲い掛かっている。衛兵が防衛しているも見えた。
巨大な魔物が一匹だけとは限らない。それに、追従している魔物もいると言っていた。
今、問題なのは、魔物の群れの先頭がどこにいるかだ。
僕はネーナを守るために戻って来たのだ。余計なことはせず目的を果たすためだけに行動を起こすべきである。
「だけど……、だけど……」
気が付くと、巨大な魔物の脚に棍棒を打ち据えている僕が、そこにはいた。




