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勇者の称号を剥奪された体力バカ~「超回復:体力」を魔力とステータスに変換して無双します~  作者: 信仙夜祭


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第24話 勇者ロベルト3

◆ロベルト視点



「全くなんなのだ。揃いも揃って逃げ出しやがって……」


 俺は一人、開拓村に残っていた。

 誰か一人でも残っていれば、開拓村は存続していることになる。

 そして、怪我が癒えた者達は、戻って来た時に俺に感謝することになるだろう。


 食料は大量にある。俺の使用していたあばら屋も無事だった。

 後は、女が欲しいが我慢だ。自家発電で我慢する。

 女性の村人が戻って来たら、盛大に相手して貰おう。


 それにしても、一人だと生活だけで精一杯だ。特に食事だ。干し肉か焼いた肉しか食べられない。

 俺は、パンを作る方法も、米を炊く方法も知らなかった。

 ひたすら剣を振るうだけの人生だったのだ。



 イルゼも同じだったと思った。

 昔を思い出す。

 成人の儀が行われて開拓村に来た次の年に、いきなり王城に呼び戻された。

 何事かと思ったのだが、〈超回復:魔力〉持ちが見つかったと連絡を受けたのだ。その時は、俺の功績が半分になる可能性があったのでとても嫌な気分で王城に向かったことを覚えている。


 だが、王城で〈超回復:魔力〉持ちを見た瞬間に考えが変わった。


「俺と同じだ……」


 親に、幼少期より訓練のみを強要されて来た人生……。それを物語る眼をしていた。

 着飾ってはいたが、表情がない。いや、暗い。

 俺のイルゼへの第一印象は、綺麗な顔をした暗い女だった。


 顔合わせの後に会食となり、イルゼと会話をするが、会話が弾むことはなかった。

 イルゼも俺と同じだ。コミュニケーション術など習って来なかったのだろう。

 イルゼとなら俺の苦しみを分かち合えると思えた。

 そして、人気のない場所に連れ出して、キスをした。

 イルゼは始め、顔を真赤にして俺を突き飛ばした。だが、胸を揉むと抵抗しなくなった。

 分かる。

 鍛錬だけの人生……。その苦しみ。


 イルゼは、俺に何処を触られても、顔を真っ赤にするだけで抵抗して来なくなっていた。

 そして俺達は、空いている部屋で一夜を共にした。



 それから開拓村に戻った俺は、他の女にも手を出すようになった。

 この村には、娯楽がない。大人達は、仕事に支障が出ない範囲で楽しんでいたことは知っていた。

 俺も、その中に混ざることにしたと言うだけであった。

 イルゼは、始めは俺だけを相手にしていたが、そのうち他の村人とも関係を持ち始めた。

 互いに大人になったということだろう。


 そして、さらに次の年に、また、〈超回復〉持ちが見つかったと連絡を受けた。

 きっと俺達と同じ人生のはずだ。仲良くやろうと思ったが、孤児だった。

 そして、〈超回復:体力〉は、使えなかった。


 正直むかついた。俺達は、命がけで毎日を過ごしているというのに、どんな仕事を与えてもまともにこなせないのだ。

 気がつくと、俺はビットに辛く当たっていた。

 イルゼの提案により、〈配達人〉に収まったが、俺は不満のはけ口にしてしまっていた。


 そして、王命が来た。


『遺体なく始末しろ……』


 ピットに怒りを感じていたのは、俺だけではなかったのだ。細く微笑んだ。


 ざまぁ……。


 そう心の中で呟いた。

 ビットは成功などしていない。開拓村でも関所でも、王城でも邪魔者扱いだ。だが、ビットにはネーナ王女様がいる。そして、誰とでも親しく話せるコミュニケーション術を天然で持っていた。

 自分でも分かる。嫉妬なのだろうな。

 ビットには、相思相愛の相手がいる。そして、俺にはいない。イルゼとは体だけの関係に収まってしまったし。

 孤独……。

 傷を舐め合う関係でも良かった。心許せる友人でも欲しいというのが、俺の本音なのだろうな。


 独りで残った開拓村を見てため息が出た。


「それにしても誰か残ろうとは思わないものなのか……。せめて瓦礫の撤去だけでも行っておきたいな」


 本当に、俺以外の全員が引き上げることはないと思うのだが。

 本来であれば、イルゼは強制的に残させる場面だが、今は関係が最悪だし、何より大怪我を負っている。


『心配しなくても、開拓村は俺が守ってやる。怪我が癒えてから安心して戻って来い』


 イルゼが開拓村から出て行く時にそう言おうとしたが、イルゼはすごい形相で睨み付けて来た。引きつった笑顔で見送る他なかった。何が不満なのかが分からない。


 意気込んで来た開拓村だが、結果は全壊した開拓村に孤独な俺だけがいる。





 その日は、気持ち良く昼寝をしていたのだが、地鳴りが鳴った。


「何だ?」


 慌てて、外に出ると巨大な生物が目の前にいた。こないだの大蛇など比較にもならない。

 震える手で、研ぎ直した剣を抜こうとするが、上手く鞘から抜けなかった。手足が震えていたのは、後から気が付いた。

 そして、空が暗くなる。

 俺は慌てて空を見上げた。

 多分、足なのだろうな。家よりも面積の広い足が俺の上空にあった。

 思考が停止する。脚は恐怖で動かない。


 空が近づいて来る。

 そこで、意識を失った。



 どれくらい寝ていたのかは分からないが、意識を取り戻した。だが、体が動かない。

 おかしい、俺は〈超回復:負傷〉を持っているのだ。なんとか頭だけを動かし、自分の体を確認した。


「はは……」


 そうか、体を再生するカロリーがないのか。

 潰れた自分の体は、再生しようとしているが、エネルギー不足の為、回復が止まっていた。

 何時もの食事がとれていれば、この程度の傷は完治出来ていたというのに。

 俺は、一人では自分のスキルを十分に発揮出来ないということに、死の間際に気が付いたのか……。


 その後、痛みだけを感じながら時間を過ごして行く。

 スキルにより即死は出来ない。何時間も苦痛を味わいながら、昔を思い出し悔しさを噛みしめる。

 何処で間違ったというのだろうか?

 俺は、人類史に名を刻む男になるはずだったのに……。


「勇者の称号を得たともあろう者が、無残な最期だな……」


 最後の力を振り絞って独り言を呟いた。

 そして、やっと意識を手放すことが出来た。


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