第22話 交渉1
「君の生命エネルギーは何処から来ているのだ? 明らかに人の枠を超えている」
ロベルトとイルゼは、大量の食事をとることで、生命エネルギーを得てスキルを発現していた。
でも僕は違う。僕は睡眠を取れば、スタミナと言うか生命エネルギーは回復する。
ヒルデさんにも、『随分と異常なスキルを持っている』と言われた。
さて、なんて答えようか。
この後も戦闘があるし、正直に答えてやる義理もない。
「僕は、ほぼ無限のエネルギーを生成出来ます。生物というか、この世界の理から逸脱した存在らしいです。人の枠を超えたスキルとも言われました。僕自身も詳しいことは教えて貰っていません」
少し、嘘を混ぜる。自分のスキルの意味は教えて貰っている。
「はは……。我々は他生物の『核』を取り込んで、やっと文化を開花させたというのに。君は一人でそれを覆そうと言うのだな。しかもその若さで……」
「出来れば、戦闘は避けたいですね。この世界がどの様な形をしているかだけでも知りたいんです」
「……我々は、どうあっても君にその事実を伝えるわけにはいかんのだよ。そう、例え全滅してもだ」
頭を掻く。そこまで秘密にする必要があるのか。
話題を変えよう。
「ヒルデガルトと言う名前は、聞いたことがありますか?」
「……ないが、それが君の行動に関係しているのか?」
「それならば、魔王を自称する人はいますか?」
「我々の長は、竜王だ。魔王は知らない」
「ないなら良いです。自分で調べるまでです。とりあえず、山を登らせて貰いますね」
「悪いがそうはいかなくなった。先ほど連絡が来たよ。君をこれ以上進めさせるわけにはいかないので、対策を取らせて貰った」
思案する。この程度の人達が僕を止める方法がある?
すでに連絡を入れてあり、全兵力で攻めて来るのか? いや、彼等の最高戦力が向かって来る……、あたりだろうか?
「一応、その対策とやらを教えて貰えますか?」
「君の故郷に、大型の魔物を向かわせた……」
汚い……、でもそう来るか。
自分でも分かる。ひどい顔をしているだろう。
ため息をひとつ漏らす。
「分かりました。帰ります。でも、また来ます」
「もう来ないでくれと言いたいが、来るのだろうな。一応、竜王様に連絡を入れて、君に答えられる内容だけ決めることにする。私達の方から出向くので待っていて欲しい。そうだな、この関所はシスイ関と言う。『シスイ』を合言葉として伝えるとしよう」
「……あなたの名前を教えてください」
「カンエイだ」
戦闘を仕掛けて来て、負けた上に、僕の故郷を襲う。こんな人等を信用出来るはずもない。
大規模魔法で、この関所を破壊して、兵士を皆殺しにしてやろうか。
憎悪が僕を塗り潰して行く。
でも、そんなのは無意味で愚かな行為だ。棍棒を固く握りしめて、軽蔑の視線を向けてその関所を後にした。
竜人達は、追撃や追って来ることはして来なかったのが意外だな。まあ、実力差が明らかだし、来ないか。
◇
「ネーナを守らなければ」
僕の唯一の希望だ。
ステータス変更:スピード特化
アジリティ特化は、回避重視だが、今は移動速度重視だ。
僕は、全速力で走り出した。シスイ関を後にして、開拓村に帰ることにしたのだ。
森林に入ると、やはり魔物が襲って来た。
でも今はかまっている暇はない。戦闘は全て回避して置き去りにする。
糸や落とし穴などの罠系が怖いが、時間がないと思われるので、とにかく全力で進む。
──ピク
反射的にその場を飛び退いた。次の瞬間に、僕がいた場所に液体が舞っていた。
「今の僕のスピードを視認している?」
ありえない思考の結論を口に出す。
思考で脚が止まってしまった。そうすると森の影から、何かが姿を現した。
……足の生えた蛇? 昔、人類領に現れて大暴れした魔物の話を聞いたが、その話を彷彿とさせる姿であった。たしか、名前はバジリスクだったかな? うろ覚えだが、そんな名前だったと思う。
うろ覚えの知識だけでは、危険かもしれない。間違っている可能性もある。とにかく観察して特徴を把握しなければ……。
先ほど僕がいて、液体がかかった地面は、溶けて悪臭を放っている。かなり危ない毒を吐くと思われる。
そして最もやっかいと思われるのが、目から【闘気】を放っている点だ。【闘気】を使う魔物……、初めて見た。視覚系のスキルがあるのかもしれない。麻痺とかの状態異常系であったならば、かなり危険だ。
今まで駆除して来た魔物とは明らかにレベルが違う。
「ここでボスクラスの魔物か……」
独り言とため息が出た。
明らかな時間稼ぎだ。
確信に変わった。この森林の魔物達は、操られている。だけど、操っている人が何処にいるかは分からない。
魔物のボスと数秒対峙しただけで、僕の周りを魔物達が取り囲んで来た。
上空を見ると、飛んでいる魔物も集まって来ている。飛翔もダメだな。
「殺戮と行くか……」
僕は、【闘気】をさらに開放した。




