第20話 魔境3
僕は森林を抜けて山裾に着いた。着いたのだが……。
目の前に関所がある。明らかな人工物だ。僕達が作ろうとしていた物とかなり近い。高さは20メートルといったところかな?
この辺に生息する巨大な魔物に体当たりされれば、あんな建造物が残るわけがない。
いや、そこじゃない。
「この辺に人が住んでいる?」
ありえない思考の結論を口に出してみる。
僕達と関わり合わない人類が生きている? 僕達と関わり合わない意味は?
それともう一つ。森林を抜けてからこの関所に近づくにつれて魔物が減って行った。つまりこの辺には魔物はいなかったのだ。
違和感しかない。
魔物があの関所に近づかない理由があるはずだ。その理由が分かれば、開拓村には衛兵が不要になるかもしれない。
いや、勇者の称号も廃止されるかもしれないな……。
とりあえず近づいてみると矢が飛んで来た。僕は【闘気】を開放して矢を防ぐ。
射手を見る……。なんだあれ? 僕達とは姿形が異なる。人形なのだが……、鱗に覆われている。
でも顔は、僕達とそうは変わらないかな?
明らかに、僕に近づくなと目で訴えているな……。
二射目の矢が来た。
避けなくても、僕には当たらない。
話が聞きたいが……、強硬手段しかないか。
ステータス変更:アジリティ特化
【闘気】を吸収しての、ステータス変更。今回は、回避と速度重視だ。僕がヒルデさんのところで、唯一合格点を貰った技術だ。
僕は一瞬でと言うか、一歩で関所の前に辿り着く。関所の人達は僕を見失ったようだ。
ここで再度、ステータスを変更する。
ステータス変更:ストレングス特化
僕は、右手に【闘気】を集めて、関所に右ストレートを放つ。
大轟音と共に、関所が一部崩れ落ちる。
僕は、そこから関所の内部に入った。
「貴様! 警告射撃を何だと思っている! それともサイコパス野郎なのか!!」
酷い言われようだ。先に矢を放ってきたのはそちらだと言うのに。まあ、関所の破壊はやりすぎかも知れないが……。
というか、言葉は通じるのか。矢を射かけられながら、コミュニケーションが取れる事には驚いていた。まあ、矢は全て回避しているけど。
近接武器を持った兵士が僕を取り囲んで来た。
「ここまでされると、返すわけにもいかなくなった。悪いが死んで貰う」
「……僕が、ここを鎮圧したら、質問に答えて貰いますね」
会話にならない会話を行い、宣戦布告とした。
360度から槍が、向かって来た。僕は屈みながら槍を避けて、棍棒を一振りする。その風圧で槍兵が吹き飛んで行った。
そうすると、今度は大斧だ。2mを超えるフルプレートアーマーを着込んだ大男が斧を振るって来た。
体勢を崩しながらだが、僕は大斧を片手で受け止める。
──パシ
力比べが始まったが、まあストレングス特化している今の僕には遠く及ばないな。大斧を押し返すと、背後から矢が飛んで来た。
「邪魔だな~」
大斧を横に振り回し、持ち主ごと投げ飛ばす。矢はフルプレートアーマーが弾いてくれた。
この時点で、僕の周りにいる近接武器持ちは、近づいて来ない。戦意を挫いてしまったみたいだ。
僕は脚に力を入れて飛んだ。
──スト
関所の城壁にいた射手の隣に着地する。射手は、眼ですら僕を追えていないようだ。
射手が僕に視線を向けて来る前に、僕は棍棒で射手を打ち据えた。多分、腕が折れただろう。
ステータス変更:アジリティ特化
城壁を移動しながら、射手を棍棒で打ち据えて行く。とりあえずは殺さない。
関所の城壁を一通り走り終わって、大体の射手を無力化した。
そうすると、またフルプレートアーマーを着込んだ兵士が城壁を登って来て僕の前に立ち塞がった。
でも、さっきの人とは装備が違うな。兜に羽根も付いている。それと武器は、剣と盾だ。
「一騎打ちを所望する」
いやさあ……。数十人がかりで攻撃してきて今更何を言っているのだろうか?
まあ良いけどさ。
無言で棍棒を向ける。
兵士は、大盾で体を隠しながら、突進して来た。
僕は、一瞬で背後に周り、棍棒で突く。
だが、躱された……。この兵士は、結構強いかもしれないな。
そんなことを考えている時であった。
目の前の兵士から、【闘気】が放たれた。
いや、厳密には【闘気】ではない。質が違う。
これは、ヒルデさんが言っていた、『他生物の【闘気生成】を体内に取り込んだ、闘気に近いもの』だ。
僕は警戒心を高めた。
かなり話数がかかりましたが、ビットの能力解禁です。




