第19話 魔境2
草原を進むと、また魔物に襲われ始めた。
沼や森では、昆虫型であったが草原では動物型の魔物だ。爬虫類型も来る。
四本脚で僕よりも大きい狼とか、羽根を広げれば10メートルを超えるであろう鳥、そして開拓村を襲った大蛇など、人類領では考えられない大きさと強さを持った魔物が僕を襲って来る。
まあ、歴史を振り返れば、数十年に一度はこの様な魔物が襲って来たことがあるとは聞いていたが。
魔物が襲ってくる度に、棍棒と魔法で撃退して行く。
魔物の攻撃は、【闘気】が防いでくれている。今のところ【闘気】を突破されることはない。怪我を負う心配もないので魔物を屠りながら進んで行く。
「帰り道は、魔物の死骸が目印になるから心配ないかな?」
後ろを振り返って、そう呟いた。多分帰って来る頃には、骨の道が出来ているだろう。
十日ほど進むと、川が見えた。
だが、濁っている。飲むことは出来ないだろう。まあ、僕は飲食は必要ないので飲まないが。
川に近づくと襲われた。
今度は、ワニだ。それもかなり大きい。僕を一飲み出来そうな口で噛み付いて来たが、牙は【闘気】が防いでくれる。本来であれば、何の抵抗も出来ずに食いちぎられていただろう。とにかく強靭な顎を見た感想であった。
僕は、ワニの喉元に向かって火魔法を放つ。炎を飲み込んで、ワニが体内で爆発を起こした。
ワニは煙を吐きながら崩れ落ちる。その後、僕は棍棒で頭蓋骨を砕いた。
ワニの鱗を触ってみると、とても硬く、質が良いことが分かった。
開拓村にもワニは出て来ることはあった。ここまでは大きくないが。
鱗や牙は素材になり、肉は食用になる。
「お土産はこのワニで良いか」
〈空間収納〉に素材となったワニを仕舞いこんだ時だった。
川からゾロゾロとワニが上がって来た。
ワニ達は、憎悪目で僕を見ている。
どうやら僕は、ワニのテリトリーに踏み込んでしまい、駆除対象になった様である。
◇
何十匹のワニを倒したのだろうか? 一面血の海である。
結局、半日をワニとの戦闘で使ってしまった。とりあえず、全てのワニの素材を〈空間収納〉に入れてその場に座り込んだ。
目の前の川を見る。
魔力感知で、ワニ以外にも何かが住み着いていることが分かる。そして、川底はかなり深い。
泳いで渡ると襲われそうだ。
「飛ぶか……」
ヒルデさんに貰ったコートを空間収納から取り出した。
それを着て、魔力を送る。飛翔して川を渡り、再度対岸の地上に降り立った。
上空を見ると、巨大な鳥が飛んでいる。戦闘となれば、勝てなくはないが空中戦は不利だろうな。
ここは、堅実に歩くことにした。
コートを〈空間収納〉に仕舞い、再度、山を目指す。
◇
「いや~、でっかいな……」
目の前の魔物を見て、独り言が出た。
体長何十メートルなのだろうか? 草食獣と思われる魔物を見て先程の感想が出た。
関所の壁よりも高い位置にあるであろう頭は、巨木の葉というか枝を咀嚼している。
目の前の魔物からすれば、僕は蟻だろう。気にもされなかった。
一応、踏み潰されない位置を通り、その魔物は回避して先に進む。
「こんなのが人類領に来たらお終いだよな……」
こう考えると、なんで人類領が残っているのかが、不明である。
数百年の歴史しかないが、何時でも蹂躙される可能性はあるわけだ。
考えながら進むと僕の目の前には、再度、森林が立ち塞がった。
でも、この森を抜ければ、目的の山裾につく。僕は、躊躇わずに森林に踏み込んだ。
新しく踏み込んだ森林は、開拓村の近くの森とは異なっていた。
同じ魔境でも、何が異なるかって言うと、やっぱり魔物だろうな。
特に肉食獣が厄介である。
全長10メートルを超える魔物が多い。その牙や爪は、僕の【闘気】の盾を突破して来たのだ。まだ、かすり傷程度だが、気を抜くと致命傷を受けそうだ。この森林の魔物は、大きく強い……。まだ、それだけしか分からないのだから。
虎型、熊型、鳥型……、とにかく向かってくる魔物を屠って進む。
蟷螂や蜂も来たな。僕が通って来た後ろを振り返り、倒した魔物を確認する。
「ふぅ~……」
尋常じゃない大きさと強さの魔物の絶え間ない襲撃。日が暮れると、さらに襲撃の回数が増えて来た。
僕が〈空間固定〉で一時的に休み、眠りから覚めると、あたり一面を魔物が埋め尽くしていた。
頭をガリガリと掻く。
この森の生態系は、どうなっているのだろうか?
外部から来たとはいえ、僕一人にこんなに集団で襲い掛かって来る理由が分からない。
この魔物達には、知能があるのだろうか?
……もしくは、操られている?




