第16話 勇者ロベルト2
◆ロベルト視点
イルゼが俺のあばら家に来なくなってしばらく経った。
開拓村の適当な女を連れ込んで、憂さ晴らしをする毎日だ。時々、拒否する女もいる。まあ、そういう奴には、仕事を増やしてやれば良い。
しかし、イルゼほど良い女もそうそういない。今は、とっかえひっかえで具合を見ている最中である。
いや、一度王城に帰り、具合の良い女を見繕ってくるのも良いかもしれないな。
その日は気持ち良く寝ていた時であった。
「魔物だ! 魔物が出た!!」
慌てて起き上がる。魔物の撃退は、俺の仕事だ。俺の最大の見せ場であり、存在価値を示す場でもある。
服装を整えて、剣を取り外に出た。
騒いでいる場所に向かう。
そこには、見たこともない大きさの大蛇がいた。何時も出てくる大蛇の三倍以上の体長だ。大きく開いた口には、牙から毒液が滴り、簡単に人を丸呑み出来る喉が見えた。
だが、俺は引けない。いや、引かない。
両手に剣を握り締めて、大蛇に立ち向かった。
──ガキン
「ぐ! 硬い!!」
剣が鱗に弾かれる。剣を見ると刃がボロボロだ。
反撃を受けない様に、大蛇の側面に常に移動し続け、牽制を行う。この大蛇は、近接攻撃ではダメージを与えられない。
そうなると魔法だ。俺は、魔法を撃つように指示を出した。
「どいて!!」
聞き慣れた言葉が聞こえた。そして見慣れた魔法が撃たれた。
イルゼと目が合う。だが、イルゼは即座に視線を外した。
こうなると連係など取れない。まあ、目の前の大蛇を倒せればそれで良い。俺は過程に拘るほど、器が小さくないのだ。
魔法による土煙が晴れて来た。
「!!?」
大蛇は、何事もなくそこにいる。魔法によるダメージが見て取れない。何なのだこの大蛇は? 今まで見たことも聞いたこともない。明らかに異質である。
俺が時間を稼いだので、戦えない者の避難は完了した。最終的に、戦える者十人で迎撃に当たることになった。
大蛇は一匹ではないとの連絡も受けている。そちらは、少数の衛兵で牽制するように指示を出した。まず、目の前の一匹を最短で倒すのが、戦術的に最上であるはずだ。
イルゼは、無意味な魔法を連発している。まあ、属性を変えて色々と試しているのは良い。だが、どんな魔法も弾かれている。
唯一効いたのは、衛兵によるハンマーの打撃だった。鱗ごと叩き潰してダメージを与えられたのだ。
しかし、俺に鈍器など似合わない。剣を取り替えて再度切り込む。
「こんなことなら、魔剣を貰っておくべきだったな……」
少し、本音と後悔が出た。
俺は、国王様からの魔剣授与を断った過去を思い出していた。
今回の開拓村には、近くにダンジョンがあることを聞いていたからだ。
自力でダンジョンから魔剣を持ち帰る。そして開拓が終わった暁には、その剣を王族に献上する。過去の〈勇者〉が立てた功績を真似ようとしたのだ。
だが、ダンジョンからは、剣が出ることはなかった。たまに産出される武器は、棍や杵、もしくは槌など刃の付いていない物ばかりであった。俺は、それらを手に取ることはなかった。
俺は、それらの〈刃の無い魔剣〉が、現在何処にあるのかも知らない。実際は、王城に送られているか、衛兵達の武器になっているのだろう。
時間にしてどれくらい経ったのだろうか? 実際は、十分も経っていないのであろうな。だが、全員の息が上がっている。
俺は、十本目の剣を取った。これでストックしてあった剣は使い切った事になる。周りを見ると、衛兵は四人しかおらず、後は俺とイルゼだけであった。
この死地を挽回するのが〈勇者〉の役目である。
俺は起死回生とばかりに、突撃して大蛇の眼に剣を突き刺した。剣が刺さり大蛇が、大暴れを始めた。
「距離を取れ!」
一時、撤退の合図を送る。非戦闘員の避難は終わっているのだ。これ以上の戦闘継続は意味がない。作業場は大分壊されてしまったが、もうこれ以上破壊出来ないくらいに壊されてしまっている。
そして倒せないことは誰もが理解している。
〈勇者〉である俺が、深手を負わせて撃退したと言うことにして帰れば、面目は保てるはずであった。
まあ、俺はもう剣を持っていない。丸腰なので、これ以上の戦闘継続は不可能というのもある。
そんなことを考えている時だった。
大蛇の尻尾が、俺達を襲った。距離を取ったのだが、大蛇は体を伸ばして尻尾を大きく振って来たのだ。
俺は、衛兵ごと吹き飛ばされた。武器がなかったのも最悪だった。
そのままま吹き飛ばされて、樹に体を打ち付けて潰された。体中の骨が砕けて、内臓が潰れた感覚だ。
俺は〈超回復:負傷〉により、即座に元に戻ったが、戦闘に戻ることはしなかった。少し離れた位置から大蛇を見続けると、大蛇は魔境に帰って行った。
「ふぅ~。撃退出来たか」
大蛇がいなくなったのを確認して、戦闘現場に戻ると、罵声を浴びせられた。
「なにが撃退ですか!! 勇者ともあろう人が、戦闘放棄ですか!?」
その場で罵詈雑言の言い合が始まったが、怪我人の救助が優先と言われてその場は収まった。
そう言えば、他にも大蛇は来ていたのだ。俺はそちらの確認に向かった。
「どうなっているんだ?」
目の前には、真っ二つにされた大蛇が横たわっていた。そして、その先には、木材に貫かれて動かなくなっている大蛇がいた。
俺達があれほど苦労した大蛇を誰が倒したというのだ?
衛兵は、もういないのでこの場に留まる意味もない。
俺は、物資の集積所に向うことにした。
「カロリー。カロリーをとらなければ……」
少し頑張りすぎたかもしれないな。飢餓状態の体を引きずりながら移動した。
◇
物資の集積所に付くと、イルゼが重症だと報告があった。だが、俺に罵詈雑言を言い放った女だ。泣いて詫びて来るまで助けてやる気はない。
それと衛兵は、数人が行方不明とのこと。
大蛇は、ストラとか言うのが倒したと報告を受けた。まあ、まぐれであろう。
今はそんなことよりも、やらなければならないことがある。
俺は、〈超回復:負傷〉を使ったので、大量のカロリーを必要としていた。幸いにも、ここには食料が大量にある。
一心不乱に食事をとる俺を、開拓村の人達は冷ややかな目で見ていたことには、後から気がついた。




