第14話 帰ってきた開拓村2
ネーナが帰って行った。ネーナから貰った短剣を返してしまったので、今は何の武器も持っていない。
実際は、無手でも問題ないのだが、このままでは流石に怪しまれてしまう。
僕は、開拓村の鍛冶場に向かった。
「武器が無くなってしまったので、何か譲って欲しいのですが」
鍛冶場で働いている人に声を掛けた。
不思議そうに僕を見て来る。
「え~と。護衛ではないのですよね? スキルを教えて貰えますか?」
「パワー系です。〈怪力〉だったかな?」
この開拓村に来てから、『スキルは〈怪力〉』と言っているのだ。まあ、怪しまれないであろう。
開拓村に鑑定系の能力持ちがいないことは知っている。
他にスキルを確認する方法は、教会に行くくらいだ。
女性が、僕をジッと見て来る。
何だろうか? 不自然な点はなかったと思うのだが。
「……少し待っていてください」
女性が何処かに行ってしまった。
だが、しばらくすると戻って来た。手には、短剣が握られている。だが、かなり幅広い。短剣と言うよりショートソードかな?
「これを使ってください」
僕は受け取ると軽く振ってみた。
「……使いやすい」
思わず独り言がこぼれた。
僕の独り言を聞くと、女性がにっこりと微笑んだ。
「かなり腕力のある人にしか使えない短剣です。黒鉄と呼ばれるかなり重い素材を使用しています。昔、〈怪力〉持ちがいたのですが、扱いきれずにすぐに返されてしまいました。両手斧が良いと言われてしまいましてね。その短剣は、倉庫で眠っていました」
鋳潰して、新しい武器にはしなかったのか。もしくは柄の部分を変えて槍にすれば、まだ使い道があっただろうに。
鍛冶屋のプライドとかあったのかもしれないな。
周りを見渡す。
一心不乱に真っ赤な金属を叩いている人達がいる。武器防具だけではない。生活に必要な物も作っている。
あれは、釘かな? 何千本作り続けているのだろうか……。
開拓村は、一蓮托生である。護衛や壁作りだけではない。鍛冶や炊事洗濯、そして農作物の栽培。牧畜など仕事は様々である。
何処かのグループが止まっただけで、全体が止まる。
朝から晩まで、同じ作業を繰り返すことが出来るのも才能なのだろうな。
まあ、開拓村と王城を往復していた僕が言うことではないが。
「ありがたく使わせて貰います」
一礼して、鍛冶場を後にしようとした時であった。
「あ、待ってください。付いてきてください」
なんだろう? そのまま付いて行く。
「ここにある武器は、使用者がいなくて眠っていた物です。気になる物があれば、持って行って構いませんよ?」
使い手のない武器か……。
大きすぎたり、逆に脆く鋭い武器などが並んでいた。
ここで気が付く。魔力を帯びた武器があった。間違いなく魔剣の類だ。
それを取る。僕の背丈くらいの長さの棍棒だった。
「この棍棒を貰っても良いですか?」
「どうぞ、使ってください」
女性が微笑んだ。
◇
さて、今日も肉体労働である。
今日の僕の仕事は、石切場から石を運ぶことである。距離にして約2キロメートルといったところか。
枕木を使用した道があり、その上を背丈よりも大きな石を引きずりながら運んで行く。
普通の人で日に十往復がノルマだったので、今日の僕は十四往復してみた。
その気になれば、三十回とか往復出来そうであるが、道は一本しかないので足並みを乱すのは避けたい。
また、持ち上げて運べるのだが、そんな姿を見せつける意味もないのでやらない。
「新入りの兄ちゃんはすごいな」
仕事の帰り際に不意に声を掛けられた。その方向を見る。
三十台後半の男性だった。たしか、アレックスさんだったかな? 2メートル近い巨体の持ち主だ。
この人が開拓村の土木工事の責任者である。
「器用なことは出来ませんからね。僕の唯一の取り柄ですし、〈怪力〉の見せ所です」
その後、簡単な雑談と食事をして別れた。
自分のテントに入って体を拭く。
一人になると、後悔の念が襲ってきた。ネーナだ……。
仕事をしていると、何も考えることがなかったのだが。
あんな別れ方で良かったのだろうか……。いや、まだ会う方法は残した。短剣を渡した対価だ。
会いに行って僕がビットだと言いたい。それが、ネーナにどんなに迷惑が掛かるかを考えると言い出せないのだが。
いや、単純に勇気が出ないだけである。言いわけだ。
僕は、開拓村に戻って来ることを選んだ。この関所の完成が、〈勇者〉の称号を受けた僕の使命であり、最低限やり遂げなければならないことである。
このペースであれば、後数年で完成するはずである。
関所が完成したら、ネーナに会いに行こう。
待っていてはくれないと思う。僕が生きていることを伝えても迷惑になるだけかもしれない。
それでも、僕が生きていることを伝えなければならないと思った。




