第13話 勇者ロベルト1
◆ロベルト視点
ビットを始末して、数日が経過した。
一応、捜索隊という名目でパーティーを組み、魔境を捜索する。まあ、芝居だが。
とりあえず、魔境に入り魔物を討伐して、開拓村に帰ることを繰り返した。
七日間、本当に無駄な時間を過ごした。まあ、魔物の討伐により食料や素材が手に入ったので、生活が多少豊かになる。
まんざら無駄でもないか。
「ねえ、ネーナ王女様にはどう報告するの?」
イルゼが聞いてきた。
今はイルゼとあばら家で二人きりである。ことが済んで、俺は満足していた。
不意の質問に、働かない頭を回す。
「……ん? ああ、国王様が上手くやるさ。俺達は、七日間捜索して遺品は見つからなかったと報告するだけさ」
「あの王女様が、それで納得すると思う? 〈怪力〉持ちで、癇癪を起こして王城を何度も破壊した話は聞いているでしょう?」
「納得する、しないじゃないだろう? ビットはもういない。ダンジョンで消息を絶って、七日間も戻って来なかったんだ。間違いなく死亡しているよ」
「そうじゃなくて、報復に来るんじゃないかってこと……」
「俺達がダンジョンに入ったことは、誰にも見られていない。せっかくの〈千里眼〉持ちも一緒に始末した次第だ。証拠もないし、万が一来ても、しらを切れば良い」
「そんな単純な考えで良いのかな……」
イルゼは心配性である。しょうがない、不安を解消してやろう。
俺はもう一度イルゼに覆いかぶさった。
◇
ビットがいなくなって十日目。期待の新人が来たと連絡を受けた。このところ開拓村にいる時間が少なかったので、情報が手に入らなかったので知らなかったのだ。
「は~ぁ。期待の新人ね……」
俺以上に期待されている者などいないだろうに。だが、新しいメンバーである。顔と名前を覚える必要があるな。
こればかりは、〈勇者〉の仕事である。
話を聞くと〈怪力〉持ちであり、土木工事が大幅に進展しているとのこと。この開拓村には、人類のトップレベルの人達が生活している。それでも開拓は進まなかったのだ。それを大幅に進展させた?
今一番遅れている場所に来た。そこには林があり樹を切り倒し、根を取り除かなければならない場所であったのだが……。
林は撤去されており、すでに関所の土台を作るための穴まで掘られていた。
ここの開拓は誰も出来なかったと言うのに。どんな奴が来たというのか。興味が出て来た。
更に先の魔境と接している場所に向かう。
そこには、大木を一人で担いて運んでいる大男がいた。
「……ビット?」
独り言がこぼれた。
だが、すぐに頭を切り替えた。明らかに他人の空似だ。ビットは俺よりも小さく、何より細かった。あんな大男ではない。
少し観察していると、土木工事が進展した理由が理解出来た。さすが、〈怪力〉持ちである。
数百キログラムの巨木や岩を難なく運んでいる。地面を掘らせれば、土砂が空を舞っている。そして、魔物が出てくれば、頭を握りつぶしていた。
だが、俺から言わせればそれだけの人であった。体中に傷を作って、手当を受けている。俺達みたいに人の枠を超えた存在ではない。せいぜい開拓村の役に立って貰おう。
少し挨拶だけして終わった。
その後、話すことはなかった。
◇
ビットがいなくなって三十日目。
ネーナ王女様が開拓村に来ると連絡を受けた。しかも、明日来るだと?
開拓村は、大慌てである。とにかく掃除だ。俺はテキパキと指示を出して王女様を向かえ入れる準備を行った。
そんな時に連絡を受けた。
開拓村の責任者である勇者二人で、少し離れた物資の集積所に集まるように命令が来たのだ。
俺は、イルゼを連れてその場所に向かった。
そこには、馬車が止まっていた。
連絡とは異なる。ネーナ王女様は、もう近くまで来ていたのか?
執事と思われる人に案内されて馬車の前で跪く。
馬車から誰かが降りて来た。まだ、頭は上げられない。
そして、頭を棍棒で叩かれた。いや、メイス?
──グワシャ
「へぷ?」
まあ、間違いなくネーナ王女様からの一撃であろう。俺は脳漿をぶちまけて、地面に顔が突き刺さった。噂通りの〈怪力〉持ちだな……。
「ひ、ひぃ~~~~!?」
イルゼは、悲鳴を上げて後ずさりしている。俺は目玉が飛び出ているので見えないが、相当酷い状況だろう。イルゼは、見た目は良いのだが、メンタルが弱いところがある。まあ、そこが可愛いと言えるのだが。
俺は、起き上がり〈超回復:負傷〉により即座に元に戻った。お気に入りの兜は、潰れてしまったので新調しよう。
「王女様におかれましては、ご機嫌麗しゅう……」
──バチコ~ン
二撃目が来た。横撃だ。俺は何もない地面を何度もバウンドして転げ回る。樹を数本なぎ倒して止まった。
また俺は、〈超回復:負傷〉により即座に元に戻り、王女様の元に駆け戻る。
それにしても俺の〈超回復:負傷〉は、ノーリスクではないのだ。今日は大量のカロリーをとる必要があるな。
「ビットのことは聞きました。私に密偵がいるとは思わなかったのかしら……」
血の気が引いた。
密偵だと? 誰かがビットを見守っていた? ならば、ダンジョンに連れて行ったことも知られている可能性が高い。
跪きながら、冷や汗を流す。
「まあ良いわ。あなた達は急いで関所を完成させなさい。ビットのことは、その後にじっくりと聞いてあげるのよ」
「は、はは!」
ネーナ王女様は、馬車に乗り開拓村に向かって行った。王女の護衛と執事は、俺達に冷ややかな視線を向けて来た。
俺達〈勇者〉は、関所の完成後が約束されている。
だが、このままでは何をされるか分からない。最悪、暗殺に怯える生活になるだろう。特に俺は、毒等には耐性がないのだ。
イルゼを見ると、目の焦点が合っていなかった。呆けた表情で座り込んでいる。
俺は、イルゼを落ち着かせるために抱きしめようとしたのだが、拒否された。
「ビットのことは、あなたが命令を受けたのよ。私に責任はないわ!」
その後、責任を押し付ける罵詈雑言を浴びせられた。そればかりか、日頃の不満まで言い始める始末だ。ちくしょう。イルゼは、俺の事をそんな風に思っていたのか。
あんなに愛し合ったというのに……。
もう、イルゼに冷めてしまった俺が、そこにはいた。




