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百物語〜霊感少年の憂鬱な日常〜  作者: 荒瀬ヤヒロ
第四話 「五月雨に濡れるなかれ」
64/67

【21】




 妹は事故死。けれど、町山は犯人が許せない。

 おかしなことを言う上条に、稔達は不信感を募らせた。

 当の上条は飄々と語りを続ける。


「とにかく、妹は事故死なのに殺されたと言い張るから、変だなあと思っていたんだ。そしたら、土砂降りの雨の日に見かけた傘を差していない高校生に、こいつが殴りかかろうとしたんだ。その時は俺が呼んだから我に返ったようだったけど、自分が今、何をしようとしていたかは覚えていなかった」


 町山の喉から呻くような音が漏れた。

 屋根を叩く雨の音が続いている。応接室の中は異様な雰囲気に包まれていた。稔はなんだか嫌な予感がした。今すぐ話を遮って、さっさと警察に二人を引き渡してしまいたい。

 犯人のはずの町山が、何故だか憎めない。稔も、おそらく他の三人も、町山よりも上条の不気味さに背筋をぞっとさせていた。


「高校を卒業して、大学三年の時に、町山のお母さんが俺を訪ねて来たんだ」

「え……?」


 上条の言葉に、稔は思わず声を漏らした。アパートの前で町山と揉めていた女性が脳裏に浮かんだ。


「お母さんは嘆いていたよ。高校の時は家にいても会話もなく、大学に入ったらさっさと一人暮らしを始めて、一度も家に帰って来ない薄情な息子のことをさ。本人に会いに行っても話を聞いてもらえないからって、友人の俺に様子を聞きに来たそうだ。そして、俺はお母さんからそうなった原因を聞いた」

「原因……」


 頭を抱えていた町山が、ぴくりと肩を震わせた。

 上条の話を聞くうちに、頭がズキズキ痛み出した。ここにいる子供達は、町山のことを土砂降り男だと思っている。どうして、そうなってしまったのだろう。


 自分はいったい何をしたのかと考えた時、頭に痛みが走って町山はぐらりと首を傾けた。


 ズキンッ、と鋭く痛んだ後、町山の頭に妹の顔が過ぎった。それを皮切りに、記憶の波が押し寄せてくる。


 小さな妹がいた。町山は高校一年生で、その日は雨が降っていた。

 妹が死んだ日。

 その日、町山は。


「……思い出した」


 町山が愕然とした表情で呟いた。




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