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百物語〜霊感少年の憂鬱な日常〜  作者: 荒瀬ヤヒロ
第四話 「五月雨に濡れるなかれ」
63/67

【20】




***



 ハイエースで迎えに来てくれた大透の家のお手伝いさんにびしょ濡れの男三人を乗せることを謝りつつ、大透の家に送って貰った。

 とりあえず文司と石森を風呂に追い払い、困惑したままの町山には離れのシャワー室を使わせて濡れた服を着替えさせた。

 その間ずっと泰然としている上条を、大透が薄気味悪そうに睨んでいる。稔も、上条の態度があまりに堂々としているので、話しかけづらい。

 それは町山も同じらしく、応接室に戻ってきた彼は得体の知れない笑みを浮かべる上条の前で戸惑いを隠さなかった。


「……上条、いったい何なんだ?」


 町山が尋ねると、上条はにっこり笑って見上げてきた。


「何って、ゲームオーバーだよ」

「ゲーム……?」

「いや、俺もまさか中学生に捕まるとは思わなかったけど。警察より優秀だな君達」


 上条は稔達を褒めちぎった。その時、文司と石森が風呂から上がってきたので、大透が自分の隣に座らせた。

 町山を睨んで、石森が口を開いた。


「コーチが樫塚に殴りかかったのは俺達全員が見ている。アンタが土砂降り男なんだろ?」


 町山は石森の言葉に驚愕して、狼狽えた。


「そんな……俺が、そんなことを……?」

「勘弁してやってよ。こいつは何も覚えていないから」


 町山の代わりに、上条が語り出した。


「こいつはね、土砂降りの日にはちょっと情緒不安定になっちまうの。俺はこいつと高校の時に出会ったけど、その頃から土砂降りの日は様子がおかしかった」


 上条は一度言葉を切って、お手伝いさんが淹れてくれた紅茶を飲んだ。


「……主犯とかゲームオーバーとか、何のことだよ? ちゃんと説明しろ」


 睨む相手を上条に変えて、石森が迫った。

 上条はふっと息を吐くと、言葉を探すように首を傾けた。窓の外では雨が降り続いている。梅雨も終盤、最後のまとまった雨かもしれない。


「そうだなあ、始まりは、こいつが土砂降りの日に様子がおかしくなるって気づいたことだ。あまりに変だからどうしたのか訊いたら、土砂降りの日に妹が殺されたから、雨の日はどうしても思い出してしまうんだって言うんだ。でも、妹の死因は自分で足を滑らせての事故死なんだよ」


 上条がそう言った途端、彼の隣で町山が立ち上がった。


「違うっ! 殺されたんだ! 美優は、殺された……アイツが! 殺した!」


 突然激昂した町山は、頭を掻きむしって喚いた。その豹変に、稔達はぎょっとした。上条だけが、慣れた様子で町山の背中をさすり慰めた。


「お前はそう思い込んでいた。だけど、事実はただの事故死だ。犯人なんかいない」

「嘘だ……だって……」


 町山は頭を抱えたままガタガタと震え出した。


「町山は、犯人が許せなかっただけだよ」


 上条が笑みを浮かべたまま言った。




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