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百物語〜霊感少年の憂鬱な日常〜  作者: 荒瀬ヤヒロ
第四話 「五月雨に濡れるなかれ」
62/67

【19】




 目を開けると、町山と石森がずぶ濡れになって倒れていた。石森はぜぇぜぇと息を吐いている。


「樫塚!」

「無事か!」


 稔と大透が傘を差したままかけてくる。大透は片手に文司の傘を持っているが、稔も片手に開いたままの傘をぶら下げている。石森が放り出して全力疾走したからだ。


「うわ、マジで捕まえちゃったな……」


 稔は倒れた町山を見下ろして、これから面倒なことになりそうだと気を重くした。この後は警察からたっぷり尋問とお小言を食らうだろう。


「……う……」


 町山が顔を上げた。暴れないように、石森が背中を押さえているが、相手は武道家の成人男性だ。とっとと警察を呼んだ方がいい。


「宮城、警察」

「ガッテン」


 大透が携帯を取り出そうとした。


「え? いったい何がどうしたんだい? 君達は……あれ? 石森君じゃないか。これは何事なんだい?」


 町山はきょろきょろと目を動かし、自分の現状が理解できないように狼狽えた。


「何事って……アンタが樫塚を襲おうとしたんだよ!」


 石森が怒り任せに怒鳴る。雨の音のせいで、小さい声はかき消されてしまうので大声で怒鳴りあうみたいな会話になる。


「俺が……っ? いったい、なんのことだ!」

「俺らの目の前でいきなり傘を放り投げて走り出して、こいつに殴りかかろうとしただろうが!」

「そ、そんなことした覚えはない。俺は、校門前で友人に会って、一緒に歩いて……それから、それから……」


 町山は頭を押さえて呻いた。

 いつものように帰ろうとして、校門前で上条と待ち合わせしていて、二人で一緒に歩いていた。ただ、それだけだ。

 それが、気づいたら石森に倒されて、土砂降りの雨で水たまりのようになった道路に這い蹲っていた。

「どうなっているんだ……」と、町山が呟いた時、「あーあ」と誰かの残念そうな声がした。

 振り向くと、傘を差した小柄な青年が、片方の手に開いた傘をぶらぶらさせながら歩いてくるところだった。


「上条……」


 町山は呆然と友の名を呼んだ。上条は倒されて押さえつけられる町山を見て愉快そうに微笑みを浮かべている。

 石森は眉をひそめて上条を睨みつけた。

 町山と上条が一緒に歩いているのを、後ろから見ていた。不意に町山が走りだした時、上条は止めようとしていなかったし、驚いてもいなかったように思う。


「あんたも共犯か」


 石森が硬い声で問うと、上条は軽く笑い声を立ててこう言った。


「まさか。主犯だよ」




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