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百物語〜霊感少年の憂鬱な日常〜  作者: 荒瀬ヤヒロ
第四話 「五月雨に濡れるなかれ」
59/67

【16】




「考えてみたんですけど、最初に被害にあったのは波ヶ城高の生徒、次が俺で、三人目が里舘先輩。他にも傘を盗まれた生徒がいるのに、被害にあったのは俺と里舘先輩だけ」

「おう」


 稔と大透が頷く。


「うちの学校は中等部と高等部の玄関が共同です。傘立ては左右の隅と中央にあるけど、だいたい皆下駄箱に近い真ん中のに入れる。傘を盗んだ犯人の狙っているのが「男子高校生」或いは「身長170以上の男」だったら、傘を差していなくても小さな中学生だったら襲わない。俺は条件に当てはまったので襲われたってことでしょう」


 なるほど。と稔は納得した。


「そうか。高校生を狙っているなら……うちの学校、中等部と高等部の制服も似てるから、土砂降りの日に見たら間違えるかもな。背の低い奴は狙われないんなら、俺や宮城じゃ囮は出来ない」

「……くっそ、成長止まれ樫塚ぁ。成長期で追い抜かしてやるからなぁ……」


 大透が文司に向かって呪詛を吐く。文司は肩をすくめた。


「いや、でもさすがに危ないだろう」


 稔は囮作戦そのものに反対だ。そこまでして犯人を捕まえなきゃいけない義務はない。


「俺達はただの中学生なんだから、警察に任せておけばいいんだよ」

「でも、師匠。もうすぐ梅雨も終わります。土砂降りの日はもうないかもしれない」


 文司がぐっと拳を握り締めた。


「このままだと俺、土砂降りの日が来る度に犯人がどこで何をしているのか気になっちゃいますよ。なんで土砂降りの日にこだわるのかとか、妹の事故死とか、謎がいっぱいでスッキリしないんです」


 スッキリしないのはわかるが、だからとって囮になるというのはいただけない。稔は「危ないから」と諦めさせようとするが、「殴られる前に取り押さえてくれれば平気です」と何故かやる気満々だ。

 稔は大透の耳元に口を寄せ、ひそひそ囁いた。


「意外と言い出したら聞かねえな、こいつ……」

「石森が甘やかしたから、弟属性なんじゃあ……?」


 大透の呟きに、稔は「なるほど」と思った。

 二人がひそひそ話している間に、文司は携帯で来週の天気をチェックして声を上げた。


「月曜日は朝から雨です。この日を逃したらもう土砂降りの日はない」


 携帯の画面を見せられて、月曜日の雨マークと火曜日以降の曇りマークを確認させられる。


「……石森がいいって言ったらな」


 稔は自身で説得するのを諦めて、石森に丸投げすることにした。小学生時代から文司を背に庇い続けた男ならば、親友が危険に飛び込むのを良しとしないだろうと思ったのだ。


 稔の誤算は、石森が予想以上に親友のおねだりに弱かったことである。




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