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百物語〜霊感少年の憂鬱な日常〜  作者: 荒瀬ヤヒロ
第四話 「五月雨に濡れるなかれ」
57/67

【14】



「今日は雨降ってないんだから、何も起きないんじゃねえか?」


 尾行する意味があるのか、と稔が言うと、大透は「んー」と唸った。

 こいつ、もしかしてただ尾行がしてみたかっただけなのでは、と稔は半目になった。


「でもさ、例えば男子高校生をすごい形相で睨んでいるとか、男子高校生の後をつけているとか、そういう不審な行動があるかもしれないじゃん」


 言い訳じみた口調でぼやく大透に呆れるものの、乗りかかった舟だ。今回だけは付き合ってやろう。稔は寛大さを演じてそう考えたが、実のところ稔も今は一人で帰りたくない気分だったのだ。先ほど見た幼児の死の瞬間が脳裏にこびりついている。


 悲劇ではあるが、幼い子供のいる家庭なら、あり得そうな事故だった。ちょっと目を離した隙に、幼子は好奇心で危険な真似をする。普段、大人が蛇口を捻ればそこから水が出てくることを知っているから、自分でやってみたくなった。それだけだ。


(あの子は、なんで俺にあんな光景を見せたんだ?)


 自分がどうやって死んだかなんて教えられても、稔には何も出来ないのに。

 稔は溜め息を吐き、頭を振って死の光景を振り払った。

 稔と大透は一定の距離をあけて町山についていったが、大透が期待するような不審な行動は一切なく、寄り道すらせずに小さなアパートの前に辿り着いた。


「普通に帰宅してんじゃん」

「うん」


 期待はずれと言うべきか安心したと言うべきか、ちょっと複雑な気分になりつつも尾行を切り上げようとした。

 だが、その時、アパートの前に佇んでいた女性が町山に歩み寄った。

 女性に声をかけられるが、町山は無視して通り過ぎようとした。女性がその肩を掴んで引き止める。


「何かもめてる?」


 女性は五十歳くらいで、少し陰気そうな印象を受ける。


「放せよ」


 町山の声が聞こえた。


「来ないでくれって言ってるだろう」

「だってあんた、高校出てから一度も帰ってこないし、電話にも出ないじゃない……」


 女性が涙混じりの声で町山をなじる。


(母親、か?)


 年齢的にもおそらく親子だろう。だが、町山の態度は硬質で、親愛の情を一切感じさせない。母親の方が必死に息子に縋りついている様子だ。


「美優のことで、まだ怒っているんでしょう?」


 母親が言う。


「あれは事故だったのよ。あんたのせいにしたから、母さん達のこと恨んでるんでしょ。でもね、あの時は母さんだって大変で……あっ」


 町山は母親を乱暴に振り切って、後も見ずにアパートの外階段を駆け上がっていった。

 母親は重い溜め息を吐き、諦めたように立ち去っていった。


 一部始終を目撃した稔と大透は、無言で顔を見合わせた。




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