【15】
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連休明けの学校生活を普通に過ごして三日ほど経った後に、みくりが校門前で稔達が出てくるのを待っていた。
「あ、奈村さんの娘」
いち早く気づいた大透が声を掛けると、ランドセルを背負ったみくりはぴょこりと頭を下げた。
みくりは斗越町の小学校に通っているが、授業が終わってからバスに乗ってきたのだと言った。
「あの……私、変なこと言っちゃって。私のお父さんが人殺しなわけないのに」
梨波の影響下から抜け出たみくりは、以前の自分の言動が信じられないようだった。
「なんであんなこと信じてたんだろう。自分でもわかんなくて」
梨波によって、父親を嫌い遠ざかるように操られていたのだ。みくりが悪いわけではない。
「悪い夢を見てたんだよ。忘れな」
大透がそう言って微笑んだ。
みくりは涙に潤む瞳で三人を見上げ、もう一度頭を下げてから帰って行った。
「……奈村さんさ」
「うん?」
「あそこにあった動物の骨全部、ペットの葬儀屋にお願いして供養してもらったんだって。虫の死骸も穴に埋めて、坊さんを呼んでお経を上げてもらったって」
「へえ」
「小野森議員の通夜も葬式も、立派に行われたらしい」
「へえ」
「神社に行って大量に水もらってきたらしいよ」
「へえ……」
大透の情報によると、奈村はすっかり元気らしい。
「良かったな」
稔は心からそう思った。
「……あー、今回は動画撮る余裕無かったなー。次こそは!」
「次なんかねぇよ!」
思い出したように悔しがる大透に、稔は呆れながら言った。
文司は一人、何か考え込むように目を伏せていた。それに気づいて声をかけると、言いにくそうに口を開いた。
「ずっと考えていたんですけど、あの穴にあった虫の死骸、どうしてあんなにたくさん、形が残っていたんでしょう?……あの子が死んで九年も経っているのに」
***
子供達の声が響くグラウンドの上を、カラスが飛んでいく。
カラスは裏山の木にとまり、カア、と鳴いた。
木々の合間から、地面に何かキラリと光るものが見えて、カラスは習性通りに地面に降り立った。
突如、地面から黒い手が突き出てきて、カラスの羽を掴んだ。
カアアッ
暗い森にカラスの鳴き声が響くが、それを聞くものは誰もいない。
カラスはもがきながら、土の中に引き込まれていった。
カラスの姿が土の中に消え、地面の下からぐちゃぐちゃという音がして、やがて、それが聞こえなくなる。
わたしわるくないのに
静かになった木々の間に、うわん、と声が響いた。
わたしわるくないのに
みんながわるいのに
みんながわたしにいじわるするから
わたしかわいそう
わたしかわいそう
だれかきいて わたしこんなにかわいそうなのに
だれかきいて
だれか
だれか
ねえ
第三話・「土の中」 完




