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百物語〜霊感少年の憂鬱な日常〜  作者: 荒瀬ヤヒロ
第三話 「土の中」
43/67

【15】

 ***





 連休明けの学校生活を普通に過ごして三日ほど経った後に、みくりが校門前で稔達が出てくるのを待っていた。


「あ、奈村さんの娘」


 いち早く気づいた大透が声を掛けると、ランドセルを背負ったみくりはぴょこりと頭を下げた。

 みくりは斗越町の小学校に通っているが、授業が終わってからバスに乗ってきたのだと言った。


「あの……私、変なこと言っちゃって。私のお父さんが人殺しなわけないのに」


 梨波の影響下から抜け出たみくりは、以前の自分の言動が信じられないようだった。


「なんであんなこと信じてたんだろう。自分でもわかんなくて」


 梨波によって、父親を嫌い遠ざかるように操られていたのだ。みくりが悪いわけではない。


「悪い夢を見てたんだよ。忘れな」


 大透がそう言って微笑んだ。


 みくりは涙に潤む瞳で三人を見上げ、もう一度頭を下げてから帰って行った。


「……奈村さんさ」


「うん?」


「あそこにあった動物の骨全部、ペットの葬儀屋にお願いして供養してもらったんだって。虫の死骸も穴に埋めて、坊さんを呼んでお経を上げてもらったって」


「へえ」


「小野森議員の通夜も葬式も、立派に行われたらしい」


「へえ」


「神社に行って大量に水もらってきたらしいよ」


「へえ……」


 大透の情報によると、奈村はすっかり元気らしい。


「良かったな」


 稔は心からそう思った。


「……あー、今回は動画撮る余裕無かったなー。次こそは!」


「次なんかねぇよ!」


 思い出したように悔しがる大透に、稔は呆れながら言った。


 文司は一人、何か考え込むように目を伏せていた。それに気づいて声をかけると、言いにくそうに口を開いた。


「ずっと考えていたんですけど、あの穴にあった虫の死骸、どうしてあんなにたくさん、形が残っていたんでしょう?……あの子が死んで九年も経っているのに」







 ***




 子供達の声が響くグラウンドの上を、カラスが飛んでいく。


 カラスは裏山の木にとまり、カア、と鳴いた。


 木々の合間から、地面に何かキラリと光るものが見えて、カラスは習性通りに地面に降り立った。


 突如、地面から黒い手が突き出てきて、カラスの羽を掴んだ。


 カアアッ


 暗い森にカラスの鳴き声が響くが、それを聞くものは誰もいない。


 カラスはもがきながら、土の中に引き込まれていった。


 カラスの姿が土の中に消え、地面の下からぐちゃぐちゃという音がして、やがて、それが聞こえなくなる。



 わたしわるくないのに



 静かになった木々の間に、うわん、と声が響いた。



 わたしわるくないのに

 みんながわるいのに

 みんながわたしにいじわるするから

 わたしかわいそう

 わたしかわいそう

 だれかきいて わたしこんなにかわいそうなのに

 だれかきいて

 だれか

 だれか


 ねえ





 第三話・「土の中」 完




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