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百物語〜霊感少年の憂鬱な日常〜  作者: 荒瀬ヤヒロ
第一話 「白い手」
18/67

【17】



 二度と来たくないと思っていた場所に、この町に戻ってきてそうそうに来る羽目になるとは。

 (みのる)は自分の運の無さをつくづく呪った。


 何度も夢に見た鳥居をくぐり、暗い境内を足早に駆け抜ける。後ろから大透(ともゆき)がきょろきょろしながらついてくる。稔はまっすぐに社務所に向かう。八年ぶりだというのに、迷いなく歩ける自分に些か嫌気を感じながら。


「なあ、なんでここに来たんだ?この神社より波ヶ城神社の方が大きいぞ」


 大透が同じ市内にある別の神社の名をあげる。


「……ここでいいんだよ」


 目的の人物はここにいるはずだ。


「幼稚園の時、俺のお祓いをしてくれたのがここの神主なんだ」

「えっ、マジで?」

「そう。だから出来ればここには来たくなかっ……って、早速デジカメ構えてんじゃねぇっ!!」


 途端にわくわくしだした大透に思わず突っ込みを入れる。こっちは二度とここにだけは来るまいと決意していたほどのトラウマスポットだというのに。


「だいたいお前には緊張感が無さ過ぎるんだよっ!」

「あ、倉井。あそこに人がいる。ほら、神主さんだ」


 どこまでもマイペースな大透が指さした方に目をやると、社務所の前で壮年の男性神職が掃き掃除をしているのが見えた。その姿に見覚えがあって、稔はごくりと息を飲んだ。


「あの……、すいません」


 近寄って声を掛けると、男性は顔を上げて稔を見た。


「……お久しぶりです。昔、ここでお祓いをしてもらった者なんですけど……」


 どこにでもいる穏和な男性そのものといった風貌の男性は、稔を見て眼鏡の奥の目をすいっと細めた。


「あの……」

「……どうやら無事に大きくなれたようだな」


 男性は箒を止めてふーっと息を吐いた。


「よく覚えているさ。あんなものを相手にしたのはあれが初めてだったからな」


 男性は箒を壁に立て掛けると、仁王立ちになって稔を見下ろした。


「それで、今度は何をしたんだ?」








「馬鹿もんどもがっ!!!」


 迫力の大音量に社務所の中がびりびり震えた。

 神妙に俯く稔の横で、大透が耳を抑えてくらくらしている。


「霊が見える振りをするなど言語道断!!そんな真似をするから悪いものに目をつけられるんだ!!」

「そ、それは俺達のことじゃなくて、ここにはいない奴の……」

「黙れっ!!」


 大透の弱々しい反論を一蹴して、緑橋神社の神主ーー黒田元久(くろだ もとひさ)は稔をぎろりと睨み付けた。


「まだ懲りていないのか!八年前にあれほど恐ろしい目に遭い、父や兄まで巻き込みかけたのを忘れたか!」

「………いえ、すいません」


 稔は正座したままさらに縮こまった。


「八年前も今回も、原因は俺みたいなもんで倉井は悪くな……」

「黙れっ!!」


 大透が弁護しようとするがやはり一喝されて黙り込む。稔は深々と頭を垂れて反省を態度で示した。


「……まぁいい。説教は後だ。取り憑かれた本人をここに連れて来なさい」

「はあ……」


 促されて、大透は一応携帯を取り出した。


「でも、繋がるかどうか……」

「大丈夫だ」


 黒田の言う通り、電話はすぐに繋がった


『も、もしもし?』

「あー、石森。無事か?」

『良かった……何回かけても繋がらなくて……』

「今、俺達、緑橋神社にいるんだけどよ。倉井にかわるわ」


 泣きそうな声に安堵を滲ませる石森に、大透は隣の稔にかわろうと携帯を渡そうとした。だが、横から黒田が携帯をひょいと取り上げた。


「そこは取り憑かれた本人の家か?」

『え?』


 突然の大人の声に、石森は戸惑った。黒田は構わずに続ける。


「いいか。取り憑かれた人間の近くに赤い表紙の本があるはずだ。それを持ってこい」

『赤い表紙の本……?』


 石森はちらりと文司を見た。壁に背を預けてぐったりしている文司(ふみかず)は意識があるのかも定かではない。


『その本を持って行けば、樫塚は助かるのか?』

「助かる」


 黒田は力強く断言した。石森はぐっと息を飲み込んだ。


『わかった。探して持って行く』


 決意を込めて立ち上がり、石森は二階へと続く階段を見上げた。


「よし」


 携帯を大透に返して、黒田は立ち上がった。


「準備をする。お前らも手伝え」




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