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百物語〜霊感少年の憂鬱な日常〜  作者: 荒瀬ヤヒロ
第一話 「白い手」
14/67

【13】

 ***




 大透(ともゆき)は前の席に掛かったままの鞄を眺めて首を傾げた。

 鞄の持ち主は部活に所属していないというのに、一向に教室に戻ってこない。掃除の班が同じ奴を捕まえて尋ねると、図書室の方へ歩いていくのを見たと教えてくれた。


(図書室?)


 大透は困惑の表情を浮かべて眉を下げた。本当に図書室にいるのか気になって探しに行った大透が目にしたのは積み重ねられた本に埋まりそうになりながら本の背表紙を睨んでいる(みのる)の姿だった。


「何やってんの?」

「うるさい」


 稔は不思議そうに見つめてくる大透を無視して、本を並べる作業に集中しようとした。


「おっし、こっちの棚は終わり。…お?倉井の友達か?」


 奥の書棚から戻ってきた里舘(さとだて)がめざとく大透を見つけてニヤリと笑った。




 三人がかりで本を並べ終えた時には外は薄暗くなりかけていた。


「やー、助かったよ。一度ちゃんと五十音順に並べ直したいと思っててさ」


 里舘は力尽きてぐったりしている中学生二人に上機嫌で言った。


「他の図書委員は都合がつかなかったり、面倒くさいって嫌がられてさ。ははは」


(だからって図書委員でも何でもない下級生を使うなよ……っ)


 抗議する気力もないので稔は心の中で悪態をついた。


「順番に並べるより先に、図書カード廃止したらどうっすか?」


 大透がジト目で里舘を睨む。


「新しく入ってくる本はバーコード管理になってるよ。元からある本も少しずつ登録してるんだけど、この本の量だからな。なかなか終わらなくて。あ、良かったら手伝ってくれるか?」

「絶対嫌です……あー、もう帰ってもいいですか?」


 さすがの大透も疲れた顔をして言う。


「おう。サンキューな」


 里舘はそう言いながら稔の手に小さな紙片を握らせた。


「?」


 渡された紙片を見た稔は目を丸くした。そこには渡辺和子の名前と住所が記されていた。


「内緒だからな。悪いことすんなよ」


 稔が目線を上げると、里舘は悪戯っぽく笑って手を振った。




 ***




「渡辺和子?」


 図書室を後にして、稔から事情を説明された大透は疲れた顔にさっと喜色を浮かべた。言っていいのかどうかわからなかったが、頭が疲れすぎてもう考えるのが嫌になっている稔は問われるままに「図書室に行った理由」を話した。


「それで、その「寄贈者」が関係あるかはわからないけど……」

「関係あるに決まってんじゃん!やったね倉井。重要な手がかりだ!」


 大透は先程のまでの疲労困憊の様子が嘘のように飛び跳ねた。


「やっぱり倉井は樫塚を見捨てなかったんだな」

「いやいやいや、そういうんじゃなく、ただ夢を無視すると次は竹原に直接乗り込んでこられるかもしれないと思って……」

「それにしても、里舘さんって言ったっけ?面白い人だよなー」

「めっちゃ使われたけどな……」

「よし、渡辺和子の家に行ってみよう」

「だから、俺はそんなつもりじゃ……はい?」


 何か聞き捨てならない流れになった気がして稔は顔を上げた。


「なんだって?」

「だから、渡辺和子の家に行ってみよう」


 大透は同じ台詞を繰り返した。稔は思い切り嫌そうに顔を歪めてみせた。


「行ってどうするんだよ?」

「赤い本について聞くに決まってるだろ」


 大透は当然という態度で言う。ただでさえ疲れた頭がズキズキ痛み出した気がして、稔は額を抑えた。


「あのなぁ、いきなり見知らぬ中学生が訪ねてきて、八年前に寄贈した赤い本について聞きたいことがあります。って、不審にも程があるだろ」


 下手したら学校に連絡される。里舘にも迷惑がかかるし、それは避けなければ。

 大透もそれに思い当たったのか、難しい顔で考え込んだ。


「んー、でも他に手がかりがないしよぉ」

「それはそうだけど……」

「その赤い本が原因だって言うならさ、樫塚と一緒にお祓いした方が良さそうだし……」


 そこまで言って、大透ははたと何かに気付いたように首を捻った。


「そういや、話の中には出てくるけど、赤い本そのものを見たことないな。樫塚が持っているのかな?」


 言われて、稔もそういえばと思った。文司が赤い本を持っている姿を見たことはない。石森も本については何も言っていなかったはずだ。


「明日、二人に聞いてみるか」


 大透はそう呟いてうんうん頷くと、やにわに稔の腕を掴んで走り出した。


「というわけで、「寄贈者」の家にゴー!」

「はあ!?ちょっと……っ」


 稔の抗議を綺麗に無視して目的地を目指す大透の強引さに、稔は「やっぱり話すんじゃなかった…」と後悔した。




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