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ひとりぼっちのマリア  作者: K.G.Gössner & 絲山雨並
3/10

お姫様は女神様の夢を見る。

3.マリアの夢


 その夜、お姫さまは不思議な夢を見た。


 まぶしい、真っ白な光に包まれて、誰かが立っていたのだ。

 それは不思議なことだった。

 彼女は、この世界に、自分以外の人がいるということを知らないのだから、夢の中に、誰か他の人が現れるということは、考えられなかった。


 毎日壁の向こうまで食べ物を運んでくる家来はいたけれども、お姫さまはその人のことを、ただ、足音だけでしか知らないのだから、実は自分と同じような姿をした、同じ人間だということを、特に考えることがなかったのである。


 光の中にその、別の人が現れたとき、お姫さまは最初、自分がいるのかと思った。

 しかしその人はとても大きくて、体も成熟していて、しずかにほほえんでいた。

 しずかにほほえむ、ということを、お姫さまは自分ではしたことがない。けれども、そんなその人の表情が自分に向けられているのを感じると、とても安心して、落ち着いて、優しい、うれしい気持ちになれた。そのほほえみをずっと見ていたくて、彼女は、あたたかい夢の中でただぼうっと動かないで浮かんでいた。


 もう、自分が夢を見ていることも忘れてしまって、ただその中に浸りきっていた。とても満足した気持ちで、ずっとそうしていたいと思った。そして多分、それはそうなるだろう。もうずっと、この明るくてあたたかい光の中で、あのほほ笑みをむけられながら、いつまでもずうっとずうっとそうしていられればいいと、お姫さまは感じていた。


 しかしそうはならなかった。


 目覚めると、また、いつもの場所にいた。彼女一人だけのため、ただそのためだけにある、小さな、足りないもののない、安全なお部屋。


 ベッドのぬくもりの中でまどろみながら、あの光と、あたたかさと、ほほ笑みのことを思い返して長い時間を過ごした。それからまる二日の間、そうしてベッドのふかふかの綿にくるまれたまま、まどろんですごした。


 その間、一回も食事をとらなかったので、家来は喜んだ。


 あのほほえみを、何度も何度も思い浮かべながら、二日の間に、彼女は何度か眠りに落ち、また目覚めて、まどろみ、またあの夢のことを考えた。もう二度と、あれと同じ夢を見ることはなかった。


 もう二度と、その人は彼女の前に現れなかった。


 三日目の朝、目を覚ますと同時に彼女は不機嫌になり、泣き叫んで、ギャアギャアと意味のないわめき声をあげ(なぜなら彼女は言葉を知らない)、枕を力一杯、部屋の真ん中にあるテーブルに投げつけた。テーブルは大きな音を立てて、倒れ、そのはずみで脚が一本折れてしまった。テーブルはもうテーブルではなく、ただの邪魔なゴミになった。


 それからまた、いつも通りに運ばれてくるものをいつも通りに(ただし床の上で)食べ、また何の楽しみもなく眠る日々がくり返された。


 お姫さまは、最近、この絶望にも少し慣れてしまって、前ほど強くイライラすることがなくなっていた。そうしていること以外に、どうやって、もっと嫌な思いをせずにいられるのか分からなかった。実際のところそのおかげで、お姫さまの毎日は、なんとなく、楽なものになった。

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