9 飛びぬけた才能
次の日、僕が集合場所に着くと、そこにはすでにシルフィーがいた。
彼女は僕に気付くと、昨日とは打って変わりやる気に満ちた表情を見せてくれた。
「あら、おはようございます。今日も宜しくお願い致しますわ。」
「あ、はい、おはようございます。…何かあったんですか?」
気になったのでついつい聞いてしまった。
「ええ、あれからわたくしも色々と考えて見まして。そして家族にも力を抜くようにとアドバイスを貰ったのです。ですので今日こそは上手くやって見せますわ!」
どうやら彼女は家族の事をとても信頼しているようだ。
僕だって妹の事は信頼しているし、何かあった時にそう言った人の言葉は本当に心の支えになるんだ。
彼女が家族を大切にしている気持ちも伝わってきて、僕も少しうれしくなった。
それからすぐに全員が集まり、早速ダンジョンに向かう。
シルフィーの成長も気になるけど、昨日も一昨日もほとんど稼ぐことが出来てないから今日は探索を優先し、機会が有ればヒールを使ってもらうということになった。
ちなみに僕たちのダンジョン内での行動を『探索』とよんでいるけども、今していることは主にグレースライムを探して倒し、経験値と魔石を得るのが目的だ。
探索者は皆どんな職業でもレベルが有り、魔物を倒すことで経験値を得て、それが一定値まで貯まるとレベルが上がる。レベルが上がると基礎ステータスが上昇、簡単に言えば強くなる。ステータスの上昇値は夫々職業によって違うけど、ダンジョンを奥へと進んでいくためにはこのレベルが重要になってくる。探索者ギルドでも強さに応じてランクが定められており、さらに分かりやすく色で分けられている。
レベル1から10は灰色、11から20は青色、21から30は緑色。
そう、これは魔物と同じ色だ。つまり自分の探索者ランクの色と同じ色の魔物なら倒せるという指標であり、例えば11階に行きたいならば10階まででレベルを11に以上に上げてから行きなさい。ということになる。
なので僕たちはまずこの1階層でグレースライムを倒しレベルを上げるのを最初の目標に定めているんだ。
まあ、1階層には後もう1種類魔物がいるけど、そいつは1階の中でも後半からしか出てこないから、ひとまずはこの入り口付近をうろうろするのが僕たちのパーティの基本の動きとなる。
レベルが足りずに格上の魔物に挑んで死んでしまった探索者の話もよく聞くし…。僕も皆も帰りを待ってる人がいるから、そんな無茶をするわけにはいかないからね。
入り口付近を彷徨い、ときたま現れるグレースライムを倒して回っていると、とあるスライムを倒した時に魔石だけでなく違うものが一緒に現れた。
「あれ…、こ、これ何でしょう?」
一番近くにいたマリーが気付き、それを持ち上げる。
「これは…スライムゼリーですわね。」
「スライムゼリー?」
「ええ、話によると加工の仕方で様々な物に使える材料になるのだとか。」
「そうですか。しかし、何故今までスライムを倒してもこのアイテムが出てこなかったのでしょう?」
「あ、それはですね…。」
疑問を投げかけるムーランに僕は学校で習ったことを説明する。
魔物は倒すと必ず魔石を落とすが、それ以外にもその魔物にちなんだものを落とすことが稀にある。グレースライムを例に出すと、大体10体から20体倒すと1つぐらいの確率でこの『スライムゼリー』を落とし、さらに100体から200体倒すと1つぐらいの確率で、別のアイテムを落とす。そしてさらに少ない確率で、もっと別なアイテムを落とす。
現在魔物が落とすアイテムとその確立をギルドが解明しようとしているが、非常に確率が低い為未だほとんどのドロップ品は不明らしい。そんな中、暫定的にギルドがランクを決め、情報を探索者に募っている。もし初めての情報であれば当然高値で買ってくれるし、当然そのアイテムも非常に高額となる。
現在10体から20体に1つの確率で落とすアイテムをN、100体から200体に1つの確率で落とすものをUC、さらに少ない確率で落とすものをRとしている。噂ではRよりさらに上のSRやそのもう一つ上のURがあるらしいが、そこまで行くと情報にも規制がかかって一般探索者には情報が回ってこない。ただ、唯一公開されている情報は『グレースライムのみURのドロップ品が確認されている』というものだ。
実物を見たことが無いから本当の話かどうかも分からないが、中にはこのお宝を求めて同じ魔物ばかり倒して回る冒険者もいるらしい。
と、まあ話が脱線したが、今回手に入ったスライムゼリーはグレースライムのNランクドロップ品という訳だ。ギルドで買い取ってもらえば、魔石とは違い若干値段が変動するようだけどグレースライムの魔石の10倍ぐらいの値段で買い取ってもらえる。
「では手に入ってラッキーという事ですね。」
「そうですね。ただ狙って出るものではないので、本当に出ればラッキーぐらいの気持ちで行きましょう。」
気を取り直して探索を続ける。
何度かグレースライム1体や2体と戦闘を行い、そしてついに3体のグレースライムが現れる。
「…!」
シルフィーの目に強い光が灯る。
「じゃあマリー、お願い。」
「は、はい。挑発行きます!」
流石にやる気満々のシルフィーの出番を奪う訳にもいかないので、付与魔法無しで戦闘を行う。
やはりまだ3体相手では全て盾で防ぎきれないようで、一度体に攻撃を食らうも後は問題なく倒し戦闘は終了した。
「ではマリーさん、こちらへ。」
今か今かといった感じでスタンバイしていたシルフィーがマリーを呼ぶ。
「ではみなさん、見ていてください。行きますわよ。」
そして一拍置いた後魔法を放った。
「……ㇶ…ㇽ………。」
一瞬何が起こったか分からなかった。
シルフィーが魔法を唱えた…のだろう。実際にマリーは光を纏い戦闘で負った傷は回復している。
だが今のか細い声は…?
「あ、あれ?今魔法つこうたんよな?」
思わずサミィが聞くと、シルフィーは感極まったような表情で答えた。
「ええ…、ええ!やりましたわ!見て下さいました!?マリーさん!お怪我は治ってますわよね!?」
「え、えっ、は、はいっ!治っています。」
「皆さんも見て頂けましたよね?もうバッチリですわ!」
「あ、あのな、嬉しいのは分かんねんけど、昨日までは普通に声出してたやん?今のちぃさい声は何なん?」
皆の聞きたいことをサミィが代表して聞いてくれた。
「よくぞ聞いてくれましたわ!恥ずかしながら、わたくしは昔からなんでも全力でやらないと気が済まない性格だったんですの。それで昨日家族に相談しましたところ、全力でするのではなく少し手を抜くことを覚える様アドバイスされましたの。とは言いましても、わたくしも手を抜くというのをどのようにすれば良いのかが見当がつかず、一晩中考えましたわ。そして今朝、声を小さくする事を思いつきましたの!」
「なるほど…、確かにシルフィーさんはヒールを掛ける時に非常に気合を入れて魔法を使ってらっしゃるようでしたね。」
「そうなのです!ですので声を小さくすればおのずと『手を抜く』ことが出来るのではないかと考えましたの。」
「まぁうまいこといったみたいやけど、大体どれくらいの魔力使ったかわかる?」
「ええ、このぐらいならば後10回ほどは使えそうですわ。」
「ならうちと同じくらいやな。そのくらいなら移動の間に十分回復もすると思うで。」
「本当ですか!?よかった…これで皆さんのお役に立つことができますわ。」
手段はどうであれ、自分で考えて解決策を探し、結果上手く行ったのだからパーティとしては文句は何一つないし、今回の件は彼女の成長にも大きくつながったと思う。それに、逆に考えると、魔力の込める量の調節を自在にできるようになれば彼女の大きな強みになる。聞いた話ではそんなことが出来るのは上級の探索者の1握りらしいので、考え方によっては彼女は非常に飛びぬけた才能を持っているとも言える。
「おめでとうございます。これでよりパーティが安定しますね。」
「ありがとうございます。これからはどんな怪我もわたくしにお任せですわ!」
「はい、頼りにしてます。では次からは戦闘中にヒールを掛けてくださいね。」
「………え?」
次の戦闘にて
「……ヒ、ヒール!」
魔法は無事マリーに届き、たった今できたばかりの傷を癒す。しかし魔法を打った当の本人は…。
「くっ、魔力を半分近くも使ってしまいましたわ…。」
その才能が開花するのは、まだまだ先の話。




