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ダンジョン都市  作者: ノジー・マッケンジー
8/12

8 シルフィー

結局、シルフィーが動けるようになるまでその場で休憩することになった。


魔力は時間と共に少しづつ回復していく。それはこのダンジョン内が魔力に満ちているからだと言われている。動いている間でも少しづつ回復はするが、こうやって休憩をした方がより回復速度が速くなるらしい。ダンジョンの外でも、十分な休養(一晩の睡眠等)を取れば回復するそうだ。

シルフィーが倒れた理由は、急に魔力を使い過ぎた時に起る症状の為だと思う。魔力は全部使いきったところで、強い疲労と倦怠感を感じるが倒れるほどではない。しかし、自身の最大魔力の半分以上を一気に使用すると、魔力を使い果たした時とは比べ物にならない程の疲労感を感じるとの事。今回のシルフィーの場合は、一気に半分以上の魔力を使用したのと魔力を使い果たしたのが同時に起り、倒れるという結果になったようだ。


僕自身がまだ魔力を使うスキルを覚えていないから、全て『らしい。』としか言えないけど、魔法を使うサミィやムーランが言うにはそういう事らしい。


「ううぅ…、みなさま申し訳ありませんわ…。」

「いやいや、大丈夫ですから、今は回復するまでゆっくり休憩しましょう。」


昨日までは回復魔法を必要とする機会が無かった為、今のが初の回復魔法だったわけだが、ようやくやってきた自分の出番に気合を入れ過ぎたのかもしれない。その分落ち込みようが酷い。いつもの自信満々の顔はなりを潜め、落ち込んだ表情で謝罪を繰り返すシルフィー。

皆も励ましの言葉を掛けるが、彼女の顔色が明るくなることは無かった。


しばらくして、シルフィーが歩けるほどに回復したので探索を開始しようとすると、サミィからマッタがかかる。


「シルフィー、あんた魔力は全回復したん?」

「いいえ、まだですけれど…、ですが歩けるほどには回復しております。これ以上皆様に迷惑はかけられませんわ。」

「ほうか…。」


少し考え込む表情の彼女に疑問を持ち問いかけてみる。


「どうしたんですか?」

「ん?いや、ちょっと気になってな…。もしかしたらいっぺん帰った方がええかもしれんよ。」


サミィの言葉に不穏な物を感じ、僕はその言葉に従うことにする。


「皆、サミィさんの言う通り、ここは一回出直そうと思うんだけど…、どう思いますか?」


僕の言葉にシルフィー以外は同意してくれて、一度外へと戻ることになった。

唯一シルフィーだけが反対をしていたが、自分の為にパーティに迷惑をかけていると思っているが故の言葉のようだった。




ダンジョンからギルドへ戻り、いつもの席に皆で座る。

入り口の近くでウロウロしていたので、まだお昼にもなっていない。

皆が落ち着いたのを見計らって、僕は今サミィに話を振る。


「で、サミィさん、気になる事って何ですか?」


彼女が「気になることがある」と言ったのが一度ダンジョンから帰って来た理由なので、僕の言葉にみんなの視線がサミィに集中する。


「あー、えっとな。うちもまだよう整理できてへんのやけど…。」


そう前置きをしてサミィは話始める。


「さっきシルフィーが魔法使って倒れたやん?最初は最大魔力が少ないんかなって思っててんけど、そうやとしたら休憩中に魔力が全回復しないんがちょっと気になってな。」

「それは…そんなにおかしい事ですか?」


ピンとこないみたいで、ムーランがそう問いかける。


「おかしいというか…、その、うちも魔法使ってたやん?で、うちは休憩中に魔力が全部回復したんよ。せやから、あれ?って思って。」

「ああ…、なるほど。」

「…どういうことですの?」


僕も学校で習ったことをサミィの話の補足としてみんなに話す。


「基本的に最初期に使える魔法は、どの職業も使用魔力にそこまで差が無いと言われてるんです。」


例えば火魔法使いが最初から使えるファイヤーボールも、治療師のヒールも、付与士のアタックアップも、使用魔力はほぼ同じと言われている。

ちなみに今話題になっている魔力を始め、個人の能力を数値化した物、所謂ステータスと呼ばれるものを確認する方法も有りはするが、その方法はギルド所有の測定器を使用する必要があり、使用の為にはそれなりのお金が必要となってくる。さらに魔力に関しては本人がなんとなく現在の自分の魔力を感じ取れる為、残り魔力の管理は本人任せとなっていることが多い。



「だから、ヒールを一回使ったシルフィーさんと、それまでに何度か付与魔法を使っていたサミィさんを比べると、シルフィーさんの方が先に全回復してもおかしくない筈なんです。」

「た、確かにそうですね。」

「もしシルフィーさんの魔力が先に全回復していたとしたら、それはシルフィーさんの最大魔力が非常に少ない、分かりやすく言うとヒール1回分の魔力しかないということになります。でも今回シルフィーさんの魔力は全回復していない。となると、何か別の理由があるということになります。」


話の内容が自分の事で、さらに明るい話ではない為シルフィーの顔はどんどん曇っていく。


「僕も少し聞いただけなので詳しくは知らないんですが、上級の探索者には魔力の込め方に強弱を付けることが出来る人もいるみたいです。例えば普段ヒールに使う魔力の2倍から3倍くらいの魔力を込めてヒールを使う事で、普通に使うよりも回復量を上げることが出来るらしいです。」

「ということは、シルフィーさんも同じという事でしょうか?」

「それは分かりません。ですが、今の状況で考えれるパターンは4つになります。」


僕は指を1本づつ立てながら言う。


「1つ目はシルフィーさんが魔力を込めすぎてしまっている。2つ目はサミィさんが魔力を込める量を少なくしている。3つ目はシルフィーさんの魔力回復速度が遅い。4つ目はサミィさんの魔力の回復速度が速い、です。」


サミィは自分の名前が出てくるとは思ってなかったみたいで、少し驚いたような顔をしていたがすぐに納得したようだ。


「現状で考えられるのはこの4つですが、僕としてはおそらく1つ目の可能性が一番高いと思ってます。」

「わ、私もそう思います。私も挑発スキルを使用するときに魔力を少し使いますが、今の話を聞くと私の回復速度とサミィさんの回復速度はそんなに差が無いと思いますし…。」

「せやね、うちもそう思うわ。それにいくらレベル1やゆうても、ヒール1回分しか魔力が無いなんて聞いた事ないし。」


次々に意見が出て、結局今の段階では1つ目のパターンが最有力となった。

しかしあくまで話し合いのうえでの結論であり確かなものではない。かといってギルドの測定器を使うにはお金が足りない。それならば実際に試してみるしかないと決まり、シルフィーの魔力が全回復するまでしっかり休憩をとった後、再びダンジョンの中に入ることになった。





「それではみなさん、宜しくお願い致します…。」


やはりまだ沈んだ顔のシルフィーに、何とかしてあげなければという使命感が生まれる。


「じゃあマリー、お願いするね。」

「は、はい。頑張ります。」


今回行う方法は、マリーがわざと魔物の攻撃を受けてダメージを負ったところにシルフィーが回復させるというものだ。

基本、回復魔法は怪我を負っていない人には使ってはいけないとされている。健康な人に回復魔法を使用すると逆に体がダメージを受けてしまい、そのダメージは回復魔法では直すことができず、治療方法は安静にするのみと言われている。とはいえ、1度で深刻なダメージを受けるわけでは無いので、探索中1度や2度は経験がある探索者も多い。しかし体が資本の探索者にとって余計な心配を増やす必要も無いので、できるだけ避ける様にとギルドから指導されている。なので学校で回復魔法について習った時も、実際に魔法を発動する所を見たことが無かったのだ。

しかしそうなってくると、今回の場合は盾士がわざと傷を作る必要がある。

何とこの作戦を最初に言いだしたのは、他でもないマリーだったのである。

最初は皆で止めようとしたが、本人の硬い意志に皆が折れるという形になった。


…つい2日前はグレースライムから逃げ隠れていたのに、こんなに立派になって…。


なんとなく年頃の娘を持つ父親のような心境になりつつ、スライムに向かって進むマリーの背中を見つめる。


「なんか顔が老けて見えんで?」

「…うるさいですよ。」


サミィの言葉をスルーしつつ、僕もスライムに向かって走り出した。

マリーが盾では無い所で1度攻撃を受けたのを確認してスライムを倒す。

どうやら今の僕の力では、付与魔法がかかっていなければスライムを倒すのに2発必要なようだ。完璧に捉えることが出来れば1発で倒すことが出来るが、動いている相手に狙って出すことはまだ難しい。


と、自分の事はとりあえず置いておいて、ここからが本番だ。

先ずはレミが辺りに何も危険が無いかを確認し、みんなでシルフィーの元へ集まる。


「で、では、い行きますわよ。」

「ちょっとっ待って。一旦深呼吸して落ち着いて下さい。」

「せやで、今のままやとまた一緒やで。」

「そうですね。少し落ち着いてから始めましょう。」


皆からストップが入り、一旦深呼吸してもらう。


「僕は魔法を使えないのでどんな感じか分かりませんが、とりあえず出来るだけ使用する魔力を少なくするイメージで魔法を使ったらいいんですかね?」

「そうですね。おそらくシルフィーさんは全力で魔法を使ってらっしゃると思いますので、出来るだけ節約するイメージで使えばよいかと。」

「む、難しいですわ…。」


しばらくイメージが出来ずにうんうん唸っていたが、やがて覚悟を決めたのかマリーの前に進み出る。


「では、行きますわ!」

「は、はい!」

「……ヒール!」


前回と同じようにマリーの体を光が包み、スライムから受けたダメージは消えていった。

そしてシルフィーを見ると、そこには前回と違いきちんと2本の足で立っているシルフィーの姿が。


「や、やりましたわ!」


若干疲れの見える顔でそう言った彼女にサミィが問いかける。


「やったやん!で、今の残り魔力はどんくらい?」


喜びの表情もつかの間、真顔に戻った彼女は声のトーンも下がっていた。


「…半分…の半分くらい…ですわ。」


半分以上魔力を使用しているということは、今もかなりの疲労感を感じているはずだが…。

よく見ると彼女の額からは汗が流れ、必死で倒れるのを耐えているようにも見える。


「…少し休憩しましょうか。」


前と比べマシになったとはいえ、まだまだである。

休憩するついでに魔力の回復速度を比べようと提案が有り、サミィに付与魔法を何度かかけてもらい、二人の回復速度を検証したが、大きな違いは無かった。

となると、前回のように倒れなかったことから、みんなで話し合った1つ目のパターン、『魔力の込める量を調整できる技能を持つ』のがほぼ決定事項となった。



それからマリーの希望も有り(本人が譲らなかった)、何度か練習を重ねる事と成った。

魔法を使っては休憩し、回復したら又魔法を使う。

何度か繰り返すうちに段々使用魔力も少なくなっていき、最終的に『1回のヒールに使用する魔力が最大魔力の半分ぐらい』までになった。

しかし、その練習に時間を費やしたおかげで、今日の稼ぎはグレースライムの魔石が12個。昨日と全く同じ額となってしまった。



明日も同じ時間に集合するよう伝え、今日はこれで解散となった。

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