6 サミィ
夜。
一度家に帰り妹のルーと一緒に夕飯を食べた後、僕は夜の街をぶらついていた。元々一人でぶらつくのも好きで、たまにこうやって目的も無く散歩している。今日もまたそんな気分になり一人ふらふらと歩いていると、そろそろ店じまいを始めている屋台の中に見知った後姿を発見した。
「サミィさん?」
「ん?ああ、リーダーやん。どしたん?こんなところで。」
「いえ、少し散歩をしていたら姿を見かけたので。」
「あ、そうなん。ウチは今夕飯食べたとこ。っと、おっちゃん、御馳走さまー!」
「アイよー」っと奥の方から声が聞こえたのを確認し、サミィと共に屋台から離れる。
「で、どうする?せっかく会ったんやし、少し話でもしてく?」
「……そうですね。せっかくですし、僕も聞きたいことが有ったので。」
「せやろな…。ほなあっちの公園で話しよーか。」
そう言って彼女は道の向こうにある公園を指差す。
おそらく、彼女も僕が聞きたいことを理解しているのだろう。彼女の言葉に頷き、一緒に公園へと足を向けた。
屋台が立ち並ぶ道を通り過ぎて街灯も徐々にその間隔が広くなり段々人もまばらになっていきた頃、僕たちは公園へとたどり着いた。先程の賑やかさが嘘のように静まり返りった公園を見渡すと、木の陰や街灯の無い暗がりで数名のカップルがイチャついている。
少し恥ずかしくなり、目のやり場に困っていた僕の手を突然サミィが握り、「こっちや。」と、端の方にあるベンチへと連れていった。
成されるがままになった僕はサミィに言われベンチに腰掛けると、彼女も同じように僕の横に座りふぅっと一息つき、悩ましげな顔でボソッと呟いた。
「…こうやってると、うちらもカップルに見えるんかなぁ?」
「ぶふっ!!」
彼女の言葉に僕は思わず吹き出してしまう。
「ぷぷっ、動揺しすぎやん。」
僕の様子に突っ込みを入れるサミィ。
恥ずかしさで真っ赤になってしまった顔で彼女をにらむと、悪戯っぽい顔で舌をペロッと出し謝ってくる。
「ゴメンゴメン。あんまり恥ずかしがっとるようやったからちょっとからかってみてん。」
その仕草と可愛さに思わずクラッときて、からかわれたことに対する怒りが飛んでいきそうになるけど、頭をブンブント振って何とか平静を取り戻す。
「あ!なんや面白ないなー。もうちょっとからかわせてくれてもええのにー。」
「…そんなこと言ってたら本題に入れませんよ…。」
若干疲れた顔で非難すると、先程までと表情を変え苦笑しながら「そうやな…」と一言。
多分彼女なりに場を和ませてくれようとしたのかもしれない。
「じゃあさっそくですが本題に入ります。サミィさん、あなたが抱えている問題は一体何でしょう?」
カップルたちに気を取られていたのは確かなので心の中でサミィに感謝し、意を決して話を切り出す。
「あー…、やっぱその事やんな…。」
彼女も予想していたのだろう。特に慌てたりする事無く呟く。
これまでの様子を見る限り、サミィの性格や言動ははダンジョン探索においてほぼ問題はない。常に周りを警戒し、みんなのフォローをしてくれようとしているのは目に入っているし、おそらく僕なんかよりも、いや、メンバーの中で一番全体が見えている。今思えば一番最初にダンジョンに入った時も、半数が初心者だという事も在り、メンバーの力…と言うより僕の実力を見定めようとしてたようにも思える。今日の探索に於いても、レミの分かりにくい報告に真っ先に気が付いていたのは彼女だった。それだけ視野が広く、メンバーのフォローをしてくれている彼女だが、ただ一点。なぜか付与魔法をかける時だけ失敗してしまう。彼女の性格上わざととは考えられないし、そこには何か大きな理由があるんじゃないかと思ったんだ。
サミィはしばらく考えていたようだったが、やがて覚悟を決めた表情でその理由を答えてくれた。
「実はウチ…、魔力音痴やねん。」
魔力音痴。
正式名称は違うが、分かりやすいという理由で一般的にこの言葉が使われている。
魔法使い・付与士がかかると言われている病気の一つで、簡単に言えば魔法を掛ける対象がうまく定まらないという病気だ。普通の魔法使いや付与士ならば狙った場所や魔物、又は人へと飛ばすことが出来るが、魔力音痴の場合、どれだけ本人が右と思っていても魔法は左へ飛んでしまう。その為、魔法使いならば攻撃魔法が魔物ではなく味方に、付与士なら能力上昇魔法が魔物に、能力下降魔法が味方へと掛かってしまう可能性が非常に高く、メンバーに多大な迷惑をかける事と成ってしまう。
だがこれまでも多くの魔法使いや付与士がこの病気にかかり、研究は重ねられ、今ではその治療法がほぼ確立しているとも言われている。しかしその治療を受けるにはそれなりのお金が必要で、いくら探索者でも10階層にすらたどり着いていない者ではとても払える額ではない。その為、探索者の資格を取ったは良いが、サミィのように病気が発症した人間が魔法使いにでもなろうものなら、一度の探索で探索者人生に幕を下ろさなくてはいけなくなってしまう。
「ごめんな、ウチも言わなって思ってたんやけど、中々言い出せへんくって…。」
話を聞けば、どうやら彼女は始めてダンジョンに入った時に魔力音痴な事が判明し、その後すぐにパーティから追放されたらしい。そしてどうしようかと悩んでいた時に僕のパーティ募集があった為、ついつい応募してしまったらしい。付与士の場合、魔力音痴は魔法をかける対象が不安定になるとの事で、直接相手に触れた状態で魔法を使えば上手く行く為、何とかごまかせないかとも思っていたようだ。
全てを話した後、サミィは寂しそうな表情で謝ってきた。
「ホンマにごめんな…、みんなを騙すような真似して…。」
「そうですか…、つらい事なのに喋ってくれてありがとうございます。」
「いやいや、なに言うてんの。悪いのはうちやん。……でも、バレてもうたからにはもうみんなに合わす顔も無いし、ゴメンやけどウチもうパーティから抜けさせてもらうな…。」
そう言って立ち上がったサミィだったが、すかさずその腕を僕が掴んだせいでバランスを崩し、再びベンチへと戻ってくる。
「…ちょっと、離してくれへん?」
「ダメです。今離したらサミィさんパーティを抜けるつもりでしょう?」
「さっきも言うたやん。うちはみんなを騙してた役立たずやって。何があったかしらんけど、マリーやってたった1日でものすごぉ成長してたやん。きっと他のみんなやって知識が無いだけで伸びしろはぎょうさんあるはずやし。…そんな中にうちがおったって惨めになるだけやん…。」
確かにサミィの気持ちが分からないでもない。
自分はこのまま病気を抱えたまま。対するパーティメンバーは、きっかけがあればマリーみたいに飛躍的に成長する可能性が有る。最初は皆同情も有り一緒にパーティを組んでくれるかもしれないが、階層が進めば進むほどお荷物になってくる。
劣等感や周りに対する申し訳なさ。自分がその立場になったと思うと確かにキツイ。でも…、
「役立たずかどうかはリーダーの僕が決める事です。自分の勝手な考えでパーティを抜けないで下さい。そっちの方がよっぽど迷惑です。」
僕は彼女の顔を正面から見すえて、はっきりとそう言った。
「正直に答えて下さい。今の僕たちのパーティで、本当にあなたは必要ないと思いますか?」
正直な所、今現在パーティの為に一番考えて動けているのはサミィだと思う。
マリーや僕は自分の事で精いっぱいだし、シルフィーは同じく初心者。ムーランは前回の様子を見るとまだまだ周りを見る余裕はなさそうだし、レミはよくわからない。唯一サミィだけが、パーティ全体を見れていると僕は思っている。
どんなパーティでも視野が狭ければお先真っ暗である。一人でも広い視野の人間がいればそれだけで今までになかった意見も出て、パーティ全体が成長する事が出来る。今のサミィの役割は、付与士としてサポートしてもらうのは勿論の事、その広い視野でパーティ全体のフォローをしてもらう事。探索2回目でそれが出来るということは、天性の才能が有るのだろう。それにやはり今のパーティで彼女の変わりが出来る人間なんて他にいない。
「…でも……。」
本人もそれが分かっているからか口ごもってしまう。僕の言いたいことも分かるが付与士として役に立ててない現状、みんなを騙していた後ろめたさ等が混ざり素直に頷けないのだろう。
「僕は回りくどい事が好きではないので、単刀直入に言いましょう。あなたは僕たちのパーティに必要な人間です。付与士としても触れていれば魔法音痴は関係ないですし、戦闘前に事前にかけておけば何も問題ないです。少なくとも10階層、20階層に着くまでは他のメンバーがサミィさん程視野を広くすることは難しいと思いますし、そのくらいになれば魔法音痴の治療代も貯まるでしょう。パーティリーダーとして、その程度の事であなたを失う訳にはいきません。だから…、あなたがパーティを抜けるのを僕は決して認めません。…勿論、あなたが僕たちに愛想を尽かせてパーティから離れたいというのであれば、それを止めるつもりはありません。それは単純に僕たちの実力不足ですし、それに僕も居心地の悪いパーティにずっと引き留めるような人間にはなりたくないですし。でももしそうでないとしたら、僕は全力であなたの事を引き留めます。…僕たちにはあなたが必要なんです。」
僕の心からの思いを彼女にをぶつけ、数秒間お互いに目を逸らすことなくじっと見つめ合う。そして…
「………ふぅ。そないに熱く言われてもうたら、断るなんてでけへんやん…。…ええよ、わかった。あんたの気持ちはよう伝わった。せやけどちょっと一晩考えさせてくれへん?」
彼女の言葉に無意識に表情がこわばる。
「ああ、ちゃうねん。別にパーティに残るのは決定やで?ただ、うちもここですぐに『うんええよ』って気持ち切り替えれるわけでもないし…ちょっと気持ちの整理したいんよ。」
一瞬、一晩考えたけどやっぱりパーティ抜けます。何て言われたらどうしようかと思ってたけど、どうやらそう言うわけではないようだ。
パーティに残ってくれるなら僕としては問題ないし、本人の心の整理も必要だろう。
「本当ですね?本当ですよね?明日もちゃんと来てくださいよ?」
「わかっとるって、心配せんでもちゃんと行くって。」
僕はまた明日、いつもの場所にちゃんと集合するように念押しをして帰路に就いた。
~サミィ視点~
「…ふぅ。」
少し熱くなった頬に夜風が気持ちいい。
(あの子、あんな表情もできるんやな…。)
思い返すのは先ほどまで一緒に話をしていた男の子。自分より少し年下だけどしっかりとしており、ちゃんとパーティリーダーを務めている。
第一印象は若干頼りないように思っていたが、いざ一緒にダンジョンに入ると、その知識や気配りには目を見張るものが有った。しかし、剣士という職業が似合わないと思えるぐらいにはヒョロッとした体つきで、本当に前衛で大丈夫かと少し心配もしていた。
(男の子の顔…やったな…。)
だが、先程自分を正面から見つめ本心からぶつかってくれた彼は、少年と呼ぶには失礼な、大人の男の顔をしていた。
(…うちとも歳がそう離れとるわけでもないし、それなら……って、何を考えてんねんうちは!)
ふと、将来自分の横に寄り添って歩く彼の姿を想像し、赤くなった顔をブンブンと振るう。
(…にしてもあの子、天然のタラシの才能あるなー…。マリーやって多分あの子と何かあったんやろうし…、こりゃハーレムパーティになる日も近いか?)
そのハーレムの中に意識的に自分を入れないようにしつつも、家にたどり着くまで頬の熱がとれないサミィであった。




