2 ルー
「ただいまー。」
家の扉を開けると、中からバタバタと元気な音が近づいてくる。
「あ!おかえりなさい、お兄ちゃん!」
「うん、ただいま。」
「ねえねえ、どうだったの?職業なんだった?」
「そんなに焦らなくてもちゃんと話すよ。ほら、先に中に入らせて。」
「あ、そうだね。じゃあどうぞどうぞ、ずずいっと中に。」
苦笑しながら扉を閉めて家の中に入る。
この元気なのは僕の妹で名前はルールー。僕はルーって読んでいる。
年は僕の二つ下で13歳。元気だけが取り柄と言わんばかりにとても元気な子だ。
3年前に両親が他界してから今日まで2人で暮らして来たんだ。
家の中に入るともう待ちきれないといった様子のルー。
「で、職業は何になったの?」
「うん、剣士だったよ。」
「おお~!」と大げさにリアクションしてくれるルー。
その姿に癒されつつ話を続ける。
「ただパーティは募集している人も応募している人も居なかったから、募集者として登録だけしてきたよ。また明日確認しにいかなくちゃ。」
「そっかそっか。良い人きてくれるといいねー。」
「そうだね。ちょっとドキドキだね。」
その後も、今日あったことを話しているうちに外はあっという間に真っ暗になっていた。
「あ、もうこんな時間だ!ご飯の準備しなきゃ!」
そう言って夕飯の準備に取りかかるルー。
「手伝おうか?」
「いいよ、お兄ちゃんはゆっくりしててー。これから一杯稼いでもらうんだからね!」
冗談目かして言うルーに甘え、夕飯ができるまでゆっくりさせてもらおう。
ちなみに今僕たちは二人暮らしだけど、この国では身寄りのない15才未満の子供には国からお金がもらえることになっている。
理由は、その方が国の利益になるからだそうだ。
この国では15才から大人とされ、みんな様々な仕事をしているけど、その中で子供に人気な職業ナンバーワンはダントツで探索者なんだ。そしてダンジョンは資源の宝庫だから、国としては探索者が増えるイコール国益が上がるってことらしい。ちなみにダンジョンを管理してるのも国だ。
ダンジョンから取れる資源の中で一番重宝されているのは『魔石』だ。魔石には様々の使用用途が有り、今僕たちが家で何気なく使っているこの灯りや、水だって魔石のおかげで使う事が出来ている。他にも武器屋防具に組み込むことで特殊な装備品が出来たりするらしい。難しい話はよく分からないけど、偉い人の話では『魔石とは純粋なエネルギー源である』らしい。魔石がたくさん取れれば取れるほど人々の生活は潤い、国も潤うんだって。ダンジョン内の魔物は倒すと必ず魔石を落とすから、だから国としては魔物と戦える探索者をたくさん増やしたいみたい。
そういった理由から、将来の探索者を少しでも増やすために国をあげて子供たちの補助をしてるんだって。他の国では、親のない子供が生活できずにスラム街のようになってる場所もあるらしいけど、そう考えればこの国は治安もよくて、ほとんどの子供が不自由ない暮らしをしている。
例外は、親がいるけどその親が仕事をしていなかったりお金がなかったりするパターンだね。
僕たちは両親が他界していて他に身寄りもおらず、2人とも15才未満だったから今までは子供二人が不自由なく暮らせるだけのお金をもらってたけど、今日からは僕が15才になり大人と同じ扱いになる。
つまりルーの保護者と見なされるわけだ。
本来なら今日から国の支援は無くなるけど、僕たちのようなパターンの時には流石にすぐに生活ができなくなるのが目に見えているから、特例で一年の猶予が与えられることになっているんだ。具体的に言うと、昨日までは子供二人分の金額を貰えていたけど、今日からは妹1人分の金額だけになる。そして1年後は補助金が一切もらえなくなってしまう。
国が定める補助金の金額が【一人目は50000G。2人目以降は25000G(一月当たり)】となっている為、今まで75000G貰えていたのが今月からは50000Gとなる。そして来年からはこれが0Gになってしまうので、この一年間で何とか探索者として稼げるようにならないといけないんだ。
ちなみに、2人目以降が半額な理由は『同じ家に住んでいる場合灯りや水を使う為に必要な魔石代が2人目以降には必要ない』からだそうだ。
とにかく、先ず目標は早いうちに今までと同じ生活が出来るよう、月に25000G稼げるようになること。そして1年のうちに月75000G以上稼げるようになることだ。
ご飯を待ちながら気を引き締直していると、料理を盛った皿を持ったルーがやって来た。
「あ、また難しいこと考えてたでしょ?眉間にシワが寄ってたよ。」
「げっ、ホント?」
思わず眉間を手で揉みほぐす。
「気を付けないと痕になっちゃうよ。」
「う、うん、気を付けるよ。」
ルーと一緒に夕飯を食べ、お風呂に入って就寝。
魔石のお陰で一般の家でも毎日お風呂に入るなんて贅沢が出来るんだよね。
これもみんな探索者の先輩方がたくさんの魔石を取ってきてくれるからだ。
僕も新米探索者として頑張っていかないと。
……でもそんな思いとは裏腹に、明日からの事を考えると中々寝つけず、悶々とした夜を過ごすこととなってしまった…。
次の日、予想通りルーから目の下のくまを指摘されつつ朝御飯を食べ、若干の不安を感じながら探索者ギルドへと向かった。
「おはようございます!あれからパーティ希望の方が何名か来られましたよ。」
僕の顔を見るとすぐに受付のお姉さんが教えてくれた。
「本当ですか!?」
「ええ、丁度今全員この施設内におられますので、お呼びだししましょうか?」
「はい、是非お願いします!」
まさか登録して次の日に見つかるとは思わなかった。
それにお姉さんは『何名か』と言っていた。僕の中では希望者が現れるのも下手すれば数日掛かるかもと思っていたので、たった1日で複数名現れるなんて…、日頃の行いが良かったんだろうか?
あ、でもまだどんな人かわからないし、話をしてみて合わなそうな人ならお断りしないと行けないな…。
それに職業が武器士なら僕と被ってしまうから、確実に断らないといけないけど…募集者のところに剣士って入れてもらったから、流石に武器士は来ないか。できればまず盾士かスカウトあたりを確保したいなぁ。
……欲を言うなら可愛い女の子…って、そんなうまい話は無いか。大体、探索者を希望する人たちだからムキムキマッチョの男の人が多いし。
そんなことを考えつつ、一体どんな人か来るのかドキドキしながら待っていると受付のお姉さんが帰ってきた。
…後ろに女の人が5人ついてきてるけど…まさか…。
「お待たせいたしました。昨日の登録されたパーティメンバー募集に対して希望されたのがこちらの5人です。」
お姉さんの後ろにいる人たちを見て僕は固まってしまった。
輝くような金色の髪に意志の強そうな目をした女性。健康そうな褐色肌でショートヘア―が良く似合うボーイッシュな感じの女性。少しおどおどしているようだが透き通るような白い肌の女性。小柄でマフラーで口元を隠しているけど、吸い込まれそうなほど深い赤色の目をした女性。そしてこの辺りでは珍しい真っ黒な長い髪の女性。
みんなそれぞれタイプは違うけど目鼻立ちは整っており、街を歩いていると必ず声を掛けられるであろうほど綺麗な人達だった。
こ、これじゃあ別の意味でもドキドキしちゃうよ…。
「それではお互いに話をしていただいて、パーティを組まれるかどうか決めてくださいね。」
そう言うとお姉さんは受付へと帰っていってしまった。
(ええ!?間を取り持って何か説明してくれるとか無いの!?)
1人焦る僕を他所にさっさと受付に戻っていくお姉さん。周りには僕をじっと見つめる10の瞳。…今までの人生の中で、こんなに注目を集めた経験なんてしたことが無い。
「(……ど、どうしよう。と、取り敢えず何か喋らないと…)じゃ、じゃあ、取り敢えずあっちの席に座って、じ、自己紹介をしましょうか。」
何とか声を絞り出し、彼女たちを席へ促すことに成功する。
さっきまではどんな荒くれがやってくるかと内心ビクビクしていたのに、こんなことになるなんて想像もつかなかったよ…。
「じゃ、じゃあ、一番左の方から自己紹介をお願いします。」
内心ビクビクドキドキしている僕の様子に気付いた風もなく、一番左に座ってた人、金色の髪の女性が立ち上がって話始めた。
「わたくしはシルフィーと申します。職業は治療士です。昨日登録したばかりの初心者ですが、宜しくお願いしますわ。」
「あ、ありがとうございます。では、次の方お願いします。」
そうして順番に、自分の名前と職業を教えてもらう。
「ウチは付与士のサミィ。宜しくな。」
「わ、私は盾士と言います!あ、じゃなかった、す、すいません!マレリーラと言います。私も昨日登録したばっかりで…、よ、宜しくお願いします!」
「…レミ。スカウト。」
「アタシは空間魔法使いのムーランです。お役にたてるように頑張りますので宜しくお願いします。」
順に、ボーイッシュな女性、おどおどしていた女性、小柄で赤い目の女性、黒い髪の女性だ。
一通り喋ってもらったけど、まず驚いたことがみんな職業がバラバラで、このままパーティを組んでもバランスが良い事だ。こういったパーティメンバー募集を掛けた時って大体何人かは同じ職業が被ることが多いみたいで、募集を掛けた次の日にここまでバランスよくメンバーが集まるなんてまず無い。ギルド側としても、同じ職業の希望者が2人以上いた場合、誰がパーティに一番なじめるかは本人たちの相性次第になる為、ひとまずは希望者全員を紹介するようにしているらしい。だから一人も職業が被らず、さらにバランスよく人数も丁度5人集まるなんて奇跡としか言いようがない。
本当ならここで一人一人と話をしてパーティを組むかどうか考える予定だったんだけど、もういっそのことこのメンバーでパーティを組んでしまうのも良いかもしれない。初日でここまで集まるなんて、ある意味運命のようにも感じられるし。
非常に個性の強そうなメンバーに若干の不安は感じつつも、この出会いは逃してはいけないような気がして、僕はこの5人とパーティを組むことを決意した。
「分かりました、皆さんありがとうございました。今皆さんの自己紹介を聞いて色々と考えましたが、僕はここにいる6人でパーティを組みたいと思います。募集を掛けた側なので、仮にリーダーをさせてもらいますが、探索をする中で適任者がいれば変わってもらおうと思っています。これからよろしくお願いします。」
僕の言葉に彼女たちの表情は様々だった。
嬉しそうな顔、不安そうな顔、表情が変わらない顔…
夫々思うところは在るだろうし、僕だって不安に思うところはたくさんある。でもやってみないと始まらないし、先ずはこのメンバーで出来る事を始めていきたいと思う。その中でお互いの事を理解できればいいし、それでもしパーティから抜けたいと言われればそれはそれでいいと思う。なんてったって6人中3人は初心者なんだ。恐がっていても始まらないし、先ずはチャレンジしてみよう。
ま、先ずは緊張せずに彼女たちと話が出来る様になることからだけどね…。




