最終話 牟礼将志
俺は画面から視線を外し一息ついた。
「ふぅ、これならなんとかなりそうだな。」
パソコン画面の内には所狭しと動き回るキャラクターが6人。1人が男で後の5人は女だ。
それぞれ剣や盾、魔法を使う為の杖などを持っている。
俺がわざわざ操作しなくても彼らは自分で判断し動いてくれる。所謂AI、人工知能というやつだ。
「サスガデースネー。ヤッパリしゃっちょーサンハスゴイノデースヨー。」
「ま、ここまで来るのに大分時間かかっちまったけどな。」
ここは俺の家兼仕事場。
専門学校を卒業して何年か大手の仕事した後、独立して小さいながらもゲーム作成会社を立ち上げた。
今作ってるのは次に開発予定のゲームの中核をなす高度なAIを積んだNPCで、現在は試験的に彼らに自由な行動をとらせている。
今の世の中、VRMMOという言葉が流行り、また技術も進歩したことにより様々なVRゲームが世に売り出されている。中には現実と大差ないリアルな世界を表現したゲームもあり、俺たちのような小さい会社がどう頑張っても太刀打ちはできない。それならば発送を逆転させ、今までにないVRゲームを作ろうということになった。
『ダンジョン都市 ~はこにわ~ 』
最近流行りの広大なフィールドは無く、メインとなるのはダンジョンの探索。スキル等も無駄に多くせずに出来る限りシンプルにさせた。その代わりNPCには全て高度なAIを積み、まるで自分が本当にダンジョン都市で生活している一員のように感じれるようする予定だ。
狙いの客層は所謂シニア世代。昔のドット絵時代にゲームにはまり込んだ彼らが、自分たちの青春を捧げて遊び倒したゲームの世界に入れると知ればきっとある程度は食いついてくれるはずだ。
なにより、今のゲームは確かに綺麗でありシステムも洗練された素晴らしいものであるが、中にはもっとレトロチックなものを求める人も一定数はいる。
まあたとえ今回失敗しても他な事に生かせるわけだし、今回は会社としてはお試し的な部分も強い。上手く行けば儲けもの的なところだ。
「ソレニシテモサスガしゃっちょーサン。はーれむダイオウデスヨー。」
「……やかましいわ。」
今回プログラムを組むに当たり、ゼロから組むのは非常に時間がかかるし大変ということで、今画面上に映っており女子5人に囲まれている男、こいつに俺自身の人格をある程度コピーしたのだ。
「デモコノコタチミンナめろめろデスーヨー。」
「現実でもそうだったらいいんだけどな…。」
「マタマタ―、しゃっちょーサンハソトデモもても……。」
「……おい、中途半端なところで止めるなよ。余計悲しくなるだろ。」
ハハハーと笑ってごまかそうとするこいつは、アメリカから留学してきて日本に住み着いたうちの職員の1人なんだが、これでいて非常に仕事が出来るやつなんだよな…。ただ日本のオタク文化にどっぷりと浸かりきっており今回も俺に黙ってあちこちにネタを仕込んでくれてやがる。…だが職種上それで助かってる部分もあるのであまり強く注意もできない。
「ま、それはおいといてだ、当面はこれで大丈夫だろう。とりあえずここで一区切りと行こう。」
俺の人格をコピーした男、そして俺の名前『牟礼将志』から一文字づつ取った、ムーラン、レミ・マレリーラ・サミィ・シルフィー。彼らは俺の想像を超えてくれた。もうただのプログラムとは呼べない、一人の知能を持った人間として彼らはこれからのゲーム作成に大いに力を貸してくれることだろう。今はこの『都市』でしか生活できない彼らだが、遠くない未来に彼らがその庭から出ることが出来る時代が来るかもしれない。その時には世界はどれほどの進歩をしているのか。あるいは退化しているのか。それは今考えたところで分かる事ではないが、少なくとも俺は彼らの生みの親である。これから世界がどのように変わり、彼らがどのように成長、又進化していくかは分からないけど、彼らが間違った方向に進まない様に導いていく事が、技術者であり生みの親でもある自分の義務であると思っている。
「しゃっちょ―サーン!セッカクデスカラウチアゲシマショウヨー!」
「ん?ああ、そうだな。折角だし皆で行くか。」
「サスガしゃっちょーサン!!ミンナー!しゃっちょーサンノオゴリデヤキニクデース!!」
「おいおい、誰もおごりとは言ってな…「「「ゴチになります社長!!」」」……。」
ちくしょうこいつら…。
「はぁ…、しょうがない。但し安い所しか無理だぞ!」
「やっほーい」「焼き肉ぅー!」「食べほーだーい!」「飲みほーだーい!」
「お、おい、流石に飲み放題は…「「「ゴチになります!!」」」……。」
…いつもこれだよ。こいつら遠慮ってもんを知らねえし。
とはいえ、ここまで来るのに皆大変だったのは間違いない。少しぐらいは大目に見てやるかな。
わいわい言いながら会社から出ていく社員たちを眺めた後、パソコンのディスプレイに視線を移すと、女子6人に囲まれた男の姿が。
6人…あ、妹が増えてる。そういえばあの妹、実は血がつながってないって設定だったっけ?
「しゃっちょーサーン!ハヤクー!」
会社の外から『主人公と妹は実は血がつながってない』設定を猛プッシュしてきた張本人が俺を呼ぶ。
「おーう、すぐ行くー!」
外に向かって返事をした後、俺は再度でディスプレイに目を向ける。中ではあたふたしながらもどこか幸せそうな男の顔。
「しゃっちょサーン!ハヤクシナイトヤキニクガニゲテシマイマース!!」
焼き肉は逃げねえよ。…いや、逃げる焼き肉を捕まえるストーリーとかあっても面白……くはないか。
ふぅっと一息つきパソコンを閉じ、みんなの元に向かう。
願わくば人間にとっても機械やAIにとっても素晴らしい未来が待っていますように…。




