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ダンジョン都市  作者: ノジー・マッケンジー
10/12

10 レミ

あれから探索を続け、最終的にグレースライムを29体倒すことができた。

グレースライムの魔石が29個とスライムゼリーが1つ。全部で7800Gとなった。

6人で均等に分け、一人1300G。昨日、一昨日の400Gとはえらい違いだ。

ちなみにスライムゼリーのようなドロップ品は、基本探索者が使う事は少ない為全てギルドが買い取っている。


前日よりも稼ぎが3倍になったことで嬉しそうな顔の皆に、明日も集合の旨を伝え解散する。


「さて、と。」


ギルドを出てから、僕はメンバーの一人に話しかけようと振り返った。


「そうだ、レミさん、ちょっといいですか……あれ?」

「レミならもう帰ってったでー。」


サミィが指差す先には既に大分小さくなったレミの後ろ姿が。


「早っ!?」


慌てて後を追い走り出す僕の背中を、サミィがニヤニヤしながら見つめていた。





人ごみをすり抜け、何とかレミを追いかけるも動きが早すぎて全然追いつけない。


「なん…で、こんなに、早…いんだよ!」


文句を言いながら走るもそれで自分の足が速くなるわけでは無い。

結局最後まで追いつけず、レミはとある建物の中へと入っていった。


「ここは…。」


辿り着いた先には小さな古びた教会。

何でこんなところに?そう思いながら建物を見上げていると、入り口から人が出てきた。


「おや?何か御用かな?」


現れたのは初老の男性。恰好はごくごく普通の服を着ているけれども、おそらく神父さんだろう。とても落ち着いた雰囲気の人だ。


「あ、えっと…。」


慌ててしどろもどろになる僕を見て彼は言った。


「もしかして…、レミとパーティを組んでる人かい?」

「え!?あ、はい、そうです。」

「ああ、やっぱり。レミから良く話は聞いているよ。こんなところで立ち話もなんだから、中へお入り。」


促されるままに教会の中に入り、さらに奥の住居用スペースに通される。


「大したものは出せないけど、良かったらどうぞ。」

「あ、すいません、ありがとうございます。」


お茶を頂きホッと一息。ここまで走ってきた体に沁みわたる。


「で、今日はどうしたんだい?」


タイミングを見計らって神父さんが問いかけてきた。


「あ、実はレミさんと少し話がしたいと思っていたんですが、探索が終った後彼女はすぐに帰ってしまい話をする暇がなくて。それでまだ姿が見えていたので後を追ってきたんです。」

「なるほど。話というのはレミの事についてじゃろぅ?」

「はい、そうなんです。ダンジョンの探索中、彼女は一切しゃべりません。一応罠や魔物を察知したら指差して教えてくれるんですが…、もしかしたら喋らないのには何か理由があるのではと思いまして。」

「ふむふむ、そうじゃのう…。ならそれは、本人から話してもらうとしようかのぅ。」

「え?」


神父さんの視線が扉の方へ向けられ、つられてそちらへ視線をやると、そこには扉の隙間からこちらを窺うレミの姿があった。


「レミ、こっちにおいで。」


神父さんに言われ、しぶしぶと言った感じで部屋に入ってくるレミ。

そのまま真っ直ぐこちらに来るのかと思いきや、彼女が向かったのは部屋の隅にあった本棚。そこから一冊の本を取り出し、こちらに差し出してきた。


「………。」

「………。」


いまいち意図が分からずしばらく見つめ合っていたが、まぁこの状況からしてこの本を読めと言う事だろう。レミから本を受け取ると彼女も満足したような表情で神父さんの隣へと座る。

僕は受け取った本に視線を落としペラペラとめくってみる。


『スカウト教本』

『伝説のスカウトに成る為に』

『スカウトの心構え』

『スカウトに必要な能力』



どうやらスカウト職の為に同職の先輩方が知識を書き記したもののようだ。


「…それはレミの父親が書いたものじゃ。」

「…え?」


これをレミのお父さんが書いた?

しかしこの本、とても大事に保管されていると同時に、何度も何度も読み返したであろう跡も残っている。ということはもしかして…。


「レミの父親は非常に優秀なスカウト職じゃった。母親はおらなんだがレミの事を溺愛し、その界隈では有名な非常に良い男でじゃった。…だがある日、ダンジョンに向かったレミの父親はここへ帰ってこなんだ…。」


神父さんの言葉に場の空気がズンッと重くなる。


「彼は、もし自分に何かがあった時には娘を頼むと常々わしに言っておった。わしも最初は彼程の人間がそうやすやすやられる筈はないと思っておったんじゃが…、ある日、ギルドの職員から通達が来たんじゃ。『彼がダンジョンに入ってから一度も外に出た形跡が無いまま一月が過ぎた。ギルドとしては彼が死亡したとみなします』とな。それからわしはレミを引き取り、形式上はレミの祖父としてこの子を育ててきたんじゃ。元々レミの父親はダンジョンの探索を進めるために半月ぐらい家に帰ってこないことはザラでのぅ。じゃからレミは一人で何でも出来る子じゃった。それに彼はレミの事を『こいつは才能が有る。いつかは俺を超えるすごいスカウトになるはずだ!』と言って、優秀なスカウトに育てるために日々色んなことを教えておったようじゃ。」


神父さんはそこで一旦話を区切り、俺の持っていた本を手に取った。


「じゃからレミにとってこの本は、父親の形見であるとともに、自分の人生全てなのじゃ…。」


当時の事を思い出しているのだろう。神父さんの顔は悲しみと後悔が入り混じったような表情になっていた。その表情を見ただけで、当時どれほどの苦労があったかが分かる気がした。


僕が重い雰囲気の中で何も言えずにいると、神父さんが思い出したかのように言った。


「おお、なぜレミがしゃべらないのか…だったのぅ。」


そして手に持った本を丁寧にペラペラとめくっていき、ある1ページを開き僕に渡してきた。


「ここを呼んでごらん。」


言われるがままに開かれたページの内容を読んでみる。


『スカウトは魔物の気配に敏感でなければならないが、それと同時に自身の気配を消すことも重要である。気配を消し、無駄な事は一切しゃべらず、相手の意識外から一撃で仕留める。そう、それは東の島国に伝わる伝説の存在、NINJAのように!』


顔を上げると神父さんはウンウンと頷いている。


「つまり、レミさんはこの本に書いてあるお父さんの教えを実践して、今までずっと喋って無いって事ですか?」


最後の方で気になるフレーズはあったが、概ねそう言う事だろう。2人を見ると僕の言葉にうなずいている。


(なる…ほど…。)


事情は分かった。確かにお父さんが書いていることは間違いではないと思うし、レミも才能あふれるスカウトだと思う。だが…


「大体の事情は分かりました。この本、大切な物でしょうに…見させてもらってありがとうございます。」

「いやいや、レミが君に見せようと思って自分で出して来たんじゃから気にすることはない。」

「ありがとうございます。では、ちょっとだけレミさんと話がしたいんですが…いいですか?」

「ああ、もちろん。ではわしは少し席を外すとしようか。」

「あ、いえ。ここにいてもらった方がありがたいので…。」

「?そうか…、ではわしもご一緒させてもらおうかの。」


僕はレミに向き直り、今考えた事、感じたことを彼女に伝えることにした。


「大切な本を見せてくれてありがとう。レミさんがお父さんの事を大切に思って、そして尊敬しているのが伝わってきました。」


僕の言葉に少しうれしそうな表情をする。…よく見ないと気付かないぐらいのレベルだから、もしかしたら気のせいかもしれないけど。


「きっとお父さんからスカウトについて色々な事を習ったんだと思います。実際レミさんのスカウト能力の高さは、一緒にダンジョンに行っている僕が良く分かっていますから。」


無口ではあるけれど、実際のレミのスカウト能力は高い。今まで一つも罠を見逃したこともないし、魔物の気配を探すのも、僕が学校で習ったスカウトの能力よりも1ランク上に感じている。


だからこそ惜しいのだ。


「ですが、今のパーティは僕も含めほぼ全員が初心者、又は初心者に近い人たちです。そんなパーティの未来を握っているのがレミさんなんです。」


しっかりと僕の思いが伝わるように、彼女の目の見つめて話を続ける。


「僕たちは上級探索者のように探索に慣れている訳でもないですし、スカウト以外の職が魔物の気配を察知するのはまだ無理です。罠だって言われてもどこにあるか分からない時もあります。だから僕たちにはレミさんが絶対に必要なんです。レミさんの言葉が必要なんです。個人の能力が高いのは確かに望ましい事ですが、パーティメンバーを危険視晒すのはスカウトの望む処ではない筈です。今僕たちに必要なのは、僕たちが危険に陥らない為には、レミさんからの的確な指示が必要なんです。」


言葉に思いを乗せて伝える。見つめ合う瞳が揺らいだ気がした。


「お父さんの本には『無駄な事はしゃべらず』とありました。今のパーティで、魔物の存在を声で知らせるのは無駄な事なんでしょうか?少なくとも僕は、レミさんが声に出して教えてくれる方がよっぽど嬉しいです。それに戦闘以外でパーティメンバーとコミュニケーションを取るのも連携を深める良い方法だと思っています。お互いがお互いの思いを伝え、そして絆を、連携を深めていく。そしてお互いに喋らなくても目と目で通じ合えるようになる。これが僕の理想とするパーティでもあります。」


声を出さなくても通じ合える。ダンジョン探索だけでなく様々な分野での理想だと思う。でも誰だって最初からそれが出来るわけでは無い。お互いがお互いに理解を重ね、その先にできるようになるものだと僕は思う。


「僕は…もっとあなたの声が聴きたいです。」


僕の言葉にレミの瞳が激しく揺れ動くがそれ以上にはならない。おそらく彼女の中で譲れない部分が有るのかもしれない。


あともう一押し足りない…!


だがそんな僕に救いの手が伸ばされる。


「…レミや。彼の言っていることは間違いではないよ。お前も色々と思うところがあるじゃろうが、今までのはお前はどこか父親の言葉に囚われているようにも見えた。勿論お前の父親の言葉が間違っているとは決して言わん。だが、それだけを見ているとやはり視点が偏ってしまう。お前はまだ若い。今のうちに様々な事を見て、学んで、経験して、そして立派なスカウトになってほしい。それはきっと、おまえの父親もそう思うとわしは思うぞ。」


「………お…う…さん…。」


少しの間静寂が流れる。

先程のような重い空気ではないが、レミの葛藤を場が表しているような、そんな雰囲気だった。


やがて、レミがその重い口を開いた。


「わたし…どうしたらいい…?」


まるで捨てられた子猫のような表情でこちらを窺う。


「思うようにやってごらん。最初は難しいかもしれないが、きっと周りも分かってくれるじゃろう。こんなに親身になってくれるパーティリーダーがおるんじゃ。きっと大丈夫じゃ。…レミは、どうしたいと思うんじゃ?」

「わたし…、わたしは………もっとみんなと…おしゃべりしたい…。」


僕と神父さんは顔を見合わせ、そしてレミに向かってほほ笑んだ。


「うむうむ、それが良い。お前のやりたいようにやりなさい。」

「…うん。」


話もまとまり、二人の間に和やかな空気が流れだす。


(…僕はここにいたらお邪魔かな?)


せっかく喋ることに前向きになった彼女と神父さんの邪魔をするのも悪い。そう思って帰ろうとすると、


「おお、そうじゃ、せっかくじゃしここで彼と話をしてみるのはどうじゃ?いきなりみんなの前で話をするのも緊張するじゃろう。ここで少し慣れておいた方が良いのではないか?」


そんなことをのたまってきた。


「いえいえ、お二人の邪魔をするわけにはいきませんし、僕は先に失礼させてもらいます。せっかくですから、二人でゆっくり話をしてください。」


そんな僕の気持ちが伝わらなかったようで二人とも頭の上に?マークを浮かべている。そして何かに納得したように僕の言葉を否定してきた。


「そうかそうか。気を使ってくれたところ悪いんじゃが、君は勘違いしておるようじゃのぅ。」


今度は僕が頭に?マークを浮かべる。


「わしとレミは普段から話をしておるよ。レミがしゃべらないのはスカウトとして頑張っておる時だけじゃ。最初に言ったじゃろう?君の事はレミからよく聞いておる、とな。という訳でじゃ、二人の邪魔をするのも悪いし、わしは席を外すとしよう。」


ホッホッホッと笑いながら立ち上がり、神父さんは部屋から出て行ってしまった。

残された僕は予想外の事に呆然としてしまった。




「…あの……。」


どのくらいぼーっとしていたのだろう。レミの声でハッと意識が戻る。


「あ、はい。な、何でしょう。」


必要以上にどもってしまうがレミに気にした様子はないようだ。


「あの…、……ありがとう…。」

「あ、ど、どういたしまして…。」


何だか恥ずかしくなり顔を見ることができない。


「わたし…、今まで父さんの言葉だけが正しいと思ってた。」


僕の様子に気にした風も無く、いや、自分の事を喋るので一生懸命になっているレミが言葉を続ける。


「でも…、みんなと一緒にいて、色んなことを知った。そして、君の話で、父さんの言葉だけが正しいわけじゃないのかもって、思うようになった。だからわたし…もっといろんなことが、知りたい。もっとみんなの事が知りたい。だから…だから頑張ってみようと思う。」


彼女がこれまでどんな経験をして、どんな思いをしてきたかは僕にはわからない。でも、今頑張って一歩踏み出した彼女の気持ちを大切にしてあげたい。そう思った。


「僕たちはパーティでレミさんは大切な仲間です。だから、僕たちはみんな、レミさんの努力を全力で応援します。そして僕たちもそれに答えれるように一緒に努力します。だから、これからもよろしくお願いします!」


2人顔を見つめ合い、そして二人同時に微笑んだ。













「それ、気になる。」


あれからしばらく二人で話をつづけ、気がつけば外は大分暗くなっており、そろそろ帰ろうかと思った時にレミからそう言われた。


「それって…どれです?」

「それ。わたし固い話し方、好きじゃない。」


どうやら敬語で話していたのが気に入らなかったようだ。


「マリーとは、普通に話してる。みんなに対して一緒ならいいけど、人によって違うのは、気になる。私にも普通にしゃべって。」

「えっと、いいの?」

「うん。そのほうが、いい。」

「うん…わかったよ。これで良い?レミさん。」

「…レミ。」

「え?」

「…さんって呼ばれたら、違和感。さん付けないで。」

「わ、わかった。じゃあレミ、これで良い?」

「うん。」


昼間と比べると別人のような変わり様だが、もしかすると彼女の元々の性格はこっちなのかもしれない。そんなことを考えながら二人一緒に教会から出ると、外はすでに真っ暗になっていた。



「うわ真っ暗…。こりゃルーに怒られるかな…。」

「ルーって、妹?」

「うん、流石に心配してるだろうな…。」

「…ごめん。わたしの、せい…。」

「ああ、いやいや、レミのせいじゃないよ。この時間は僕にとって大事な、必要な時間だったからね。」


こちらを気遣ってくれるレミにそう言うと、彼女は頬を染めて僕の方を見つめた。


「ありがとう…。」


そのはにかんだ顔に思わず見惚れてしまい、見つめ合うこと数秒。


「…妹さん、心配してる。」


レミの言葉で我に返り焦って振り返るも、その袖をつかまれ再び僕の体は教会側を向くことに。

そしてそこにはすぐ目の前まで迫ったレミの顔が。


「今日はありがとう。また、明日ね。」


レミは僕の肩に手を置き、抱き合うような体制で耳元に口を近づけ囁いた。

そしてトンッと僕を押してそのまま自分は教会の中に入っていった。

最後にもう一度扉の隙間から顔を出し、手を振ってくれた。



後に残されたのは真っ赤な顔をしたまま固まった僕の姿だけだった。







家に帰った後、ルーにしこたま怒られたのはまた別の話。

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