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【web版】美少女にTS転生したから大女優を目指す!【書籍化】  作者: 武藤かんぬき


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105――すみれの小旅行 中編

いつもブックマークと評価、誤字報告ありがとうございます。


 寝る前に念のため胃薬を飲んでいたおかげか、胃痛はないけれど少し膨満感がある。あんまりお腹がすいていなかったので、時間を見計らって朝食にポタージュスープだけ飲ませてもらった。


 ウェイターさんに『それだけでよろしいのですか?』と言われたのだけど、正直に昨日食べ過ぎたことを告げるとどうやら納得してもらえたようだ。


 待っている間に周囲を見回すとまだ少し早い時間だからか人数はまばらだが、外国の人が多いことに気づく。やっぱりこういう高級なホテルって日本にビジネスに来たビジネスマンとか、旅行に訪れた家族連れとかが泊まるんだろうね。


 スープが運ばれてきて少しずつスプーンですくって飲んでいると、いつの間にか私の隣の椅子に小学校低学年ぐらいの金髪の女の子が座って、こちらをじっと見ていた。不思議そうに私の顔を見ていたので、英語で『どうしたの?』と聞いてみた。


『そんなにすくない量で、たりるの?』


 舌足らずな喋り方だけど、物怖じせずこうして知らない人にも話しかけるのは外国の子だなぁという気がする。前世でいうところのコミュ力が、基本的に高いのだろう。心配なのか好奇心なのかはわからないけれど、こうして生の英語に触れられる機会というのは結構ありがたい。キャシー先生とは今でもレッスンで会うけれど、他の人との会話がうまくいくかはわからないものね。


『昨日の夜食べ過ぎちゃってね、朝は食欲がないの』


『ニホンはたべものがおいしいものね!』


 なにやら楽しそうに笑う女の子に、私も自然と頬が緩んだ。お母さんに呼ばれたのか彼女は手をブンブン振って走っていってしまったけれど、普段の生活にはない小さな出会いになんだかほっこりした。英語もちゃんと通じていたようでなによりだ、ちょっとだけ自信がついたよね。


 朝食を終えて部屋で少しゆっくりした後、午前9時半ぐらいに部屋を後にしてチェックアウトした。なおとふみかとの待ち合わせ場所は、駅前第一ビルの地下1階にある『ラミィ』という喫茶店だ。


 このお店以外にも喫茶店はあるのだろうけど、前世で私が知っているお店の今現在の状況がわからなかったので、このビルが開業した当初からあると聞いていたこのお店を指定したのだった。大阪に来る前に電話で聞いてみたら、ふみかのお母さんがお店の場所を知っているとのことだったので会えないということはないだろう。10時に待ち合わせという約束だけれど、ちょっと早めに着いておいた方がいいよね。


 地上からも行けるのだが、個人的には地下の方が移動しやすいので階段を下りて地下街に入った。前世では梅田ダンジョンとか呼ばれていた地下街だけど、大阪近隣に住んでいる人たちにとっては別に迷うほど入り組んではいなかったりする。私も梅田で働いていたから、安くておいしいご飯屋さんを探してあっちこっち歩いているうちにどう繋がっているか覚えちゃったしね。


 クリスマスの午前中という時間だからなのか、地下街を歩いている人たちの数は多い。人の流れを縫うように歩きながら、前世で使って覚えていた道がまだこの時代には繋がっていなくて引き返したりしつつ、なんとかビルの中に入った。駅前ビルは全部で4つあるのだけど、地下階はそれぞれのビルに繋がっていて通れるようになっている。


 目的地の駅前第一ビルは西梅田側に建っているので、真逆の位置にあるこのビルからだと少し歩くけれど腹ごなしの運動だと思えばいいかな。お店を覗きながらゆっくり歩いても、大体15分ぐらいで喫茶店に到着できた。


 中は落ち着いた感じの純喫茶で、通路に面した席からは行き交う人たちを眺めながらゆっくりとコーヒーや紅茶を飲むことができる。


 後から人が4人来ることを伝えると、ウェイトレスさんが奥にあるコーナーソファーの席へと案内してくれた。あと数分で10時だからなおとふみかが来るのを待っていてもいいけれど、ここまで歩いて少し喉も乾いたのでホットミルクを注文した。出されたレモン水を一口飲むと、レモンの風味がかすかに口の中に広がる。


 クリスマス当日だし梅田は繁華街ということもあっていくら中学生になったとはいえど、なおとふみかがふたりだけで出掛ける許可は下りなかったらしい。まぁふたりのお母さんたちにも会いたかったし、大人から見た地元の様子も知りたかったので付き添いで来てもらえるのは好都合だ。私が未成年だからこそあずささんや洋子さんが伏せている話もあるだろうし、第三者から見た母や姉の話を聞ける機会はなかなかないものね。


 ぼんやりとそんなことを考えていると、注文したホットミルクが運ばれてきた。ほんの少し砂糖を入れて、ゆっくりスプーンでかきまぜる。優しい甘さに頬がほころぶけれど、朝から水分しか摂ってないからお腹がチャポンチャポンになりそうだ。


 その時、カランカランとカウベルの音がして入口のドアが開いた。姿を現したのはなおで、キョロキョロと店内を見回していたから立ち上がって『ここにいるよ』と手を振る。奥まった席だったので見つけてもらうまで少し間があったけれど、私の顔を見たなおの顔がパァッと笑顔になった。


「すーちゃん!」


 素早く駆け寄ってくるなおの後を、ふみかも一緒になってついてくる。でも近づくに連れて、私の顔の角度が上がっていく不思議。あれ、ちょっと……サイズ感が変じゃない?


「……なお、だいぶ背が伸びた?」


「うん。バレー部の先輩に食事内容を教えてもらったり、部の練習メニューをこなしているうちにものすごく伸びたの」


 『もう膝とか関節が痛くて』と苦笑するなおに、私は『そうなんだ』と素直に頷いた。まぁ、なおはバレー部だしね。バスケ部とかバレー部の人ってみんな背が伸びるイメージがあるから、なおが伸びても不思議ではない。でも多分私の身長を基準にして測ると約160cmぐらいはありそうなんだよね、このまま伸びたら3年生になる頃には170cm半ばぐらいになっていそう。


 なおの隣に視線を向けると、ふみかがにこやかに笑みを浮かべながら立っている。確かになおよりも背は低い、でも文芸部のふみかが何故こんなに伸びているのが本当に不思議だった。私だって春から比べると1cmは伸びたはずなのに、以前東京に来てくれた時より明らかに差が開いている気がする。


「ふ、ふみかも伸びた……よね?」


「……うん、この間保健室で測ったら155cmだった」


 うん、そうだよね。なおとそんなに差がないもんね、知ってた。でも運動部じゃないふみかがそれくらい伸びるなら、私も伸びるチャンスがあるんじゃないかと思い直す。身長は遺伝的な要素がかなり大きいらしいけれど、栄養とか運動とかそういうので少しは補えるはず。栄養はあんまり摂れてないし、運動もあんまりしてないけど。でも睡眠はちゃんと取ってるんだけどなぁ。


「すーちゃんは大きくなったね」


 なおがニッコニコの笑顔でそう言ったので、私はパッと勢いよく顔を上げた。わぁ、ほんの数センチだけど見た感じで伸びたのがわかるものなんだね。私だってスピードは遅いけど、ちゃんと身長伸びてるし。そんなに悲観的にならなくてもいいのかもしれない、そう思った瞬間になおとふみかの視線が同時に私の胸元に移動する。


「すーちゃんの背はちっちゃいけど、胸は大きくなったよね」


「……どうやったらそんな風に膨らむの?」


 そんな風に感想を言いながらマジマジと私の胸を見つめるふたりに、思わずガックリと肩を落としてしまった。胸の大きさも私の悩みのひとつなんだよね。背はちっちゃいのに胸が大きいとなると、小学生役をやるのも一苦労なのだ。前はBカップだったものがいよいよCカップに上がってしまったので、そろそろサイズの小さいスポブラとかでは押さえつけられなくなっている。この間はサラシで衣装さんにギュウギュウに締め付けてもらって、すごくしんどかった。あれは絶対体に悪い影響しかなさそうなので、できればもうやりたくない。


「すみれの身長と細さだと、そんなに胸は膨らまないはずなんだけどな。相変わらず食も細いんだろ?」


 会話に入ってきたのは、苦笑を浮かべたなおのお母さんだった。その隣にはふみかのお母さんが立っていて、私は『お久しぶりです』と言って頭を下げた。ちょうど会話がいい感じに途切れたので、席に座ってそれぞれ飲み物を注文する。私はまだホットミルクが半分ぐらい残っているので、ぬるくなっているけどそれを引き続き飲むつもりだ。


 大人ふたりはコーヒーで、なおはオレンジジュースを頼んでいた。昔からなおは寒くても冷たい飲み物を好んで飲んでいたなぁと懐かしく思っていたら、ふみかがカフェオレを注文しているのを見て、幼なじみのちいさな成長を垣間見た気がして、嬉しいやら寂しいやら不思議な気持ちになる。


「すみれちゃん、ちょっと大人っぽくなったんじゃない?」


「えっ、そうですか? ちなみに、どのあたりがです?」


 周りは大人ばかりだし、同級生からもどちらかというと年下扱いみたいな対応をいつもされるので大人っぽいと言われる機会があんまりない。しっかりしているとはよく言われるけどそれって性格の印象が強い気がするので、外見の印象で褒められるのが嬉しくて思わず質問してしまった。


 するとふみかのお母さんはちょっと困ったように眉根を寄せて言葉を探した後、『なんというか、オーラかしら』とそんな答えを絞り出した。なるほど、私がなおとふみかの身長の伸び具合にショックを受けているんじゃないかとフォローを入れてくれたのだろう。なんだか追い込むような質問をしてしまって申し訳なくなってしまった。


「えっと、クリスマスにわざわざ梅田まで来てもらってごめんなさい。予定とか、大丈夫でしたか?」


「娘の大事な親友が戻ってきてるんだから、何を置いても来るよ。すみれは相変わらず気を遣いすぎるというか、あんまり水臭いことを言われると寂しいじゃないか」


 なおのお母さんが向かいの席から少しだけ身を乗り出して、私の額に手を伸ばして軽くデコピンした。相変わらず気さくで優しい人だなぁと思いつつ、ペコリと頭を下げる。


 ちなみに席は私を真ん中にして両隣になおとふみかが座り、その対面に保護者がふたり座っているという配置だ。とりあえず退屈しのぎみたいに、ふたりで交代しながら私の頭を撫でるのはやめてほしい。


「……そう言えば、駅に来る途中ですみれのお母さんに会ったよ。どこに行くのかとか色々聞かれたから、適当にはぐらかしてきたけど」


「最近は全然関わりがなかったし、急に話しかけられてびっくりしたのよ。買い物に行った時なんかに見かけたら、お互い会釈するぐらいの間柄だったから」


 困ったような表情で教えてくれたおばさんたちに、私も苦笑を返した。うちの母親、変なところで勘が働くというか鼻が利くというか。はっきりとはわからないだろうけれど、私に関わる何かを感じ取ったのかもしれない。


 自分の娘が幼稚園から付き合いがある幼なじみのお母さん方とは一般的にはもっと親しい関係でいるイメージなんだけど、うちの場合は私が引っ越した後に実家に近づかないせいもあって疎遠になっているみたいなんだよね。まだ夏にあったことも話していないし、いいタイミングだから共有しておくのもいいかもしれない。


「実は現在、私からはほとんど実家への連絡を絶っている状態なんです」


 なるべく雰囲気が重くならないように、軽い感じを意識して話しはじめた。先入観を与えないように、なるべく私の気持ちとかそういうのは省いて姉がやらかしたことと保護者や祖父の対応なんかを淡々と話したつもり。それでもショックを受けたように絶句したおばさんたちが頭を抱える中、何かがあったことだけを軽く伝えて『聞かれても私の情報をうちの家族に言わないで』とお願いしていたなおとふみかが『そういうことだったのか』と納得したような表情を浮かべていた。


「じゃあ、アレが地元に戻ってくんの?」


「涼香さん、その言い方はちょっと……」


 吐き捨てるように言うなおのお母さんに、ふみかのお母さんがたしなめる感じで声を掛ける。多分アレって呼ばれたのは、うちの姉で間違いないんだろうな。もともとなおのお母さんは、姉とそれを放置しているように見える両親を嫌っていたみたいだし。ふみかのお母さんも非難の視線をうちの両親に向けていたみたいで、それでも私のことは別だとこれまで通りに子供たちとの付き合いを許してくれているんだから懐の広い人たちだと思う。


「いろはさんはそう言うけどさぁ、アレが戻ってきたら絶対問題起こすよ。すみれの前で言うのは申し訳ないけど、あの両親じゃ事態を収拾もアレを諌めることも両方ともできないのは目に見えてるもんなぁ」


 明け透けにぶっちゃけたなおのお母さんに、同意できる部分が大きいのかふみかのお母さんが曖昧に頷いた。もしも姉が素直に地元に戻って実家で暮らしはじめたとして、何かしら問題を起こしそうだと私だって思うもん。そしてうちの両親が迷惑を掛けた人たちに謝ることはできても、姉の居場所を守れるかというとおそらく無理だもんね。それができるなら最初からここまで拗れてないし。


 暗い話をこれ以上するのも申し訳ないので、私の情報を両親や親族に言わないように繰り返し念押しして話を強引に終わらせた。おばさんたちふたりだけではなく、両隣からなおとふみかからも心配そうな視線を感じるけれど笑って受け流す。なんだか話題を変える材料みたいに使ってしまって申し訳ないけど、カバンの中から用意していた物を取り出した。


「今日はクリスマスなので、プレゼントを持ってきたんだよ。はい、メリークリスマス」


 赤と白の水玉模様の細長い袋だとプレゼントっぽくなくて少し寂しいかなと、袋の口をリボンで結んでみた。ちなみに中身もリボンも学校の購買で購入したものだったりする。


 私としてはなおとふみかにプレゼントもらえなくても、途中で使い捨てカメラを買って並んで写真を撮れればそれで十分嬉しいプレゼントになるなぁと考えていた。でもなんとなおとふみかもお互いにお小遣いを出し合って、私に来年用の手帳をプレゼントしてくれたのだ。なんというか『あの小さかったなおとふみかが……』って、その成長に思わず涙がこぼれそうになった。手帳っていうチョイスもちょっと背伸びしてる感じがしていいよね。大事に使わせてもらうことにしよう。


 私のプレゼントはうちの学校で、すごく書きやすいと人気のシャープペンシルだ。お値段1本2000円とシャープペンシルにしてはお高めなんだけど、丈夫で壊れにくいので長く使えるそうでコスト的にはそんなに高く感じない。学外の友達が使っているのを見て在校生に『買ってきて』とお願いすることも多々あるらしく、外部の人にプレゼントする用の製品には校章が印刷されていない。私が使っているのは在校生用なので普通に学校名と校章が印刷されているけれど、ふたりとおそろいの物を使っていると思うと勉強へのモチベーションも上がるよね。


 なおとふみかにも私とおそろいのシャープペンシルだと伝えると、すごく喜んでくれた。ふみかは文芸部で作品を書くのにも使うだろうし、なおも部活だけじゃなくて勉強へのやる気を少しでも引き出すための役に立ったらいいな。


今年もカクヨムコンの季節がやってきました。

応募作執筆のため、12~2月まで更新をお休みさせていただきます。

3月からはまた更新を再開させていただきますので、よろしくお願いいたします。


12月から新作を投下する予定ですので、よかったら読んでいただけると嬉しいです。

■カクヨム マイページ

https://kakuyomu.jp/users/kannuki_mutou2019

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>あれ、ちょっと……サイズ感が変じゃない? なおが近づいてくるに連れてだんだん顔が上向きになって 最後は見上げるようになるすみれを想像して笑いました ちょうどマウント斗羽とアンドレアス・リーガンの初顔…
やはりふみかとなおとのやり取りは可愛いし癒されますね。二人の背の成長に置いていかれるすみれですが、美少女としては別の部分で成長しているのでヨシとしましょうw 幼馴染の家族同士の交流が疎遠になるという…
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