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【web版】美少女にTS転生したから大女優を目指す!【書籍化】  作者: 武藤かんぬき


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104――すみれの小旅行 前編

いつもブックマークと評価、誤字報告ありがとうございます。


 終業式が終わって担任の先生に冬休みについての注意を細々と受けた後、洋子さんに車でそのまま東京駅まで送ってもらった。


 はるかも一緒に乗っていたのだけれどあちらも実家に戻る準備をしなければいけないので、寮の近くで先に降ろされていた。『なおちゃんとふみかちゃんにもよろしく言っておいてね』と言伝をもらったので、ちゃんと伝えなきゃね。


 本当ならはるかと一緒に寮に戻って制服から私服に着替えた方が効率がいいのだけど、洋子さんが制服をクリーニングに持っていってくれるというのでありがたく好意に甘えることにしたのだ。駐車場に車を停めてから、お手洗いの個室で着替えて私服の入っていた紙袋に制服を畳んで入れる。なおとふみかに制服を見せるのも楽しそうに思えたのだけど、制服だといろいろと面倒くさいことが起こりそうだったのでやめた。


 変に他人の目線を集めたり、警察とか児童相談所の職員さんなんかに話しかけられたりする可能性もあるからね。なるべくそういうリスクは避けたいので、素直に私服を着ることにしたのだ。


 白いニットセーターに黒い膝丈のスカート、あんまり厚くないタイツとショートブーツを履いた。その上からキャメル色のダッフルコートを着ると、寒さが少しマシになったような気がした。でも大阪はもしかしたら、東京よりもあったかいかもしれない。明るいグレーのマフラーも持ってきたんだけど、どうしようかな。でも夜とか冷える可能性もあるし、一応カバンに入れておこう。


 今回は1泊2日の短い旅行ということで、できるだけ荷物は小さくコンパクトにしている。トップスをニットにしたのも、中のシャツだけ着替えれば明日も着れるからというなんとも横着な理由だ。スカートも汚さずシワにならないように気をつければ大丈夫だし、カバンの中にはスキンケア用品とか下着やハンカチ類ぐらいしか入っていない。足りないものは向こうで買ってもいいしね。事務所が手配してくれたホテルには、アメニティとかタオルとかは普通に一揃えしてあるらしいので心配はないみたい。


 チェックアウト時には料金を支払わないといけないのでホテル代を尋ねたら、タレントへの福利厚生で事務所が出すと言われてしまった。さすがに完全に私用だしそれは申し訳ないと食い下がったんだけど、宿泊料が安いところは治安が悪いことが多いし大事なタレントをそんなところには泊まらせられないからどうか出させてほしいと逆に頭を下げられてしまった。まぁ事務所のみなさんを困らせたいわけではないので、ちょっとの話し合いの末みなさんの好意に甘えることにした。甘えてばっかりだな私、とちょっと苦笑してしまう。でもこんなところで意地を張って、事務所との関係が悪くなったり問題が起こったりするのも逆に申し訳ないもんね。


 コンビニで前にもらったビニール袋に学校用のローファーを入れて、制服と一緒に紙袋に入れる。最後に変装用の伊達メガネを掛けて準備完了。トイレを出て洋子さんと東京駅の新幹線のりばへ続く改札へと向かう。往復分の切符を受け取ってから、荷物になって申し訳ないけど制服を入れた紙袋を代わりに渡す。ここでバイバイかなと思っていたら、洋子さんが券売機で入場券を買って一緒に中に入ってくれた。どうやら私がちゃんと新幹線に乗り込むまで、しっかりと見送ってくれるみたい。


 お昼ごはんをまだ食べていないので、売店で小さなサンドイッチとお茶を買って乗る予定の新幹線に乗り込んだ。わざわざ一番速いのぞみの指定席を取ってくれたみたいで、本当にありがたい。愛称がカモノハシって呼ばれてた車両が登場するのってもうちょっと後だったっけ? 私としては丸っこい鼻をしている普通の新幹線のデザインも、かわいくて好きだったりする。


「それじゃあ、いってきます」


 東京駅の新幹線ホームまで見送りに来てくれた洋子さんへ窓越しにそう言うと、彼女はにっこりと笑って『羽を伸ばしていらっしゃい』と同じように口パクしながら手を振って見送ってくれた。平成末期ならスマホとかを見て時間を潰すのだろうけれど、残念ながらこの時代にそんなものは存在しない。大阪まで2時間30分ぐらい掛かるので、この間買った文庫本を持ってきた。外の景色を眺めるのに飽きたら読もう、途中トンネルばかりの区間もあるしね。


 時々通路を歩く人からの視線を感じながらも、サンドイッチをもぐもぐしたり本を読んだりとのんびりと過ごすことができた。私の知名度なんて全国的に見たらまだまだ全然ないも同然だと思うので、『もしかして芸能人?』みたいな感じでは見られてないと思う。もしかしたら『なんでこんな子供がひとりで?』と不審がられているのかもしれない。ちょっとだけ背筋を伸ばしてキリッとした表情を作りながら座席に座っていたらその後の方がジロジロと不躾に視線が飛んできている気がしたので、結局いつも通りにぼんやりと座っておくことにした。


 新大阪に到着して、ホームの邪魔にならないところでグーッと座りっぱなしで固まった体を伸ばす。洋子さんにはタクシーで梅田の方に移動するように言われていたんだけど、新大阪駅のタクシー乗り場はタクシー待ちの人の列でものすごくごった返していた。特に今日はクリスマスイブだし、サラリーマン以外にもおしゃれをした女性の姿も何人か見える。これからデートなのかな、もう日が傾いてきているから夜ごはんを彼氏さんと一緒に食べる人も多いのかもしれないね。


 タクシーの運転手さんたちも今日と明日は書き入れ時だと思っているのか、待ってる人たちに負けないぐらいタクシーの列も長く続いている。ただやっぱり車よりも人の数の方が多いので、タクシーにひとりで乗り込んで出発するお客さんもいたりしてなかなか順番が回ってこなくて、苛立っている様子のお客さんも何人かいるみたい。洋子さんとしてはトラブルの心配をしてタクシーでの移動を勧めてくれたのだろうけれど、逆にここに並んだら余計に変なことに巻き込まれそうな予感がする。


 まぁ前世ではこのあたりに働きに来ていたこともあるし、電車の路線や乗り継ぎもわかっているから移動は電車の方がいいかもね。地下鉄だと何駅か先が梅田駅だけど、在来線だと次の駅が大阪駅だったはずだし。私はくるりと踵を返して、案内板に従って目的のホームへと足を向けた。


 電車に揺られて数分、本当に久しぶりに大阪駅へと降り立った。改札の駅員さんに切符を渡して、人々の往来の邪魔にならないように隅っこのスペースに移動した。今日泊まるホテルは全部事務所の人にお任せしたので、私はホテルの名前も全然知らないんだよね。洋子さんから別れ際にホテル名とか電話番号、駅からの簡単な地図を書いてくれているメモを渡されていたので、そのメモをカサカサと開いた。

 まず目に入ったホテル名に目を剥いた。メイヴァンホテルって、駅からすぐのところにある高級ホテルだよね。大阪のホテルじゃないけど、系列ホテルがドラマの舞台にもなっている。てっきりビジネスホテルよりほんの少しだけお高めなホテルを予約していると思っていたので、本当にすごくびっくりした。でもよくクリスマスイブに予約が取れたよね。東京に戻って新年最初の仕事の時に洋子さんに聞いたら、たまたまタイミングよくキャンセルがあったんだとか。運がよかったんだなと素直に喜んでおこう。


 本当に私みたいな子供が泊まってもいいのかなと不安になりつつホテルの前まで来て、小さく深呼吸してから中に入った。受付の人も中学生がひとりで入ってきたからと言って不躾な態度を取ることもなく、大島プロダクションと予約名を告げると心得たように記名帳とボールペンを差し出してきた。


「わたしの名前を書けばいいですか?」


「そうですね、本日お泊りになる方のお名前をお願いいたします」


 黒くてツヤツヤしたペンでサラサラと自分の名前を書いて、元通りペン立てに戻した。土台の上についているペン立て部分がキャップになっていて、ペンが収まっている今の状態だとちょっとしたオブジェみたいだ。昔から病院とかホテルなどではよく見かけていたけど、カウンターや記入台を飾るささやかなインテリアも兼ねていたのかもしれない。


「それでは松田様、こちらの者がお部屋までご案内します」


 受付の人にそう手で指し示された先には、同じ制服を着た男性が立っていた。先導されるようにエレベーターホールまで進み、その人の少し後ろでエレベーターが下りてくるのを待つ。


 荷物を持つと言ってくれたんだけど、貴重品も入っているからやんわりお断りした。もちろん荷物を持つのもこの人のお仕事だから申し出てくれただけで、何か悪いことをされるなんて欠片も思ってはいない。短期間の旅行用にちょうどいいサイズのボストンバッグを持ってきたんだけど、身長が小さめな私が持つと実物よりもちょっと大きめに見えるみたいで心配してくれたのかも。


 『お気遣いありがとうございます』とお礼を言いながらペコリと頭を下げると、微笑んでくれたので特に気分を害してはいないみたいだ。もしかしたら荷物を預けないお客さんも一定数いて、こういうのは日常茶飯事だったりするのかな?


 案内されたのはシングルベッドがふたつ並んでいるツインの部屋だった。窓のそばに夜景を眺めながらくつろぐためなのか、小さなテーブルとゆったりと座れる椅子が置いてある。もちろんテレビもあるし、荷物収納用の棚とか壁紙が雰囲気を合わせられててオシャレな感じがする。


「ごゆっくりおくつろぎください、もしも外出される場合はフロントにお声がけをお願いします。松田様の宿泊プランには夕食と朝食がついておりまして、当ホテル内のレストランで提供しております。もしよろしければこちらで夕食の予約をさせていただきますが、何時頃がよろしいでしょうか」


 案内してくださった人が立ち去る前にそう言ってくれたので、20時ぐらいにとお願いしておいた。おいしいものは食べたいけれど量はそれほど食べられないので少なめでと希望を言うと、和食・洋食・鉄板焼きのいずれかがいいのではないかとオススメしてくれた。他はコース料理になるみたいなので、そりゃあ量を減らしたい人には向かないよね。


 ホテルの人が立ち去って、自分のカバンを窓際の椅子の上に置く。一応到着の連絡はしておいた方がいいよね、事務所と洋子さんのポケベルに。確かロビーのところに何台か公衆電話が並んでいたので、散歩がてら行ってこよう。このまま座り込んだら、しばらく動きたくなくなりそうだし。


 おサイフだけ持って、さっき受け取った鍵で戸締まりする。通ったばかりのエレベーターホールまでの道を逆戻りして、タイミングよくやってきたエレベーターに乗って1階に下りた。ロビーから見える外の景色は、もう真っ暗になっていた。ホテルの前を通り過ぎるたくさんの人を見ながら、まずは事務所に電話を掛ける。当然ながら知っているデスクさんが出てくれたので、無事に着いたという報告とホテルが豪華でびっくりしたという感想を言っておいた。どうやら事務所のスタッフさんたちはみんなが知ってたみたいで、『後でドッキリ成功だったって報告しておくね』と楽しそうに言われてしまった。なんだろう……多分私に対しての愛情からの行動だとは思うのだけれど、若干おもちゃ扱いされている感が否めない。


 事務所への連絡の後は、洋子さんのポケベルへとダイヤルした。ものすごく早くボタンを押す人も見かけるけど、私は間違ったらと不安になるのでゆっくりな感じでプッシュする。私が送った数字は『101004106』という一見すると意味不明なものなのだけど、これは洋子さんとの連絡用にふたりで考えたメッセージだ。10で『とう』、100で『ちゃく』。4106は『してる』と読むんだけど、すごいこじつけだなぁと改めて思って苦笑を浮かべた。


 さてさて。まださっき予約した夕食の時間までは余裕があるので、先にお風呂に入ろうかな。トラブル防止のためにホテルに入ってからチェックアウトするまでの外出は禁止だし、大浴場での入浴もなるべく控えてほしいと中学に入ってから洋子さんに言われている。やっぱり小学校の頃と比べると二次性徴が進む年頃だし、性的な色々を心配されているんだろうね。私個人を心配しているのも確かだけど、事務所にとっての私は大事な商品なのだから、傷がつく危険をできるだけ避けられるようにという気持ちはよくわかる。だからこそ今日もユニットバスだけど、部屋風呂がある部屋を手配してくれたんだろうし。


 部屋に戻ってバスタブにお湯を溜めている間に着替えやバスタオルなんかを準備してから、のんびりとお風呂に入った。12月下旬にもなると寒さも本格的になっていて、乗り物に乗った移動ばかりだったけれどお湯に入った途端にその温かさに手足がジンと暖められていく。高級ホテルだからアメニティも充実していて、1回ないし2回使えばなくなる小さな容器だけどすごく使い心地がよかった。


 十分に温もってお風呂から上がって、髪を乾かしたりお肌の手入れをしている間に結構な時間が経ったのか夕食の時間が迫っていた。慌てて身だしなみを整えてレストランフロアに行き、おいしい夕食を頂く。事前に言っていた通りに量を少なめにしてくれていたみたいで、給仕の店員さんに『もし足りなければおっしゃってください』と気遣ってもらった。私には少なくしてもらった量でも多いぐらいだったけれど、ここまでしてもらったのにお残しするのは申し訳なく思えて頑張って食べきった。


 お腹がはち切れそうになりながら部屋に戻って、明日胃が痛くなったら嫌なので予防的に胃薬を飲んでおく。痛み止めとか胃薬とか酔い止めみたいに、急に体調が悪くなった時に備えて小さなお薬入れを念のために携行しているのだ。生理でものすごくお腹が痛かった時には、持ってきていてよかったなぁとしみじみ思った。その日は仕事中だったから辛い顔はできないし、撮影中以外はずっと楽屋で横になってたんだよね。


 前世で聞きかじった知識として、右側を下にして寝転ぶと消化が早まると聞いたことがある。ただ胃がムカムカしたりする場合は胃からの逆流を防ぐために、左側を下にする方がよかったのだったかな? もしもそのまま寝入ってしまう可能性を考えて、パジャマに着替えて歯を磨いてからベッドに横になった。シン、と静かな部屋でこうして目を閉じていると、なんだか世界にひとりぼっちになったみたいで少し寂しい。生まれ変わる前は誰とも会話せずに、自分の部屋でただひとり苦しさに耐えていたから孤独には強い人間だと思っていたんだけど……実は全く逆で、寂しがりやだったのかもしれない。


 そんなことを考えていたら移動の疲れもあってか、あっという間に眠ってしまっていて。次に目が覚めた時には、そろそろ日が登り始めるぐらいの早朝の時間帯だった。


移動で終わってしまったOTL

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― 新着の感想 ―
狭いビジホでも部屋に入ったときの開放感とかは良いので、お高いホテルならもっと開放感あるだろうなあ すみれは最近はいろいろあったので、気分転換して参れ、という事務所の粋な計らい…ヨシ!
分かるけど大浴場NGは寂しいっすねー お風呂といえば旅の醍醐味のひとつだし
多くの人に見られるのはすみれが美少女として育っているからですかね〜。 しっかりとした子なので、一人旅でも安心感はあるけど、別の意味で心配です。 クリスマスになおとふみかと会うのなら、二人にとって一番…
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