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「共犯者は……俺?」
「そう」
車六はびしっと磯崎を指指す。
「あんたが犯人に協力したんだ」
磯崎は混乱していた。
共犯者が自分だって?
なぜ警察官である自分が犯人に協力なんかしなければならないんだ?
頭を抱える磯崎。
そんな磯崎を車六はくすくす笑って
「落ち着けよ、相棒」
いつから俺はあんたの相棒になったんだ。
きっと睨み付けると、車六は肩をすくめた。
「何もあんたが殺人に協力したと言っているわけじゃない。ホントの意味での共犯者だと言ってるわけじゃないんだ」
「なら……」
なら、どういう意味だ?
「結果的に犯人に協力する形になってしまったんだよ、あんたは」
そういってニヤニヤ笑う車六。
磯崎はムカッとして
「協力って……俺はそんなこと」
「いいや、あんたはしたんだ。ようく、自分のしたことを思いかえしてみな」
そう言われて、磯崎は急いで頭を回転させた。
仮装パーティーに無理やり巻き込まれた磯崎。
殺人を目撃する。
あわてて犯人を追う。
仮装を脱ぎ捨てる暇もなく。
目撃者の証言から、必死で真ん中の道を走っていく……
「あっ」
と、磯崎は叫んだ。
「まさか……」
車六のニヤニヤ笑いが拡がっていく。
磯崎は信じられないような思いで、呆然となる。
車六は尚もニヤニヤと笑う。
彼は言った。
「気づいたようだな」
「気づいたもなにも……いや、でも、そんなまさか」
そんな馬鹿げたこと。
「あらゆる可能性を消去していって残った仮説は、例えどんなにそれがありそうにないことでも、それが真実なんだ」
ホームズの台詞を引用した車六は満足そうに
「目撃者達は、ただ走っていくカボチャのコスプレ野郎を目にしただけだ」
ゆっくりと、真相を告げる。
「つまり」
びしっと再び指差す車六。
「飲食店の主人達は、あんたを目撃したんだ。あんたは追っているつもりで、逃げていく犯人の様を目撃させてしまったんだよ」
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改めて言われても、信じられなかった。
そんな馬鹿な……馬鹿なことが。
「でも真実だ」
心の中を見透かしたように車六が言う。
いや、でも……
「それなら、もし俺を目撃したのだったら、主人達はそう言ってもよさそうなものじゃないか。詰問された時に、逃げていく犯人じゃなく、あなたを目撃しました、と」
車六は首を振って
「それは無理な相談だ」
「なんで無理だって……」
「自分の服装を思いかえしてみな。あんた、事件の調査をする時には、もう仮装を脱いでしまって、警官の制服を来ていたんだろう?」
「あっ……」
指摘された磯崎は思わず叫ぶ。
「ミステリでよく使われる手に、一人二役というのがある。一人の人物が二人になりすまし、それぞれの姿を目撃させておいて、もう一方の変装を解いてしまう。すると、人一人消えたように見える」
車六は重々しく頷いて
「あんたはそれを、一人二役トリックを、期せずして使ってしまったんだ。追うカボチャの姿と、尋問をする警官の姿と」
「さらに」と車六は続けて
「あんたは実際の犯人と同じような格好をしていた。そのことが混乱に拍車をかけた。まさか自分の姿を報告されてるとは思わないから、あんたは追っていく自分のカボチャコスプレを、犯人のものだと勘違いしたんだ」
犯人がついた嘘。
同じような二人の仮装。
そして着替えてしまった自分。
全てのピースがはまっていく。
不可解な消失事件だったものが、氷解していく。
後に残るのは、間抜けな自分の姿だけ。
「そんな、そんな馬鹿な……」
「まあ、気をおとさんことだ。」
車六はニヤニヤと笑った。
「杜撰な、群衆の中での殺人だ。消失の謎が解けた今、簡単に犯人は掴まるだろうよ」
「それは……」
果たしてそうだろうか。
はたして捕まったところで、自分がしでかした間抜けなミスは取り消されないのではないか。
なおも頭を悩ませている磯崎に車六は
「中々美味しいミステリだったよ。ハロウィンのごちそうだな」
そういってにやりと笑ってみせる。
磯崎は毒づいた。
「ハロウィンなんてくそくらえだ!!」
ー了ー