序 優等生の独り言
内地の人間という者は北海道の大きさをいまいち分かっていないように思える。同じ都道府県内ならば環境にさほど違いはないのだろう。別の街へはふらっと出かけることができるのだろう。この勘違いを訂正するつもりはない。一人を訂正したところで別の人間が同じことを言うのだろうから。
違いがないのであれば俺がこうして汗を流すこともないのだ。いや、汗はかく。どれくらいかくのか、ということだ。
「北海道の夏って思ったより暑いんだなあ!」
などと言いながら大学の構内を歩いて行く集団を横目に、俺は日陰を歩いている。
「朝日は道内出身者なのにこれに慣れてないのかあ」
と言われたこともあるが、冗談はよしてほしい。札幌と星影を比べてどうしようというのだ。道民という者は気温の変化に敏感だ。だからこそ、この微々たる差さえも非常に暑く感じてしまうのだろう。ああ、故郷の夏が懐かしい。
金髪碧眼の一団が横を過ぎて行った。
ここは日本の縮図だ、と春に思ったが、その直後に俺は考えを改めた。ここは世界の縮図である。日本全国から集まった学生達。はるばるやって来た留学生達。俺もまた、別の街からここへやって来た一人である。