プロローグ 始まりのはじまり
誰しもが願ったフルダイブ型ゲーム。
着々と技術が進歩していった結果、2036年その願いは現実になった。
2036年1月1日。あるゲーム会社と人工知能制作会社の合同発表会がフランスから世界同時生配信された。
ゲーム会社は落ち目の企業だった。数年前に世界的ヒットを飛ばしたMMORPG(マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロール・プレイング・ゲーム)、ファンタジー色が強く美麗なグラフィックと圧倒的自由度から多くのネットゲーマーが時間を忘れ過ごしたFAO。しかし栄光は長く続かず利益に目が眩み、課金アイテム必須の難易度のクエストやボスモンスターなどが実装され始め、5年続いたFAOは幕を閉じた。
一方の人工知能制作会社はどこでも目にするレベルの企業だった。カーナビなどに搭載するAIを開発していた会社だ。「人間を造る」というキャッチコピーを掲げ、人間味溢れるAIを開発してきた。言い得て妙な人造人間を造る企業だ。
配信が始まった。カメラに向かって半円にのびるテーブルに肘をついて椅子に座っている中年男性と、対照的に背筋をピンッと伸ばして如何にも真面目なメガネを掛けた壮年の男性。酒が入っているのか赤ら顔で冗談を交えながら中年男性は自身がCEOを務めるゲーム会社の話と隣に座る男性の紹介を簡単に行った。SNSに寄せられたFAOのことをどう思っているのかというタブーととれる質問に対しそれまでとは打って変わって真剣な表情で答えた。FAOの開発に当たっては右も左も分からない状態で臨んだ。当時の自分はゲーム開発者にあるまじき考えを持っていた。ユーザーのためを思ってではなく利益だけを求め開発していた。本当に申し訳なかった。男性は時折言葉に詰まりながら、目に涙を浮かべそう吐露した。感情が収まり、暫しの沈黙の後、男は述べる。今回の発表は実現まであと十数年必要とされたフルダイブ技術の開発に成功し、そして現在その技術を用いたゲームの開発に着手していると言った。「なぜ開発が成功したのかというと…」そこで話を中断し、カメラの左側に手招きをする。画面に一瞬大きく映ったそれは男二人の待つ所に進むにつれ小さくなっていく。テーブルの前に立ち丁度両者の間になる所で止まりクルッとカメラに体を向ける。バイオレットカラーのローブにホッケーマスク。異様な出で立ちだがそれだけでなく、見ると座っているはずの二人と同じ身長でよく見るとローブの袖と裾がだだ余りし格好がつかない様になっている。よっぽど身長が低いのかそれとも子どもなのか。男は笑顔で続ける、彼がいたから年数としては短いが進歩としては長いと思われた技術開発に成功した、話は彼の方から聞いてもらいたい。ホッケーマスクは静かに切り出した。「私には夢がある。」マーティン・ルーサー・キング・ジュニアが演説で放った有名な一節だ。声を聞けば判別がつくと思われたが、ボイスチェンジャーを使用して出される低い声が一層何者なのか分からなくさせる。有名な一節に続ける。私の夢はもう一つの現実をつくること、その他いささか不本意だがこの開発に携わった。ゲームには興味がない。そう言うとトコトコと歩いて行き、カメラの左側に姿を消していった。二人は一瞬困惑の色を顔に浮かべるも、カメラ向かって左側のゲーム会社CEOの男がしゃべり始める。開発者には変わった子が多いんだ。ホッケーマスクをフォローするようにそう言った。
それからはゲームがどういったものになっているか、ゲームを主に運営するのはAIにするだとかそんな感じのことが発表された。配信の最後にどういった機器でプレイできるのかなどは後日改めて発表すると締めくくった。
衝撃の発表は各国のメディアが一斉に報じた。世界初となるフルダイブ型ゲームは挑戦的なファンタジー系のMMORPGになりワールドマップは五大陸を合わせてもそれに及ばずゲームスタート後も広がっていく。サーバーは欧州サーバー、アメリカサーバー、日本サーバーの三つ。ゲームを行うのに必要な機器は完全没入するのであれば縦長の円柱を横にした機器かそれに劣るものの十分に楽しむことができるヘッドギア型になる。円柱型は液体呼吸のできる特殊な液体に全裸で入り、頭に電極ホールヘッド型脳波計のようなものを装着し無重力の中、快適且つ最大限にゲームを楽しむことができる言わばコア中のコアゲーマーが買う機器だ。月額接続料金3000円<日本円換算>。機器の価格は日本円でヘッドギア型は30万円、円柱型はなんと300万円と破格の値段だ。機器を買い、月3000円払えば誰でもプレイすることができる。そして無料で遊べるゲームも開発中だと言っている。機器の販売は日本時間の2月10日から発売<円柱型はネット限定販売>、α(アルファ)テストは自社で済ませたとのことでβ(ベータ)テスト<期間中は無料>は2月20日午前0時00分からスタートし、3月10日午後11時59分までの20日間。ゲームバランスの調整やバグの修正をした後、3月20日午前0時00分より正式サービス開始。
SCO。各国によってゲームタイトルが違うことはままあるが、万国共通でこのタイトルに決定した。当然のように日本のゲーマー達も発表を聞き盛り上がったが、いかんせん接続料3000円はいいとしてプレイするのに最低でも30万円払わなければいけないのがネックとなった。高いと言う者もいればフルダイブ型ということで30万円は寧ろ安く、今後を考えるとお釣りがくるレベルだと言う者もいた。
1月5日都内某所の3000坪の豪邸。一人の少女が目を覚ます。
「うっ、う〜ん。」
目を擦りながら身体を起こす。枕元のリモコンを押すと照明が付き、カーテンが自動で開かれた。美麗な姿が露わになる。差し込まれた光で神々しさが増した金の髪。目鼻立ちがはっきりとしつつもかわいらしげのある白く透き通るような整合性の取れた顔に海のような深青色の瞳。彼女はまだ眠たげなのか消え入るような声でこう言った。
「爺や〜〜。」
すると10秒と経たずに180cmを優に越す背丈且つ古稀とは思えない厚さの胸板を持った老人が現れた。
「なんでしょう、お嬢様。」
「予約はしたの?」
「?」
「ADAMの予約よ!」
彼女の言うADAMとは円柱型のフルダイブマシンのことである。ヘッドギア型はEVEである。
「申し訳ありません。なにぶん機械に疎く。」
老人はしょんぼりとする。
「私がやっておきました。」
老人の後方で声がした。二人はそちらを向くと其処には小豆色の髪で片目を隠した二十代後半と思しき女性が立っていた。老人が睨みつける。
「そんな怖い顔しないでください。行き遅れの老人に代わって大事な大事な職務を全うしただけじゃないですか。」
女性は鼻で笑いながら言った。
少女は言った。
「黒澤、こっちに来て。」
黒澤とは女性の苗字である。
「はい。只今。」
「良くやったわ。素直に感謝してあげるわ。」
少女は溢れんばかりの笑顔で黒澤に抱きついた。
「へぎゅっ!?」
黒澤は突然のことでそんな奇声を発した。
「ああ、お嬢様いけませんこんな、この身に余ります!」
黒澤は顔を赤くしてそう言った。呆れた爺やが投げかける。
「しかしお嬢様よろしいのでしょうか?先日は2月20日からの べぇいたてすと にご参加なされると申しておいででしたが べぇいたてすと が行われる20日間は予定がびっしりとはいっていたような...」
少女は悶絶している黒澤の腹の辺りから顔を離し、爺やの方に顔を向け自信満々に言った。
「そのことなら大丈夫よ!20日丸々はダメだったけど10日はどうにかなりそうなのよ。」
余韻で虚空を眺めていた黒澤が正気を取り戻し疑問を呈する。
「どのようにしてそのように?習い事や会食などもありましたでしょう?」
少女は言った。
「会食は断ったわ。お母様にすごく怒られたけど。習い事は今度の発表会で入賞すればその間はやらなくて良いって!でもその後の10日間がみっちり勉強!勉強!勉強!って。」
黒澤はわざとらしく言った。
「もうすぐ内部進学試験ですものね。こんなに小さいお嬢様が高校生だなんて、黒澤感激です。」
「余計なお世話よ!」
爺やが厳しく言う。
「しかしお嬢様の学業の成績は余り良く有りません。期間内にお越しになる先生は凄腕だと聞きます。どうかその間に積学なされては。」
「う〜耳が痛いわ。でもやってやるわ!」
「「その意気です!!」
黒澤と爺やが同時に言った。
ぐぅ〜と音が鳴る。
「そういえば今日の朝ご飯は何?」
少女は照れながら聞く。爺やが答える。
「今日はお嬢様の大好きなパンケーキになります。」
「やったーー。」
「やりましたねお嬢様!」
3人は扉を出て一階のダイニングへと向かうため歩き出した。
次はいつ上がるかわかりません。できれば感想を頂けるとこれ幸いです。




