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転生少女、神隠しに行き遭う

「んっ……あれ」



目が覚めると、私は冷たい祭壇の上で寝かされていた。なんでこんな所に。と思ったけど、そういえば私、背後からいきなり後頭部をぶん殴られたんだっけか。というか、いきなり後頭部を殴りつけるって何事よ。元々弱かった頭が使い物にならなくなったらどうしてくれるんだ。


まだ見ぬ犯人に憤慨しながらもとりあえず、身体を起こして窓から指す青白い月光だけを頼りに辺りを見渡す。私の寝ていた祭壇を中心にして左右にベンチタイプの長椅子が列を成し、装飾の至る所に十字があしらわれている。

これを見る限りだと、ここはさっきの教会の中かな。


「目が覚めたね」


自分の呼吸音しか聴こえない空間の中に反響した男の声。警戒して周囲に視線を配るけど声の主らしき人影は見つけられな



「ーーこっちだよ」



背後から囁かれた言葉にビクリと肩を跳ねさせる。突如現れた黒いロープを纏った男の存在に驚きすぎて叫び声を上げることが出来ず、けれど反射的に飛び退いて男から距離を取った。


教会の外から感じたあの嫌な気配が再び私の身体を襲う。それはあの男から発されているようで、彼が姿を現してからはより強く、より鮮明に感じ感じる。



ーーピコン



ステータスを表示する電子音が鳴った。

のに、一向にウィンドウが開かれない。

どういう事……?音が鳴ったって事はゲームの登場キャラクターなんだろうけど、肝心のステータスが表示されないって……。

もしかして、フードで素顔が見えないから、とか……?

なんにせよ、この男はすごく不気味だ。



「誰ですか」



今すぐにでも走って逃げ出したい衝動をどうにか抑えて、あくまでも冷静に問いかける。


「それは言えないなぁ」


どこか楽しげに答える男。その声にはどこかで聞いた覚えがあった。私は以前、こんな感じの男にどこかであったような気がするんだけど、肝心のどこでだったかまでは出てこない。


が、こいつがどこの誰だろうと今の私には関係ない。私は早いところリーナを見つけて連れて帰らなくちゃならないんだから。



「……ここに女子生徒が来てませんか。栗毛の長い髪の女の子なんですけど」


「うん。君の探してる女の子を、僕は知ってるよ」


やっぱりここにリーナがいるの!?

どこにいるの!?と口を開こうとしたその直前、彼はパチンと指を鳴らした。

なぜ指パッチン!?と驚かざるをえなかったけれど、次の瞬間、ずっと探し続けて居た栗毛の少女がまるで無重力空間の中にいるように私の目の前でふわりと宙に浮いて現れた。



「心配しなくてもちゃんと生きてるよ。今は眠ってるだけだから」



口を開けたまま唖然とする事しか出来ない私の背中から嘲笑する様な声が投げられる。


な、何これっ!?どうなってんの!?

マ、マジック!?手品っ!?イリュージョンっ!?



「……彼女が九十九人目だったんだ」



目を丸くする私の前で彼はうっとりとした手つきでリーナの髪の一房を掬って口付けた。物語の王子様がお姫様にするみたいに。


でも、そんなロマンチックなシチュエーションじゃない事くらい私にだって分かる。何が九十九人目なのかはさっぱり分からないけれど、彼が次に何を言おうとしているのか、分かりたくなかったけどなんとなく悟ってしまった。

九十九って数字は中途半端な数字だから。多分、きっと……。



「そして記念すべき百人目は……

ーー君だよ」



ですよね!!知ってました!!

大急ぎで扉の方へと体の向きを変えて全力で駆け出した。

リーナを助け出すつもりが、自分までノコノコと釣られて、その上その友人を置いて逃げ去るなんて情けなさ過ぎて涙が出そうだけど、どう考えたってあの男はヤバい。関わっちゃあかん系の奴や!

ここで私まで捕まったら、助けを呼ぶ人が居なくなる。そこまで考えた上での戦略的撤退だ。


だったのだが。


「ーー逃がさないよ?」


「きゃっ!?」


瞬いた次の瞬間には、何故か彼の腕の中で手首を掴みあげられていた。

確かに扉に向かって走った筈なのに、気が付いたらまた祭壇まで戻ってるし!?



「離してっ!離してってば!はーなーせーっ!!」



しかも尋常じゃないほど力が強い。男と女の差っていう訳じゃない。まるで鋼で出来た拘束具みたいにどんなにじたばたしてもビクともしない!



「あーあ、あんまり暴れないでよ。僕としても、女の子相手に乱暴な事はしたくないんだからさ」


「い゛っ!」


とか言いつつ、私の手首を握っていた力を一瞬強める。それがあまりに痛くて、私の目尻から一粒涙が零れ落ちた。

嘘でしょ。今、手首の骨がメキメキっていった気がする。



「さてと、時間も無いことだし。さっさと始めようか」



フードの奥の瞳が妖しく光る。同時に真っ白な長くて鋭い八重歯もちらりと覗いた。

まるでおとぎ話に出てくる吸血鬼の様な姿に一瞬「いやいや吸血鬼なんているわけが……」と思いかけたけど、そういえばここって吸血鬼との恋愛ゲームの世界でしたね!?

今まで全然出てこなかったからすっかり忘れてたけど、やっと出てきたな吸血鬼っ!!

……とはいえ、何もこんなタイミングで出てこなくてもよかったんだよ?



ーーぺろっ



「ひゃっ!?」



自分の考えに浸っていると生暖かいものがゆっくりと首筋をなぞるのを感じた。

いやいやいや無理無理っ!!気持ち悪すぎるっ!全身の鳥肌が一気に逆立ったわ!



「このっ、変態吸血鬼っ!!」


「……へぇ。君、僕が吸血鬼だってよく分かったね」


怒りに任せて叫んだ言葉に彼が首から口を離した。相変わらず表情は見えないけど、多分声の調子からして驚いてるんだと思う。


「まぁ、それだけ人間離れしたら上にそんな鋭い八重歯が見えたら」


「ふーん。今までの女の子達は誰一人として気がつかなかったけどね」


「マジか」



とは言っても、私もここがそういうゲームの世界だって知ってるから分かったんであって、知らなかったら吸血鬼なんて信じてなかっただろうけど。下手したら、彼の事を(人間離れしたヤバい人』ぐらいにしか思わなかったかもしれない。


ん……?というか件の女子生徒神隠し騒動の犯人はこの吸血鬼って事だよね?



「あの。ちょっと聞きたいんですけど」


「君、今の状況分かってる?」


「なんでたくさんの女子生徒を誘拐したりしたんですか?それに、さっきリーナを九十九人目って……」


「君は人の話を聞かないタイプか」


あからさまに溜息を吐かれた。っと、ふと手首の拘束していた力が無くなる。



「やめた。君みたいな野蛮で雑で低脳の血を吸ったら、僕まで馬鹿になりそうだし」


「はっ!?」


「僕、女の子は大好きだけど正直、君みたいな子は守備範囲外。もういいかららその子連れて帰りなよ」


「なっ!?」


「……あーあ、せっかく珍しい血の持ち主だからってあの日からずっと楽しみにしてたのにこんな奴だったなんて、すっかり騙された……」


「はぁ!?言わせておけば、なんなのアンタ!散々人を振り回しといて……っ!!」



最後のは声が小さくて何言ってるか全く聞こえなかったけど、ディスってるのは雰囲気で伝わったわよ!?

馬鹿だから要らないって!!そんな悲しすぎる理由で吸血鬼の本能に打ち勝つって!!それはそれでなんか悔しいんだけど!?

……まぁ、実際私は馬鹿で間違いないし、血を吸われなくて済むならいいけどさ!!



「大体、私の質問にまだ答えてないでしょ!?」


「はぁ?なんで君の質問に答えなきゃいけないわけ?美人だったらまだしも」


「だまらっしゃい!答えないと、アンタが吸血鬼だって全校生徒にバラすわよ!?」


「……君、僕の名前知ってるの?学年は?そもそも、吸血鬼だってバラしたところでみんな信じると思う?」


「あっ……」


言われてみれば私はこの男の名前は愚か、素顔すら見たことが無い。それに仮にこの男の素性を知ったところで吸血鬼なんて言ったところでそんな事誰も信じるわけがなかった。

くっそ、作戦失敗だ。


「本当、君って低脳っていうか。それでよく一人で友達を探しに来れたよね。馬鹿なの?あぁ、馬鹿だったね」


「煩いな!馬鹿っていう方が馬鹿なんですぅ!バーカ!バーカ!」


「うわっ、ガキくさ」



我ながら情けないけど、最後の方はもうかなりムキになって言い返していた。さっき音が鳴ったって事はこいつも攻略対象なんだよね?

誰もこんな生意気な奴攻略したいと思わないだろうけど!!




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