第四節・第一話
第四節
四日目の朝は、雨と迎えた。
保健室のベッドで一人、目を覚ます。
外からは、遠慮がちに降るこぼれ雨の雨音。
窓に途切れ途切れ雨滴が垂れる。
雨が冷やした空気が肺に染み込む。
鵠の姿は見当たらない。
テーブルの上に、いつものメモ――ではなく、封筒が置いてあった。
“前葉君へ”
表にはそれだけ書かれていた。
数秒間、止まっていた。
呼吸音も心臓の鼓動も遠く、ただただ、臆病な雨音だけがそこにあった。
……封筒を手に取ることもせず、俺は寝間着で飛び出た。
足を捻りかけながら、バランスを崩しながら、足を踏み出す。
校内の部屋を片っ端から開けては確認する。
彼女の影さえ見えない。
一階、二階と進んでいくうち、無意識に彼女の名前を呼んでいた。
なりふり構わず、鵠の声を求めた。
それでも、耳に入るのは木霊する自分の足音と、雨音のみ。
二階も三階も探し終えて、残る場所は一つだけだった。
この数日間、通いなれた階段を登る。
屋上扉を前にして、ドアノブを掴む手が震える。
一日の始まり、彼女と会うのがここだった。
空に囲まれた屋上には、いつだって彼女がいた。
朝の挨拶の後、鵠がその日の空の色を呟く。そうやって、廃校での一日が始まった。
扉を開く。
俺を迎えるのは、薄い雲に覆われた空と、雨で波紋を作る屋上。
そこには、誰もいない。
鵠はいない。
――こうして俺は、鵠椎名を失った。