88話 エピローグ
俺はルーラ・ケイオス。
結構巷では有名な、というかかなり名の知れた転生者だ。
転生者ということもあって、創造魔法という名のチートスキルを所持している。
人に見せびらかしたりはしないが、自慢のスキルだ。
このスキルは、色々な思い出が詰まってる。
一番昔だと、幼少期の頃にポテチとか作って食べてたのは覚えてる。
詠唱も適当に使ってたけど、俺の創造魔法スキルはLVが∞だから関係ないんだよな。ほんとチートスキルだ。
一番鮮明に頭に残っているのは、やっぱりエンシェントグリフォンと戦った時のことかもしれない。
今となってはあの魔獣も適当に歩いてれば倒せるぐらいの強さだけど、当時の自分にとっては格上の相手だった。
一歩間違えたら、今この場所に俺は存在しなかったかもしれない。
そういうレベルの相手だ。
振り返ってみても、なぜあいつに勝てたのかよくわからない。
いかにチートスキルといえど、元のステータスが弱ければ勝てないものは勝てない。
昔のことだからはっきりとした記憶はないが、何か強い気持ちでもあれば、奇跡を起こすことが可能なのかもしれない。
そうそう、幼少期から仲良しだったセシル。
俺の目の保養係だった彼女は、今では立派な聖女様だ。
戦争や紛争の起きている地域、魔獣の侵攻にあっている場所へと足を運んでは現地の人々を救い、戦争を終わらせている。
その活躍は目覚ましいもので、セシル・リング・フォートの名を聞けば誰もが自分のことのように自慢するほどだ。
親友としてとても嬉しいばかりだ。
中等校を卒業したところで俺は彼女とは別れた。
それきり一度も会ったことが無いのは、少しだけ、いや、正直かなり寂しい。
時々彼女の姿を、目の保養ではなくて、一人の人として会いたいと思うときがある。
でもしょうがないのだ。
聖女として本格的な活動に入ったから、とても忙しくて俺と会うことなどできないだろう。
昔は弱くてよく泣いていたセシルも、今では強く美しい聖女。
沢山の出会いと別れを繰り返しながら人生を歩んでいくのだ。
俺のことなんてもう覚えていないかもしれない。
気にしてもしょうがないことなのだ。
俺には俺の人生があるように、セシルにはセシルの人生がある。
俺が会いたいと思っていても、セシルがそう思っているとは限らない。
セシルにはもう、最愛の人がいるかもしれない。
その人と温かい家庭を築いているかもしれない。
それがセシルの願う幸せの形なら、俺がどうこうすることではないのだ。
もう誰も頼ることなく生きていける、立派な人間になったのだから。
「はぁ……」
考えているうちにため息がでる。
頭の中では整理できているはずなのに、心はまだ寂しいみたいなんだ。
ふとした時に、路地裏とか馬車から見える景色の中とか、いるはずもないのにセシルのことを探していたりする。
いるはずもないのに。
「もうすぐ着きますよ」
馬車を運転する御者の声が俺の耳に入った。
話は変わるが、俺は旅をしている。
セシルみたいに困っている人を救うことも考えたが、そういうことは勇者とか聖女とかがやる仕事だ。
それにそういうヒーローじみたことは、俺には向いていない。
色々考えたが、俺は転生者として前世の世界を知っている。
しかし、この世界のことはまだまだ知れていない。
ここに宇宙はあるのか、そもそもここは惑星?俺の立っているこの場所は地球のように丸くなっているのか。
それすらわかってはいない。
逆に言えば、新しい発見がたくさんあるはずなのだ。
俺の知らない、見たこともない世界への扉が無数に存在するんだ。
その扉を開けるために、心はずっと初心者のまま、俺はずっと世界を探検し続けている。
と、急に馬車が停止した。
「お客さん!街が燃えてますよ!こりゃひどい有様だ」
御者の驚きの声に、俺も窓から外を見てみる。
「……マジか」
俺が向かおうとしていた街が何かの襲撃にあっている。
建物の崩れ方からして人間の仕業ではない。
しかし魔獣よりもひどいな……
「身体強化」
魔力を目に集中させ視力を大幅に強化すると、遠くに見えたのは真っ黒な魔獣……のような何かが大量にうごめく様子と、街の中心部に張られた超巨大な結界がそれの侵攻を防いでいるところだった。
御者がまた驚きの声を上げる。
「ありゃすごい結界だ。相当の手練れでしょうかね。お客さん、あそこは危ないでしょうから、引き返しましょうか。今回ばかりは特別、帰りの分の金は無しにしましょう」
「いや、いい。ここで降りる」
「な、お客さん!そんなこと言っても、見れば分かるでしょう!今街に向かえば明らかに危険なことは──」
「大丈夫だ、こう見えて俺、結構強いんだぜ」
御者が困惑する。
「俺……?まあいいです、こんなに小さな少女一人を下ろすなんて、私には到底できません。無理やりにでも乗っていってもらいますよ」
「それはできない。ありがとなおっちゃん。これ金な」
適当にアイテムボックスから取り出した革袋を渡す。
「こんな袋を渡されても……は!?全部金貨ってお客さん、一体いくら持って」
「スキル『超絶身体強化』」
これで急げば間に合うはずだ。
「迷惑料な。んじゃ」
飛ぶように走る。
残された御者の一言。
「……一体何者なんだ」
もう馬車から遠ざかったから見えないけど、多分あの人はそういったと思う。
爆速でレーザーのごとく街道を駆け抜け街に入る。
途中黒の従属魔獣が数体いたので、足場にして倒しながら駆け抜けた。
にしても、黒系等の魔獣はかなり強力だ。
普通この辺りには生息していないはずなのだが……。
個体値がバカ高いため、普通に肉弾戦して勝てる人間はほとんどいないと思う。
光に対する魔法耐性も高いので、魔獣の中ではかなり害悪な部類に入る。
まあ俺はそれ以上にチートしてるから、たいあたりするだけでもワンパンだけど。
街の中心部に近づくにつれ、だんだんと魔獣の数が多くなってくる。
デーモン系が多い。
時々キメラとか巨大蜘蛛とか透明コウモリとかもいた。
とりあえずワンパン。
そして超巨大な結界の前まで来た。
一定の区域を囲むようにして展開されている。
かなり強力なものだし、範囲も直径1km以上あるだろう。
この結界を出せる魔法使いは、ただ者じゃないな。
中から外へは出られるが、外から中へは物理的にも魔法的にも入れない仕組みのようだ。
まあ、結界にへばりつくようにしてうじゃうじゃと魔獣がいるから、中から外へ出るのもむずかしそうだけどな。
「スキル『龍獄剣』」
龍の形をした金色の剣閃が数百生成される。
一歩も動かずに、適当に結界前の魔獣を駆逐。
いや、抹消と言った方が正しいか。
「さてと」
結界は強力だ。
だが、いかんせん魔獣の数が多い。
一体一体の個体値も高いため、周囲から攻撃され続けているこの結界は長くは持たないだろう。
なんせ家一個を楽々粉砕するようなパワーで殴られ続けているのだ。
耐え続ける方が難しい。
「スキル『生態察知』」
頭の中に大量の情報が流れ込んでくる。
っと、なんと今いる俺の反対側で結界が破られ魔獣に侵入されているようだ。
道理でこちら側の結界が薄いと思った。
でも、一か所崩されても他方は維持するとか神業だな。
「スキル『虚行』」
空間を断絶して、まるで転移したかのように移動する。
これで結界の中に入れた。
建物を避けて進んでは時間がかかるから、建物の屋根伝いで空中散歩するように移動する。
だんだん戦地に近づく。
広がる悲鳴と怒号、魔獣の咆哮。
「……見つけたっ!」
生態察知で一番強力なドラゴンの魔獣の個体を判別。
「スキル『絶翔』」
縮地の2段階上、絶翔を使用しターゲットの真上に到達。
後はいつものように。
「スキル『無限光ノ神太刀』」
アイテムボックスから取り出した超強い剣を両手でもって、スキルを使用し振り下ろす。
空中にいた俺は下に引っ張られたかのように急加速し、光の軌跡を残しながら剣を振った。
一刀両断。
無駄にでかくて黒い龍を、これまたワンパンだ。
普通に殴ってもワンパンできるのだが、一番すっきりするのがこの倒し方なのだ。ちょっとかっこいいし。
あとはもう一回。
「スキル『チェイン・ライトニング』」
これで周囲の雑魚を一掃する。
数年前に、やっとこさ属性を創造魔法で作ったのだ。
これで俺も魔法使いになれたということだ。
ジョブはもともと魔法使いだったので、ジョブ詐欺脱却ということだ。
今使った魔法は語呂がいいということで頻繁に使用している。
なんかいい響きだよな、チェイン・ライトニング。
にしてもおかしいことがある。
黒系の魔獣が大量にいることもおかしいが、これはモンスターパニックという現象か、もしくは強力な魔獣によって引き寄せられ黒系の呪いが伝線したとも考えられるからまだ普通だ。
問題は、あんなに強力な結界を張れる者だ。
もしかしたら俺でも勝てないかもしれないほどに、結界を張った主は強いかもしれない。
相当に警戒をしなければ。
しかし。
俺の警戒はすぐに消えた。
後ろからかけられた、少女のたった一言によって。
「……ルーラ?」
その声が聞こえた瞬間、体がビクっと震えた。
まるで失ったものを取り戻したような、歓喜のような熱い何かが、胸の奥から湧き上がってきた。
ゆっくりと後ろに振り返る。
そこには、背が高くなって昔よりずっとずっと美しくなった、でも何も変わらないセシルがいた。
地面にしりもちをついて、危機一髪のようだった。
なぜ、ここに。
覚えてくれてたんだ。
言おうと口を開いたが、言葉は出なかった。
言わなくても、いい。
今言うべきはもっと別の言葉だと、なんとなく思ったのだ。
何を言うべきか。
無駄に強化された思考で数百回は考えたけど、結局一つしか思い浮かばなかった言葉を素直に口にすることにした。
「セシル、今日もかわいいね」
一瞬ぽかんとしたセシルだったが、すぐにクスクスと微笑した。
「そんなことないよ、ルーラ。久しぶり」
幼いころは素直に「ありがとう!」と言っていたセシル。
あれもあれでかわいかったが、もう大人になったセシルの言葉も、全然かわいかった。
久しぶりの再会にどうしていいか分からなかったが、セシルが笑顔でいるところを見ると、もうどうでもいいかと思えた。
セシルの瞳を見る。
セシルも俺を見ている。
何も言わなくても、無言でただそこにいるだけで十分に温かかった。
「飯食べに行こう」
「……うん」
「またくだらないこと喋りながら、飯を食べよう。聖女の仕事も今日ぐらいはすっぽかして、どうでもいい時間を過ごそうよ」
「……うん!」
セシルの柔らかい微笑が、風に乗って俺の耳に届いた。
くだらない会話だけど、まあこれもこれで悪くないなと思えた。
昔、エンシェントグリフォンからセシルを救った時もこういう感じだっただろうか。
今日はせっかくセシルに会えたんだ。
沢山喋って沢山笑って、無駄な時間を過ごしてやろう。
それが間違っていることだとしてもいい。
今この願望をかなえることが、俺にとって一番大切なのだから。
晴天の空から降りてきた柔らかい風が頬を撫でる。
ああ、今日の俺は無双できただろうか。
セシルと共に空を見上げて、ふと、そんなくだらないことを考えていたのだった
LV∞のチートスキルで無双したい(願望)
END




