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87話 戦いの後 

 立ち込める砂塵を吹き飛ばすほどの攻撃をし終えた俺は、エンシェントグリフォンの血でできた血だまりを後ろに見ながら倒れた。


 剣はまだおぼろげに光っていた。

 スキルの効果は結構長いみたいだ。

 ついでに、MPは攻撃の途中で0になっていたみたいだ。

 もう一歩たりとも動ける気がしない。


「倒した……あの魔獣を倒したんだ……」


 自分で言って、その事実をかみしめる。

 なんだかんだ言って、やっぱりスキル作成無双になったな。

 無双と言えるほど優勢ではなかったけど、なんだかんだで結局勝てたんだし、よしとしようか。

 全身筋肉痛でもう何もできる気がしないけど、それでも勝利には間違いない。

 アイザックさんでさえ勝てなかった魔獣に、こんな幼いTS少女の俺が勝てたんだ。

 このままいけば、成長して超絶無双冒険者になるというのも夢ではないかもしれない。

 神級のポーション作成も滞りなく行えるのだ。

 一人で攻撃と回復、それからバフとなる身体強化までできるんだし、もはや敵無しだろう。

 どこぞのバーサクヒーラーにも勝てるかもしれない。

 まああの人が回復役してるとこ一度も見たことないけど。


 地面に倒れて動けないのは暇だな。

 MPもないから回復できないし、筋肉痛で体を動かすこともできない。

 誰か話す相手でもいればいいんだろうけど、こんな戦場真っただ中に人がいること自体おかしいしな。

 まあ、俺を殺しに来るような輩もいないだろうし、それはそれでいいだんけど。

 でも今回は俺、結構頑張ったと思うんだよね?

 理の真贋頼りの闘いだったけど、それでも身を挺して格上に戦いを挑んだ功績は少しぐらいほめたたえられてもいいんじゃないかな。

 あ、褒めてもいいんですよそこのあなた、ほらほら遠慮せずに。


「でも、セシルのことちゃんと守れてなかったかもだしな」


 セシルを初めて助けた、結構昔の時の話だ。

 あの時に、幼い少女一人守れないなんておかしいとかなんとか決めてたけど、今回の件は守れたと言い切れるものなのだろうか。

 アイザックさんにはたくさん助けられたし、セシルは相当怖い体験をしただろうし、俺は意外と何もできていなかったのかもしれない。


 俺は全然だめなやつなのかも………足音?


「誰?」


 こんなクレーター中心地にわざわざ近づいてくる奴はいないはず……。

 顔も動かせないし足音だけで誰かを判断するというのも無理な話だ。

 まさか敵!?いやいやこんな瀕死状態のところで出てこられてもどうしようもないっていうか、冗談じゃないって!

 いや確かに、戦闘も終わったからそろそろコメディー要素があってもいいかもしれないけど、ここで魔物が出てくるとかいう展開は意味不明すぎるでしょ!

 とりあえずどうにかして逃げないとやばい死ぬ!


「あぁごめんなさい!もう俺戦えないから!命だけは許してくださいなんでもしますから!!──なんでもするとは言ってないけど助けてくださいやぁぁっ!!やめてぇえええ!!」


 影が見えたのでとりあえず命乞いをして助かる可能性を……。

 痛いのは怖いので目をつぶって待ち構える。

 が、少しして聞こえてきたのは、柔らかな笑い声だった。


 あ、と声を出しながら目を開けてみると、俺の顔を覗き込むようにしているセシルの顔が見えた。


「セシル……」


 セシルは笑顔だった。


「ルーラは命乞いも楽しそうだね」


「いやいや、ここで魔物来たらめっちゃやばいから、冗談抜きで俺死ぬから」


 するとセシルが、何か思いついたような顔をした。


「……じゃあ、今ならセシルのこといじり放題?」


「え……?いや、ちょっとセシルさん?何か邪な考えを持ってたりしないよね?」


「今ならルーラは何もできない……」


「あ、ちょっ、待て!早まるな!今の俺は筋肉痛状態だ!触ったら死ぬぞ!」


「大丈夫、優しくするからね」


「ああ待て!その発言は君にはかなり早すぎる!ってちょ、やめ、やめろぉぉぉおお!!……あれ?痛くない」


 体を起こしてみる。

 先ほどまで俺の体を蝕んでいた忌々しい筋肉痛が嘘だったかのように、ほとんど痛みがなくなっている。


「回復魔法。これでも私聖女だもん」


 そう言うセシルの顔は、少し嬉しそうだった。


「ああ、ありがとう」


「そんな、感謝するのは私の方だよ。またルーラに助けられちゃった……それに、私、私が聖女だってこと黙ってたし……ずっとルーラのこと騙してた。自分のこと何も話さなかったよ。だから……ごめんなさい……」


 セシル頭を下げて謝った。

 俺に対して、本当に申し訳なさそうにして。

 だから俺もちゃんと言わなくちゃいけない。


「顔を上げてよセシル」


 顔を上げ、俺の方を見たセシルの瞳は少し赤くなっていた。


「俺だって、同じことをしてた。本当は転生者っていう特殊な人間だし、それをひた隠しにしてた。本当は使える強いスキルの存在も教えなかったし、俺もセシルを騙していたようなもんだよ」


 転生、そして女神からもらったスキル。

 このことについては、アイザックさん以外には何も言わなかったし、ヒントすら与えなかった。


「セシルを守るって約束もした。けど、その約束すら俺は守れなかった。セシルが苦しい思いをしていることも知らずに、自分のことばっかり考えて好きなことしてた。悪いのは俺なんだ。だから、セシルが自分を責める必要なんてどこにもない」


 人生という長い経験を、俺は前世で一度体験しているんだ。

 それを考えると、俺は随分と楽をしていることになる。

 セシルはたった一度のこの人生を、俺の想像を絶するようなものにしているのかもしれないのだ。

 セシルは頑張っている。

 頑張りすぎている。

 だから支える存在というものが必要なんだ。

 そんなに身近でもない、けれど、離れすぎてもだめだ。

 適当な距離感で、気を使わずに楽にできるような人が。

 才能にあふれた彼女は時に自分の力がそのまま自分の心に、鋭利な刃物のように向けられるだろう。

 天才は天才なりの大きな障害を抱えているのだ。


「セシルがどれほど大変なのかなんてわからない。でも、とりあえず大変なのは見てて分かるよ。セシルが味わう苦しみはどうしようもないものかもしれない。どうやっても解決しない問題化も知れない。だけど、俺はそれでも、セシルと一緒に何かをすることができて幸せだ」


 救いを求めるような表情をセシルは作る。


「私のせいでルーラがひどい目にあっても?」


「そんなの構わない。むしろ、そういうことからセシルを守るために俺が一緒にいるんだ。それに……」


 まっすぐに言葉を出す。


「セシルがわざと、俺を苦しめるようなことをするはずがない。そんなことしないって信じてる。セシルは優しいもんな」


「……うん!」


 俺が喋ってる間、終始セシルは涙をこらえている様子だった。

 俺の思いはちゃんと伝わっただろうか。

 まあ、そんなこと気にしたってしょうがない。

 これからも素直に頑張るのみだ。

 セシルだって同じように思ってると、そう願うほかないだろう。


「さてと、魔獣も倒したことだし俺も復旧作業手伝おうかな」


 と言ったら、セシルが慌てて止めに入った。


「えっ!駄目だよ!ルーラは休んでて!」


「でも、みんなあっちで……」


「いいの!」


 頬をぷくーっと膨らませて、そして優しい笑顔に戻って。


「ルーラにたくさん助けてもらったから、今ぐらい私が助けてもいい……よね」


 なぜもじもじしながら言うのかは分からないけど、セシルもセシルなりに考えているのだろう。

 回復してもらったとはいえ、俺も結構疲れた。

 幼児にしてはすごい運動量だったと思う。

 ここはセシルに頼るとしようか。


「分かった、ありがとう」


 セシルは顔を赤くしながらも嬉しそうに頷いた。


「うん!」


 俺に背をむけ、学校の先生や生徒の集団がいる方へすたすた走っていく。

 すると途中で足を止め、こちらへ振り向いた。


 セシルは何も言わずに、満面の笑みを浮かべたあと、また走り出した。

 セシルが遠くの集団にまぎれた後、俺はつぶやいた。


「これでよかったのかな」


 何もなければ、涙は流さない。

 セシルは涙をこらえていた。

 それは、心の中のしこりがまだ消え去っていない証。

 だけど、俺と話しているときは一粒の涙も流さずにこらえていた。


 成長したということなのだろうか。

 結局セシルのことをきちんと守れたのかも分からなかったけど、それでも、セシルの成長の手助けをできただけでも俺はうれしい。


 それに、最後に見せたセシルの笑顔は、まぎれもなく本物だったと思う。

 その表情の中に、背負ってきた悲しみや苦しみが混じっていたとしても、あれは俺が見てきた中で一番きれいな笑顔だった。

 俺がそう思った、たったそれだけだ。

 けど、ほんの少しだけ何かが変わった気がしなくもないな。


 と、また遠くから複数の足音が聞こえてきた。

 ついでに声も。


「勇者のくせに吹っ飛ばされてんじゃないわよ!!」


「君も吹っ飛ばされたから、今回はおあいこということで水に流して……」


「言い訳しない!!」


 これは、緊急参戦した勇者と聖女だろうか。

 それと、その後ろに見えるのはアイザックさん、あとベイルさんもいる。

 後ろの生徒の集団から、お父さんとお母さん、エマ姉さんもこっちに来てるな。

 なんでこんなに視力よくなってるんだ……?

 あ、LV上がってるのか。



───────────────


【ルーラ・ケイオス】《全熟練度詳細》

3歳 女 魔法使い LV 56


HP :211/544

MP :1/1

SP :341/1998

攻撃 :484

防御 :452

魔攻 :0

魔防 :0

俊敏 :245


-スキル-

鑑定LV9

身体強化LV14

身体超強化LV4

縮地LV4

理の真贋LV2

偽装LV7

流星剣LV1

虚行LV1

無限光ノ神太刀LV1



-魔法スキル-

創造魔法LV∞(神域限界突破)

閃光玉LV1

盲目玉LV1

火玉LV1

水玉LV1

風玉LV1

土玉LV1


-パッシブスキル-

気配察知LV8

翻訳LV12

解析LV4

魔力操作


-固有スキル-

創神化LV6


-称号-

異世界人

創神

無双


-加護-

創神の加護


───────────────

 


 MPはスキルの影響でほぼ0になってるけど、他は軒並み上昇してるな。

 称号に『無双』ってあるけど、エンシェントグリフォンを倒したからついたのかな?

 無双したいなぁとは思ってたけど、称号でもらっても、こう、なんか違うんだよね。


「ルーラ!大丈夫だったかー!」


 アイザックさんの声だ。

 他のみんなもこっちに向かってきている。

 またがやがやとうるさいことになりそうだ。

 けど、何か大きな壁を乗り越えたような気分の今は、みんなの喧騒も不思議と心地いい気がした。

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