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86話 創造魔法LV∞

 俺の気持ちが伝わったのかどうかは分からない。

 でも今は、この笑顔を見れただけで十分だろう。

 俺は気合を入れなおし、魔獣と向き合う。


「グルゥウゥゥゥ」


 エンシェントグリフォン。

 こいつは緊急参戦してきた勇者と聖女を吹き飛ばした怪物だ。

 多分今の俺では勝てない。


「アイザックさん、戦えそう?」


 苦虫を嚙み潰したような顔で邪剣士は答える。


「すまん、さっきのが最大火力だ。あれ以上は今日はもう出せん」


「おっけー」


 先ほどの攻撃はそれほど強そうには見えなかったが、超近距離専用の威力高めの技ということか。ゲームによくある攻撃だな。

 そんな使いにくい攻撃ですら掠り傷程度。

 その傷もすでに治りかけている。

 正真正銘のバケモノだ。


 おそらく速度も攻撃力もずばぬけて高いだろう。

 さっき鑑定してみたが失敗したので、俺の鑑定を弾くレベルの敵ということになる。

 勇者と聖女も鑑定できなかったから、あの二人も同じレベルの強さということか。


 時間を稼げば、吹き飛ばされた勇者か聖女が戻ってくる可能性もあるかもしれないが、間に合うかどうか分からない。

 さっきのアイザックさんの攻撃を警戒してエンシェントグリフォンは動いてこないが、それも今今のうちだけだろう。


「仕方ない……アイザックさん、セシルを運ん──っ!」


 突然エンシェントグリフォンが動いた。

 瞬時に地を駆けると何の躊躇いもなく腕を振り下ろし攻撃してくる。


 ──はやっ!


 縮地で緊急回避するも、回避した先にはまた魔獣の腕が。

 こいつガチで速い!


「ぐあっ!」


 薙ぎ払うようにして振るわれた魔獣の腕が、俺の体に衝突する。

 あまりの運動エネルギーに耐えきれず、体が変な方向に曲がりながら吹き飛ばされる。


「ルーラっ!」


 セシルの悲鳴が聞こえたが、吹き飛ぶ速度が速すぎて状況をうまく把握できない。

 態勢を整えずに右肩から地面に接地。

 何度もバウンドして転がりながら倒れた。


「いぃってぇ!!!」


 痛い。めっちゃ痛い。骨折れてる。何本かいったよ絶対。

 焼かれるような痛みよく言うけど、それの比じゃないぐらいに痛い。

 体中からこれ以上動くなという命令が、一斉に下されている。

 早く直さないと、これ以上こんな痛みを味わっていたらどうにもならない。

 でもどうすれば治るんだ。

 やばいくそ痛い。

 どうすれば、あっ、でも救急車呼ぶのは、ってここ異世界だから無いし。


 駄目だ一旦落ち着け、落ち着くんだ。

 だけど、痛くて全然それどころじゃない。

 こんなに痛いのは昔セシルを助けた時以来だ。

 でもあの時はすぐに気絶したからよかったけど、今は気絶できない。


「あぐっぅぅううっ、ポーション、ポーションくれ!」


《【創造魔法LV∞】によって ヒーリングポーション(神級) が作成されました》


 軽症の左腕を動かしポーションを口に……いや、そのままぶっかけちゃえ!


「いたっ!……くない!」


 痛い痛いと思っていたのに、ポーションを体にかけた途端一瞬で痛みが消えた。

 変な方向に曲がっていた関節も、一瞬で治癒した。

 治療の時は痛みすらない。ポーション様様だぜ。


「って、やばい!」


 慌ててアイザックさんの方向を見る。

 エンシェントグリフォンが攻撃、狙いはセシルか!

 しかし、アイザックさんが立ちはだかっていた。

 今までの剣の振り方と異なる戦闘だ。

 守る剣、と言えばいいだろうか。

 エンシェントグリフォンの強烈な攻撃をそのまま受けるのではなく、腕にかかる負担を軽減するために、滑らかな曲線を描くようにして攻撃を受け流している。

 縦に振り下ろされる腕の一撃を、体全体をフルに使って躱し、攻撃の運動エネルギーに沿うように剣を置いてずらす。

 真横の地面が破壊される衝撃を受けないよう横にステップ。

 再度右から来る腕の薙ぎ払いを、しゃがみつつほぼ水平方向に剣筋を取り攻撃の下へと逃れる。

 敵が攻撃しずらい近距離で、近すぎず遠すぎずの攻防を繰り広げる。

 巧みな立ち回りと剣裁きで受ける攻撃の威力を最低限まで減らし、体力の消耗を抑えている。

 長年の経験と鍛錬からくる、アイザックさんにしかできない戦い方だ。


 だけど、それでもアイザックさんの顔には疲労が見える。

 流れる水のような神がかった剣技をもってしても、その攻撃の威力を抑えきれていないようだ。

 それほどに強力な魔獣なのだろう。


 俺は一体どうすれば……


 ステータスを見てみれば俺のできることが分かる……はず。



───────────────


【ルーラ・ケイオス】《全熟練度詳細》

3歳 女 魔法使い LV 21


HP :181/181

MP :1311/1621

SP :711/711

攻撃 :196

防御 :146

魔攻 :0

魔防 :0

俊敏 :60


-スキル-

鑑定LV9

身体強化LV13

身体超強化LV1

縮地LV2

理の真贋LV1

偽装LV3



-魔法スキル-

創造魔法LV∞(神域限界突破)

閃光玉LV1

盲目玉LV1

火玉LV1

水玉LV1

風玉LV1

土玉LV1


-パッシブスキル-

気配察知LV5

翻訳LV12

解析LV4

魔力操作


-固有スキル-

創神化LV4


-称号-

異世界人

創神


-加護-

創神の加護


───────────────

 




 身体超強化?違うな。基礎的な能力は大幅に上がるが、逆にそれだけだ。

 縮地?これも違う。これは移動用で威力が無い。

 創造魔法?いや、一体何を創造すればいいってんだ。強いけど俺の発想力ではどうにもならない気がする。


「……一か八か、やっぱこれしかないのか?」


 理の真贋(ことわりのしんがん)

 前回使った時は何がなんだか分からないまま終わった。


─────────────────


〈理の真贋〉


世界の理を示す。

願望が募る時それは森羅万象となり、確たる願いをその身をもって体現する。

不可能の体現は叶わず、万象に従いし願望のみを成就する。


─────────────────


 なぜかこのスキルの説明だけ古風なんだよな。

 まさに強いですよってね。

 でもこいつはその通り、願望をかなえるためのスキル?みたいな感じだ。

 今俺にできる範囲で叶えることができる願望を、最高効率で叶えてくれる。

 恐らくそういうことなんだろう。

 不可能なら不可能。

 世界の法則に従った上で可能と判断されれば、あとはスキルが勝手ににやってくれる。……多分。


 アイザックさんは既に満身創痍。

 まだ敵の攻撃をいなし続けているのが不思議なくらいだ。

 このままだと、セシルもアイザックさんも危ない。

 それに、セシルに怖い思いはさせないって約束もしちゃったし。


 やるしか……ないのか。


 俺は大きく息を吸い込んで言った。


「スキル『理の真贋』発動っ!」


 発動っ!という声に合わせてスキルが作動し……ないだと!?

 何も起きない。変化なし。

 いやいやいやここまできてそれはないでしょ、ここ大事な場面だよ?コメディー要素いらないから!


「ちょ、発動!理の真贋!来い!カモン!」


 だめだ何回言っても発動しない。

 なんで大事な時に限って!

 って攻撃来てる!


「おおっと!」


 左から魔獣の腕が来たので、後ろへ退いて躱した。

 アイザックさんは……さっきまで戦ってたとこで倒れてる。

 多分まだ死んでない。意識を失っただけ。

 まだ間に合う!


「くそ、今こそスキルを使う場面なのに!っと危ない」


 極歩で横に跳躍、魔獣が振り下ろす腕を再度かわす。

 地面を破壊しながら攻撃を仕掛けてくるエンシェントグリフォンの攻撃は、俺にとって一撃必殺にも似たもの。

 スキルを使用して局所的にスピードを上げているから難なく攻撃をかわせているけれど、一回ミスればそれだけで致命傷だ。

 何度も繰り出される攻撃を極歩で避けまくるが、こんな防戦一方の戦いも無尽蔵のスタミナを備えている魔獣相手では長くは続かない。

 だから早くけりをつけないと。


「どうすればいいんだっ」


 攻撃をよけつつこの状況を突破する策を考えてみるけど、理の真贋しか思いつかない。

 それも勝てる保証がないスキルだ。

 理の真贋を使ったからと言って絶対勝つという訳ではないのだ。

 よくわからないスキルだし、でも使わない限り勝てそうにもないし……。


 ああでもないこうでもないと考えを巡らしていると、いつの間にか魔獣が止まっていた。


「あれ……?どうしたんだ?」


 もしかして何度攻撃しても当たらないから諦めたのか?

 このまま戦っていてもらちが明かないと理解できる程に頭のいい魔獣のはずだ。

 それならそのまま退散してくれないかな……。

 いや、でも相手のスタミナは無尽蔵。

 好戦的な魔獣が、ここまで追いつめている獲物を逃そうとするはずがない。

 だったら今戦いをやめて止まっている理由があるはずなんだが……


 魔獣が首を動かす。

 俺は警戒する。

 けど、一瞬だけ魔獣の視線の先をたどって見る。

 何を見ているんだ……?


「……セシルか!」


 声を出した時には魔獣が動いていた。

 一瞬でセシルの眼前まで移動するエンシェントグリフォン。

 そのままそいつは腕に黒色の瘴気を纏わせ振り下ろそうとした。

 最初からセシルを狙うつもりでいたのか!


「くそっ……!」


 極歩と身体超強化を発動。

 あいつの攻撃がセシルに届く前に、俺が間に入る。

 セシルは急に出てきたエンシェントグリフォンを前に呆然とした様子だ。

 このままだと……!


「させるかっ!」


 極歩で移動した俺はセシルを抱えて跳躍。

 後ろから魔獣の瘴気を纏った攻撃が来ているが、この際気にしていられない。

 体をひねって間一髪、そいつの腕を避ける。

 背中から敵の腕が通り過ぎる風圧を感じつつ、エンシェントグリフォンの方を見る。


 って、連続で攻撃すんのかよ!


 咄嗟にセシルを攻撃範囲外へ投げ、腕をクロスさせつつ体をひねってできるだけ受けるダメージを減らす体制に入る。

 敵は左右の腕で連続で攻撃を仕掛けていた。

 連続の攻撃は素早い分威力も落ちるはず。

 全力で防御すればなんとか……


「っ!ぐあっ!」


 だめだなんとかならねぇわ。

 ガードしたけど、ものすごい勢いで吹き飛ばされる。

 体を丸める暇もなく地面にたたきつけられ、数回バウンドしながらグラウンドを転がった。

 ラノベ主人公に無双される悪役の気持ちが、なんとなく理解できた気がするぜ。全く歯が立たない。


「くっ……そ」


 セシルが危ない。

 放り投げてしまったから怪我をしているかもしれない。

 動けなかったらエンシェントグリフォンの格好の餌。

 危険だ。今すぐ助けに行かないと。

 でもだめだ。全身打ち付けられてまともに動かないや。

 そりゃ、安全な日本でぬくぬく育ってきた俺が、感じたこともない痛みに耐えられるわけないよな。

 普通ショック死してるかもしれないんだし、ここまで耐えていることはすごいことなのかもしれない。

 そうだ、俺は十分頑張っているんだ。

 ならもういいじゃないか。

 ここまで頑張れた。

 勇者も聖女もいることだし、あとは何とかしてくれるはず。

 いっつもみたいに笑い飛ばせるような展開で、何か救いがあるはずだ。

 俺は痛いんだ。体中が痛いんだ。

 だったらもう、休んでいいだろう。

 少しぐらい、休んでいいだろう。


 まぶたが重い。

 だんだん下がる。今の俺には、その眠気に耐えられるほどの元気がない。

 もう諦めてもいいと思う。

 セシルだって十分たすけたと思う。

 じゃあいいじゃん。

 もう疲れたんだから、少し休んだって、いいよね……。


「ルーラ!お前が行かなくてどうする!」


「アイザック、さん?」


 倒れていたはずのアイザックさんが、魔獣に剣を投げつけていた。

 そして思い切り叫んでいた。


「お前はセシルを見捨てるのか!!」


 その言葉が、俺の心を貫いた。


「セシルの笑顔を見たければ、お前のすべてを賭けて前に進むんだ!ルーラ!!」


 アイザックさんは、怒り暴れる魔獣の攻撃を再度いなしにかかっている。

 重症、しかもただの怪我ではない。命に関わるような怪我をしている。

 それでもアイザックさんは諦めていない。


 ──俺のことを信じているから……。


 俺はステータス画面を再度開いた。

 



───────────────


【ルーラ・ケイオス】《全熟練度詳細》

3歳 女 魔法使い LV 21


HP :181/181

MP :1311/1621

SP :711/711

攻撃 :196

防御 :146

魔攻 :0

魔防 :0

俊敏 :60


-スキル-

鑑定LV9

身体強化LV13

身体超強化LV1

縮地LV2

理の真贋LV1

偽装LV3



-魔法スキル-

創造魔法LV∞(神域限界突破)

閃光玉LV1

盲目玉LV1

火玉LV1

水玉LV1

風玉LV1

土玉LV1


-パッシブスキル-

気配察知LV5

翻訳LV12

解析LV4

魔力操作


-固有スキル-

創神化LV4


-称号-

異世界人

創神


-加護-

創神の加護


-状態異常-

精神異常:魔獣の爪毒


───────────────

 


「なんだ……ただの毒じゃねぇか」


 頭がぼうっとする。

 魔獣の攻撃を受けたときに、毒をもらったのだろう。

 ステータス表示にもきっちり書かれている。

 不安に駆られ、普段では考えられないようなネガティブな思考へと誘導される精神的な毒。


「……ありえない」


 俺はさっきまで、こんな毒一つの影響でセシルを捨てようとしていたのか。

 ただの毒ごときで、俺の気持ちの問題で、救えるかもしれない少女一人の、いや、救わなくちゃいけない命を、運命を。

 すべてを捨てようとしていたのか。


「……ありえ、ない」


 辛い人生を送ってきたであろうセシル。

 それでも笑顔を見せてくれたセシル。

 意味不明な俺にも優しく接してくれたセシル。

 そんなセシルに比べたら、俺なんて全然子供じゃないか。

 笑えてくる。

 あぁ、ほんと笑えてくるよ。


 ……だから。

 だからさぁ。


「───セシルを救えないなんて、ありえないんだよ!!!」


 自分への怒りが、収まらない感情が、溢れてる。

 もう止められない。

 止まりたくない。

 少しの間でもそんなことを考えてしまった自分自身が許せない。


 アイザックさんが吹き飛ばされるところが見える。

 魔獣は強い。

 すぐに移動して、セシルの命を刈り取らんと腕を振り上げる。


 無理だろうと。

 さっきまでなら、無理だろうと思っただろう。

 何が無理かって、今の状況で自分が動くことが無理なのだ。

 何もかも無気力で、情けない。


 だが、だからこそ、今の自分への怒りが止まらない。


 もう俺は諦めない。

 救う。

 セシルを救う。

 彼女と一番最初に出会った時。

 あの時に決めたんだ。もうすでに決めていたんだ。

 何があっても、救える命を救うと。

 セシルを守るのは、守れるのは。

 俺なのだから。


「『理の真贋』」


 瞬間、時が止まる。

 音が、空気が、世界が停止する。

 一瞬にして訪れる虚無の空間。

 色褪せた光景、心が感じられない世界。

 だが、俺の心は今までにないほど熱く光っている。


 俺は力を込めて言う。


「魔獣を倒してくれ」



《エラー:不可能な願望です》


 理の真贋は、使用者が行使不可能なことはできない。

 つまり俺の全力をもってしても、エンシェントグリフォンを倒すことは不可能らしい。

 

 ──そんなの知るか!


「倒すんだよ、エンシェントグリフォンを」


《エラー:不可能な願望です》


「不可能じゃない」


《エラー:不可能な願望です》


「魔獣を倒せ」


《エラー:不可能な願望です》


「倒せ」


《エラー:不可能な願望です》


「倒すんだよ!」


《エラー:不可能な願望です》


 何度言っても、俺の頭には警告音しか響かない。

 停止した世界は動き出さない。

 そりゃそうだ。

 格の違う相手を今この状況で倒すことが、不可能なのだから。


「……でも!それでも俺は諦めねぇ!俺がどうなってもいい!死んでもいい!俺のすべてを代償にしてでも、絶対にあの魔獣を倒すんだよ!!」


《エラー:不可能な願望です》


「不可能なことを叶えることが、今までできなかったことを叶えるのが本当の願望なんだよ!!!」


《エラー:不可能な願望です》


《エラー:不可能な願望です》


《エラー:不可能な願望です》


《エラー:不可能な願望です》


《エラー:不可能な願望です》


《エラー:不可能な願望で──


「黙れぇぇええええええええええっ!!!」


《エラー:不可能n?e?]????|?????¶??・?e?B

???|??¢?e?]???¶??μ???¢? ̄??¢????B》


《警告:セーフリミッターを解除》

《警告:強制行使・創造魔法への介入を開始》


 叫んだ途端、再び世界が動き出した。

 状況は先ほどまでと何ら変わらない。

 セシルの眼前に、今まさに攻撃しようとしているエンシェントグリフォン。

 絶体絶命だろう。


 だが……見える。


 さっきまでとは全く違う。

 勝利への道筋が、たった一筋の希望の光がはっきりと見て取れる。

 最高の効率で奴を倒す方法が頭の中に流れ込んでくるのだ。


「クリエイトユニークスキル・『一瞬の無限』」


《【創造魔法LV∞】によって 創造スキル【一瞬の無限LV1】が作成されました 【一瞬の無限】は【スキル記憶】によって自動で記憶されました》


 一瞬の無限は俺が考え創造したスキル。

 一秒間だけMPを(無限)にするが、使用した後は数時間MP最大値が1になるという、デメリットが大きいスキルだ。

 だが今なら、使うことに躊躇いはない。


「一瞬の無限!」


《スキル【一瞬の無限】によって現在のMPが∞になりました》


「クリエイトスキル・『オーバークロック』」


《【創造魔法LV∞】によって スキル【オーバークロックLV1】が作成されました 【オーバークロックLV1】は【スキル記憶】によって自動で記憶されました》


「オーバークロック!」


 即座にスキルを使用すると、理の真贋ほどではないが、まるで世界が遅くなったかと錯覚するような感覚が広がった。


 このスキルは手練れの剣士が稀に習得するものだ。

 五感を極限まで高め、体感時間を普段の10倍以上にまで拡張する。

 代償に、効果が切れると激しい筋肉痛が待っている。


「残り0.4秒ぐらいか……いける!」


 一歩踏み出す。


「クリエイトスキル・『流星剣』」


《【創造魔法LV∞】によって スキル【流星剣LV1】が作成されました 【流星剣LV1】は【スキル記憶】によって自動で記憶されました》


「クリエイトスキル・『虚行』」


《【創造魔法LV∞】によって スキル【虚行LV1】が作成されました 【虚行LV1】は【スキル記憶】によって自動で記憶されました》


 スキルを二つ新たに作成し、足を限界まで使ってエンシェントグリフォンとの距離を一瞬で詰めた。

 

「剣技スキル『流星剣』っ!」


 新たに作ったスキルの効果で幾筋の剣閃が生成され、まるで流星のごとくものすごいスピードで魔獣に迫った。

 それに合わせて邪剣を構え、俺も突撃する。


 だが、まばたきをする暇もないような速度で攻撃したのにも関わらず、エンシェントグリフォンは余裕で反応してきた。

 ぎょろりと目が俺の方へ向けられて、轟と空気を震わせながら巨腕が突き出される。

 魔獣の腕の攻撃が、かなりの威力を誇る流星剣をもろともせずに向かってくる。


 回避不可能……。

 なんてこと、計算済みだ!


「剣術スキル『虚行』」

 

 エンシェントグリフォンの腕が俺に直撃する直前に、俺はスキルを使う。

 このスキルは消費MPもやたら多く、連続での発動もできないというとても使い勝手の悪いものだが、近い距離の空間を裂いて虚無の中を移動できるという破格のスキルだ。

 超近距離ではあるがテレポートしたところで、俺はすぐさま振り向く。 

 虚行だけを使用していたら不意打ちにも気づかれてやられていたと思うが、前置きとして流星剣を放つことによって敵の気をそらせた。 

 エンシェントグリフォンは強い輝きを放つ流星剣の攻撃に気をとられて、俺の不意打ちには対応できないだろう。


 ……ここで決める!


「創神化!」


 俺が言った瞬間にいきなり、体を引き裂かれるような力の流れが湧き出てきた。

 でも……おかしいぞ……。

 今までとは桁が違う。

 みなぎる力の量が多すぎて、体が悲鳴を上げている。

 レベリングしたからかなり体は丈夫になっているはずなのに、それでも辛い。

 手から……いや、全身から蒼白の霧のような光が流れ出て、剣や空気に纏わりついてはバチバチと小さな電気ショックを発生させている。


 圧倒的優越感というか、万能感というか。

 言葉で言い表せないような人知を超えた神力が、どこからともなくあふれ出てくる。


 魔獣が俺の方を向いた。

 創神化を使ってすぐに、とてつもない反応速度でこちらを向いた。

 危険察知能力というやつだろうか、異常な速度だった。

 でも、それですら今の俺には遅すぎる。

 俺は溢れる力を抑えながら、震える声でつぶやいた。


「創造魔法、俺に最高の剣を」


《【創造魔法LV∞】によって 創刀『星輝一閃』が作成されました》


 手のひらに重い剣の感触が触れる。

 最高の剣、即ちこれ以上無い性能の剣。

 それが今、俺の手に。


「グアァアァアアァァァ!!!」


 魔獣の強烈な咆哮が響き渡るが、今の俺には通じない。

 もう、絶対に負けない。

 俺はセシルを、たった一人の幼い聖女を、そして彼女の辛く苦しい運命を、そのすべてを救ってみせると決めたのだ。

 何がセシルを苦しめ続けているのかは分からない。

 辛い思いをしたことがない俺にとって、それは未知の領域。

 知るよしもないことだ。

 だからセシルが感じている苦しみに共感したり、俺も分かるよなどと慰めることなどできないのだ。


 だけど、それでもできることはあるはずなんだ。

 過去の苦しみは救えない。

 失ったものが戻ってくることはない。

 俺だって、元の世界にいる家族とか友達とかにはもう一生会えないかもしれない。

 一生取り戻せないかもしれない……。

 だが、この世界に転生して得たものだってある。

 見たこともない世界、経験したことのない魔法、色々な人との出会い。

 楽なことばかりではないけれど、それでもこうして生きていれば、今まで見えなかった光が見えるような気がするのだ。


 過去は戻ってこない。

 それでも、これから歩んでいく未来がある。

 辛い過去は消せないけど、楽しい未来は作れるはずなんだ。

 だから俺は絶対に諦めない。

 もしそれが、ぶきっちょででこぼこで穴だらけの、決して綺麗ではない未来だとしても、セシルが本当の笑顔で過ごせる最後の最後の最後まで、絶対に諦めないんだ!!


「ぅぉおおおおおおっ!!」


 剣を振り上げる。

 魔獣は咄嗟に腕を前に出し俺の攻撃をガードしようとしている。

 だが、そんなのには構わず振り上げた剣を全身全霊で振り下ろす。

 剣から溢れる白光、飛び散る紫電。

 剣が魔獣の腕に触れた瞬間、爆発に似た閃光が俺と魔獣を眩しく照らした。

 すんなり切れると思っていた魔獣の腕から、ものすごい抵抗を感じる。


「ぐぅぅうっ!」


「ガァァアッッ!!」


 腕に黒い瘴気を纏って、局所的に防御力を強化している。

 しかも切ったところを押し戻しながらすぐに再生させているから押し込めない。

 このままでは………っ!


「創造魔法!俺に、最強のスキルを!」


《【創造魔法LV∞】によって 固有スキル【無限光ノ神太刀LV1】が作成されました》


「スキル『無限光ノ神太刀』っ!」


 光が剣を包み込む。

 超絶的なエネルギーの塊が俺の持つ一太刀の剣に収束され、一本の神刀として形成される。

 絶対的な切断の力を持ったそれは、俺の目が焼け焦げてしまうのではないかというほどに光り輝いていた。


「うぉぉおおおおおおっ!!!」


 魔獣の腕を押し返し、火花を散らしながら切断。

 格の違う強さを誇っていた魔獣の頭に、これでもかというほどの威力を持った渾身の一撃を叩き込んだ。


「グラアアアアァァァァァアアァアアアアアアァァァァッ!!」


 街全体に響き渡るような断末魔の叫びを上げるエンシェントグリフォン。

 一気に魔獣の体を二つに両断し、そのまま地面をも断ち切る。

 爆音、広がる衝撃波。

 地面を崩壊させながらクレーターが広がり、周囲を光の渦に巻き込んでいく。

 剣の効果だろうか、火花が俺を中心として花火のように大きく舞い散った。






 ドスン、という魔獣が倒れる音。

 次いで俺も倒れた。

 全てを出し切りもうこれ以上動けないという状況だ。

 筋肉痛と魔力欠損で心も体も頭もフラフラだ。


「……でも、悪くない」


 最後の攻撃で、俺の剣から沢山の火花が放出された。

 その火花がきらきらと、光りながら降りてきている。

 自分で舞い上げた火花が空高く輝くその様は、まるで夜空に光る沢山の星々のように綺麗だった。

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