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85話 救出




 助けに来たよ、とかっこよくいってみたものの、なんか違う感が出てしまった。


 まあいい、それよりも今はセシルの傷だ。

 なんとまあ、アイザックさんと同じく腕を喰われたみたいだ。

 ここまでされると、俺の怒りはもう頂点に達するぞ。

 俺の中では天使的な存在であるセシルに苦しい思いをさせるなんて、到底許されることではない。

 今すぐ魔獣をぶっ倒してしまいたいところだが、今は治療が先だ。


「クリエイト・ヒーリングポーション」


《【創造魔法LV∞】によって ヒーリングポーション(神級) が作成されました》


「……あ、ごめんもう一本」


《【創造魔法LV∞】によって ヒーリングポーション(神級) が作成されました》


 結構適当な魔法の使い方だ。

 詠唱もあったもんじゃないが、まあこの際別にいいか。


「はいセシル、おいしいポーションだよ」


 一瞬で出現したポーションに、セシルは唖然とする。


「えっ……今どうやって……?」


「まあまあとりあえず飲んでくださいよ。あ、二本飲んでね。またグロい生物を見るのは嫌だし」


 アイザックさんの時の二の舞は避けたい。

 といってもセシルならどんな姿でもかわいいけどね!

 女神より女神してる。


 いきなりポーションを差し出されおろおろするも、とりあえずセシルは飲むことにした。


「う、うん……いただきます。……って、えっ、なにこれ!もう治ってる!」


 一本飲んだだけで全部回復した。

 確かに考えてみれば、幼い体のセシルの方が回復する体積は少ないし、一本でも足りるか。

 一本余ってしまったな。

 まあいいか。


 余った分をセシルに勧める。


「セシル、もう一本どう?」


「いいよいいよ、こんなにすごいポーション、沢山飲めないよ」


「そうか、じゃあ俺飲むわ」


 蓋をスポンと開けて、ビールを飲む感じでイッキ飲み。

 あ、これ以外とおいしいんだな。


「ポーションってうまいんだな」


 するとアイザックさんがツッコミを入れてきた。


「ダメージも負っていないやつが神級のポーションを飲むのか……」


 まあ余ってしまうよりはいいだろう。

 おいしいんだし。


 さて、ポーションはこれくらいにして……


「セシル、大丈夫だった?」


 安否確認だ。

 セシルは曖昧に答える。


「うん……怪我したけど直してくれたし、私は、全然大丈夫だから。でも……そうだ!勇者の人が来て、あと聖女の人も」


「セシル」


 話している途中で、割って入った。


「本当に大丈夫なの?」


 何を言っているのか分からないという風に、セシルは答える。


「え、うん……私は大丈夫、だよ。みんな助けてくれたし……本当に大丈夫」


「………そう」


 俺は、セシルの目を見つめながら言った。


「じゃあ、なんで泣いてるの?」


 言われて、セシルはうろたえた。

 セシルの目から涙が流れていた。


「あれ?私、泣いてなんか、えぇ、でも……別に、ほら。ただの、涙だから、私は大丈夫で」


「大丈夫じゃない」


 きっぱりと、言う。


「大丈夫じゃないよ。全然大丈夫そうに見えないよ」


「ルーラ……うっ……」


 魔獣の前に立たされ感じる恐怖は並大抵のものではなかっただろう。

 俺は見ても聞いてもいないからよく分からないけど、セシルを見ていれば彼女なりに心の中で葛藤していたのを感じる。


「怖かっただろう。ごめんね、守ってやれなくて」


 セシルが泣きながら抱き着いてくる。

 俺はそれをしっかりと受け止める。


「大丈夫、もう絶対に怖い思いはさせない。俺がいるから。だからもう、涙を流す必要はない」


「違う……のっ……」


 泣きながらも、セシルは言った。


「お父さんも、お母さんも、死んじゃって………だからみんな……ルーラも死んじゃうのかなって……それが怖くて……でも助けに来てくれて……うれしくてっ……うれしくてっ……」


 セシルの言葉は、ひとつひとつが重かった。

 彼女の人生の、どれほど困難だったことか。

 それがまっすぐに伝わってくる。

 セシルは強いし、天才だ。

 だからこそ悩むのだろう。


 それは俺の知らない世界だ。

 苦難の運命など感じたこともない。

 だが、だからこそやるべきことがあると思う。


「セシル、聞いて」


 涙ぐんでいるセシルの目をまっすぐ見て話す。


「俺は楽に生きてきた。転生して女神に強いスキルもらって、なんだかんだで笑いながら過ごせるほど楽に、ね。だからセシルの苦しみは分からない。どれほど苦しかったのかなんて、俺に理解できない。無理に理解するつもりもないよ。でも……だから、俺は俺にしかできないことをやるよ。これからずっと、セシルと笑って過ごせるようにね」


 言葉を聞いたセシルはぽかんとした顔になるが、すぐに笑顔になって、涙を流しながら頷いた。

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