81話 観戦……?
(ルーラ視点)
遠くから戦いの様子を見ていると、急に校庭に生徒が集まりだしてきた。
「先頭にいるのは魔法の実践訓練の先生か」
まるで授業してる時みたいに並び始めた生徒たち。
こんな時にものんきに授業すんのかよ、うちの先生は。
どんだけ真面目なんだよ。
と思っているとベイルさんが出てきた。
衝撃波でぶっ飛ばされた人を生き返らせたのはベイルさんか。
あの人回復だけは強かったからな。
創神化使ってボロボロなったときも直してくれたし。
あんなに回復できるなんて、ジョブは何に就いてるんだろう。
……まさかベイルさんも聖女だったり!?
いや、女じゃないしないか。
あったとしても聖なるおっさんってところだな。神聖な感じが全然ないけど。
逆にたばこ臭とかで汚染されそう。あ、この世界にたばこはないか。
戦いを観察していると、急に大量の魔法が降りそそぐ。
「って、マジで魔法使うのか。実践的な授業だなおい」
生徒によって放たれた魔法が、ローブの男に直撃する。
……いや、結界に当たっている。
いつの間にかセシルが結界に猛攻を仕掛けている。
バチバチと火花を散らしながらの攻防は、ローブの男の結界が砕け散ることによって終わりを告げた。
セシル強い。
結界を破ったレーザーらしき攻撃の爆発で、あたり一帯が粉塵に包まれる。
勝負はこちらの勝ちのようだ。
俺は思わずガッツポーズする。
「今回は目立たずに終わりそうだな」
これでアイザックさんに尋問されずに済むかもしれない。
いつかは打ち明けないといけないのは分かっているが、俺の力を利用とする悪い輩に襲われたくないのでまだ我慢だ。
「さて、俺もみんなの所に混ざってきますかね」
ずっと観戦しているのもつまらない。
身体強化でも使ってアンデットの残党倒して、少しでも経験値稼ぎをしたいところ。
そう考えて駆けだそうとした時だった。
──ドゴォォォォン!
轟音とともにグラウンドに吹っ飛んでくる一つの影。
丁度戦地のど真ん中にそれが突っ込んでいく。
アンデット軍団が衝撃で吹き飛ばされる。
あたり一帯が砂埃に包まれ、その場にいる全員の視線がそちらへと向かった。
視線が自分から外れた隙に、ローブの男がその場から離れた。
勝利を確信していたセシルが、驚きに染まった表情をして砂埃の中を見つめている。
やがて砂埃が晴れると、吹っ飛んできた影が見える。
歳に似合わない鍛え上げられた筋肉。
右手には魔力で真っ赤に染まった、硬質的な剣。
鋭い目つきは、普段の様子からは想像できないほどの殺気と闘志の光を灯す。
何を言おう、彼はミシェートの町長、この街一番の戦闘力を持つ男。
アイザック・ウィル・カースその人だった。
皆があっけにとられる中、ベイルさんが驚愕の声を上げた。
「おい、アイザック!おめぇ……その腕はどうしたんだよ!?」
ベイルさんの声でようやく気付く。
あの圧倒的な力を持っていたアイザックさん。
彼の左腕の肩から先が、失われていた。
ベイルさんが慌てた様子で声をかけると、アイザックさんはまるで一匹の猛獣のような雰囲気を纏いゆらりと振り向く。
その圧力に、ベイルさんだけでなく見ていた全員が息をつまらせた。
アイザックさんはたった一言、低い声で唸るように言った。
「お前ら───逃げろ」
轟音が響く。
強風が吹きつけたと皆が勘違いするような風が押し寄せる。
踏ん張り切れない者は飛ばされ、踏ん張った者も硬直を余儀なくされた。
遠い場所から見ていた俺もかかる圧力に思わず身体強化を施す。
危険察知もオン。周りが赤くなる。
こんな強風、一体何が……
と考えたところで、強烈なデジャブを覚えた。
これは以前、同じことがあった気がする……。
「……まさか!」
思い出したと同時。
グラウンドにはトラ型の巨大な魔獣が爪を立て、アイザックさんの体をガードする剣ごと吹き飛ばしていた。
が、すぐに態勢を立て直したアイザックさんが反撃。
呪われた剣の赤い光を軌跡として残しながら、ジグザグに地面を蹴って素早く移動。
そして、一瞬のうちに敵の懐まで移動したかと思うと、あっと言う間に首筋に剣を突き立てた。
あまりの戦闘の展開速度に驚く。
身体強化に合わせて強化された俺の視力でも、アイザックさんの動きがぶれて見える。
同じ人間とは思えない。これが呪われた力だというのか……
しかし、終わったと思っていた勝負が、なぜか終わらない。
舌打ちして剣を抜いたアイザックさん。
弱点であるはずの首筋に剣を突き立てたのにも関わらず全く剣が通らないのだ。
圧倒的な攻撃力を持つアイザックさんの剣ですら通用しない、超硬の皮膚を魔獣は持っているというのだ。
剣を抜いて離れようとするが、抜いた瞬間に魔獣が腕を振るう。
ガードをするが空中では踏ん張ることもできない。
アイザックさんは吹き飛ばされる。
──俺のところへ。
「ってこっち飛んでくるのかよ!」
仕方無い。
アイザックさん、ニホンのオフトゥンの力を味わうがいい。
「クリエイト・おふとん!」
生成されたと同時。
アイザックさんが超絶ダイナミック就寝に成功した。
できたてほやほやのお布団にダイブ。
そのまま後ろの本棚へと追突。
大きな音を立ててガタガタと崩れる本。
お布団に次々とダメージが入るが、しかしどこも破れてはいない。
流石はメイドインジャパンのオフトゥンだ。
これだけやっても壊れないなら安心だな。
どのご家庭でもこれぐらい激しく使ったりしますもんね。
え?しない?
一人で変なこと考えていると、後ろからアイザックさんが起き上がってきた。
おお、あれだけの攻撃を受けて、左腕も無くして、それでいてなんでこんなにピンピンしているのか。
歳も考えると生きているのが不思議なくらいだ。
アイザックさんは立ち上がって不思議な表情をし、後ろの布団を指さして、次に俺の顔を見て言う。
「ルーラ、あれはお前が?」
ドヤ顔で答える。
「まあねっ」
「……どうやった?壁に直撃したはずだがほとんどダメージが無いぞ。あれを出現させるのがお前の……待て、話はあとで聞く。魔獣に殺される前に逃げるんだ」
剣吞な雰囲気に戻ったアイザックさん。
玄関から外にでて再度魔獣と戦いに行こうとする。
が、俺が止める。
「待って!」
「なんだ」
「ちゃんと外を見て」
言われてアイザックさんは外を見る。
いるのは魔獣とそれにおびえる生徒。
先生方は生徒を守ろうと必死だが、魔獣の放つプレッシャーに耐えるのが精いっぱいのようだ。
そこまで見て、アイザックさんは再度俺に質問する。
「お前には何かが見えるのか。状況が進展するような気はしないが」
「魔獣が人を襲ってないでしょう?」
「いつ襲うか分からない」
「でも今は襲ってない」
いらつくアイザックさんをなだめるように言う。
「確かに、長年戦闘経験を積んできたアイザックさんにとっては、今の状況は助けに入るべきものなんでしょう。けど俺からしてみれば聖女であるセシルがこの場にいる時点で、すぐ皆殺しという可能性が低いと判断できます。相手が襲ってこないならなおさらのことです」
アイザックさんは顔をしかめる。
説得するように続ける。
「判断材料は敵の危険度だけじゃないんですよ」
「…………なるほど」
納得したアイザックさん。
と思ったら、手痛い反撃の言葉が飛んでくる。
「敵も俺を追ってこない。なら今のうちに聞こうじゃないか、ルーラ・ケイオス。最初の質問だ。今『俺』と言ったのは一体なんだ?」
「………あっ、いや、これはその、」
しどろもどろになるが、返ってくるのは無言の圧力。
目はまさに猛獣の目。
戦っている時よりするどいんじゃないか?と思うほどの強い眼光。
怖えよ。
そして尋問が始まった。




