78話 救援
グラウンドの端っこ、校舎側のベンチ近くには、十数人ほどの学校の先生がいた。
杖をもって構えているのは魔法の先生。
剣と盾を持っているごついのは剣術の先生。
他にも武装した先生方や救急セットを持った先生が沢山。
そして集団の後方には……ベイルさん!?
と、お父さん!?
大きな剣を持った先生がセシルに話しかける。
「よくやったセシル。流石は学校一の生徒なだけある」
筋骨隆々な男の先生は爽やかな笑みを浮かべる。
そして今度は女の魔法使いの先生。
「足止めは私たちがするから、今のうちに後ろの方へ下がってなさい」
ちょっと気の強そうな物言いだが、この先生は属性適正が4種類もあるエリートなのだ。
他にも沢山の先生が声をかける。
「悪かった、一人は怖かっただろう」
「安心しなさい、あとは私たちでどうにかする」
「先生だって、戦うときは戦うんですよ!」
そして前線へと出ていく。
流石先生、あの衝撃波をなんらかの方法で受けきったみたいだった。
遅れたのはまあ安否確認とかしていたんだろう。
アンデットの軍団を殲滅せんと走っていく先生方をセシルは見送る。
そこへベイルとハドソンが来る。
「おう、セシルか。遅くなってすまんな。どうせ一人で戦ってたんだろうが、大人に頼ることも覚えるんだぞ」
「ベイル、早く援護に向かうぞ。世間話は後だ」
「おっとすまないな。セシル、お前が敵と戦いたい気持ちは分かるが、死んだら悲しむ奴もいるってことを考えて行動しろよ」
言い残し、二人も戦いに加わっていく。
剣と剣がぶつかり合い、魔法と魔法が衝突して弾ける混戦へと戦況は変わっていた。
セシルは周りを見て優劣を考える。
数は敵方が多い。
が、質はこちらの方が圧倒的に上。
命令に従うだけのアンデットを、組織的な戦闘で殲滅していくこちらが優勢だと考えていいだろう。
しかし、一番奥で指示を出している男は今だ無傷。
アンデットに指示を出しているのはあの男と見て間違いないだろう。
逆に考えれば、あの男を倒せばこの戦いは終わる。
兵を全滅させるより、将軍の頭をたたいた方が有効。
「……よし」
セシルはこぶしをぎゅっと握り、覚悟を決める。
今のこの混戦状態がチャンス。
一気に近づいて一発で決める。
「運命神の遣いなのかな……あの男の結界は硬い。だから……発動までが速くて威力が高い……うん、いける…!」
セシルは走り出した。
アンデット軍団を大きく迂回するように、グラウンドの端の方へと。
そして敵の斜め後ろとなる場所まできたところで、脚に力を込める。
「スキル『聖強化』」
スキルを使用した瞬間、銀白の光が彼女の体を包み込む。
聖なる光を纏ったセシルはその力を足に集中させ解き放つ。
思い切り力を込めて地面を蹴る。
弓に放たれる矢のごとく、一つの光の塊となってまっすぐに男へと向かっていく。
「光線!」
進行方向へとレーザーを放つ。
これで道をふさぐアンデットは駆逐。
同時に、進行方向にまっすぐ放ったレーザーは、真後ろにいるセシルの存在をうまく隠している。
突如、進行方向に結界が現れる。
フードの男のものだろう。
結界は難なくレーザーをはじき返し無効化した。
レーザーの後ろからセシルも結界に迫る。
このままではぶつかってしまう。
しかしセシルは何もしない。
容赦なく迫る結界──
──をセシルはすり抜けた。
「よしっ!」
セシルの予想では、男はかなりの手練れなので結界の扱いにもたけていると見た。
結界は物理的な結界と魔法的な結界という系統がある。
物理的なものにも細かく分ければ複数種類あるが、今通り抜けたのは魔法的な結界。
すべての属性、すべての物理的ダメージを防ぐ結界というのは、万能だがMPの消費が割かし大きい。
手練れであるフードの男はMPの消費を抑えるべく、光属性の魔法的な結界を展開したのだ。
少ないMPで効率的にレーザーを防ぐ。
それは簡単なことではなく、少しでも結界の張り具合や強度を間違えれば崩されてしまう。
かなりの芸当なのだ。
しかし、今回はそれがあだとなった。
魔法的な結界は魔法が防げるけども、物理的な攻撃を防ぐことはできない。
普通のレーザーならこれで正解だが、そのレーザーの真後ろに隠れるようにして飛んできたセシルは通り抜けられたのだ。
セシルはそのまま男に近づいていく。
レーザーを止めたことで油断したフードの男はこちらに気付いていない。
聖なる光を纏ったセシルは、男の斜め後ろまで肉薄すると思い切り叫んだ。
「固有スキル『聖虚光弾』!」
突然の攻撃に驚いた男が振り返る。
がもう遅い。
大きく開かれたセシルの右手には、ぎらぎらと閃光を放つ白光の球。
男が結界を張ったと同時、圧倒的質量を持った光の弾が放たれた。