76話 暗躍者の軍勢
身体強化と極歩を使って、急いで外へ出る。
ついでに危険察知をオンにする。
赤い危険地帯が表示されないので、さっきの音が元凶だったのだと分かる。
もう危険は無いなと一安心。
そして校庭へ目を向け……目を疑った。
何もないはずの校庭には沢山のゾンビ──アンデットが溢れていた。
100、いや200体以上。
すべての敵が弓や剣などのなんらかの形で武装している。
集団というよりかは軍団だ。
そしてその中心には黒いローブを被った人物がいる。
遠いのでよく見えないが、あれがこの集団のリーダーと見て間違いないだろう。
水晶玉を持ち何かしゃべりながら、その男はアンデットたちに指示を飛ばしていた。
「なんなんだあいつら……」
衝撃波を飛ばしたのも恐らくあいつらだろう。
あの軍団が無傷でいられるのはそれしかない。
だが、目的が分からない。
この学校に攻めてきたところで、一体何を得られるというのか。
金目の物?
沢山置いてある水晶?
いや、そんなものを取るんだったら、もっと栄えた王都への侵攻が一番だろう。
じゃあなんでだ?
攻める目的もないのにここに来る理由は……
考えていると、不意にアンデットの軍団に動きがあった。
ローブの男が指を指して、その方向にアンデットたちが走り出した。
思わずその方向を目で追うと───
「セシル!?」
アンデットたちが向かっている先に、ただ一人校庭の隅にたたずむセシルの姿があった。
しかも様子が変だ。
体には白いオーラを纏っている。
爛々(らんらん)と輝くその光景は、まるで聖女にでもなったかのような雰囲気を醸し出している。
セシルは自身に向かってくるアンデットを前にして、しかしひるまなかった。
逃げることもなく、むしろ臨戦態勢でそれらを待ち構えている。
しかし、今のセシルでは勝てるはずがない。
いかに謎の光を纏えど、アンデットはアンデットだ。
彼らはそれなりの知能を持つ、モンスターの中でもかなり上位に位置する存在。
王都の精鋭の兵士が一対一で戦って勝つかどうかというところである。
確かに授業中に見たセシルの魔法は強力だった。
あれほどの魔法をこの歳で操れるセシルはまぎれもない天才だ。
それでもあの軍団には勝てない。
一体だけでも要注意なアンデットだというのに、圧倒的な量で押し入られては天才も無才も関係ない。
ただ蹂躙されるのを待つしかないのだ。
砂埃を上げながら迫ってくるアンデットの軍団。
剣、斧、槍、弓。
それぞれの武器を手に掲げながらの突進は、進むことはあれど止まりはしない。
これはヤバイ。
セシルが危険だ。
迷っている場合じゃない。
「今すぐ行かないと──」
とつぶやいた矢先。
セシルが右の手のひらをまっすぐ前に出す。
迫りくる軍団に向けられた手は微動だにしない。
一言。
「光線」
つぶやいた途端。
手から幾筋もの光があふれだし周囲を照らす。
光線が触れた地面に穴が開く。
ありったけの熱量を持ったそれは更に収束。
圧縮、圧縮、圧縮。
ひたすらに光を集め、できたのは光の魔球。
高温で空間を揺らがせながら浮かぶそれは、更に小さくなったと思うとまっすぐに青い閃光を放った。
激しい電撃音とともに、強引に光の道が形成される。
ここまでコンマ0.1秒もかかっていない。
一瞬で生成されたレーザーに、しかし反応したアンデット。
その中の一体が盾を構え熱線に挑む。
が、そんな物理的な壁などもろともしない。
一本の光が何の抵抗もなく盾を貫通し、アンデットをまっ二つにした。
光線は数多のアンデットに衝突。
一瞬で溶かす。
貫通。
一直線に進んだ先にはフードの男。
圧倒的物量に守られていた指揮者。
突然の死の来訪に対応できるはずもない。
向かってくる光線を認識することすら叶わない。
当然、男は対処不可能と思われた。
……男が薄笑いした。
フードを貫通し仕留めてしまうと思われた光線は、空中にある透明な壁───結界と激しくぶつかった。
ギシギシと音を立てぶつかり合う。
が、結界は微動だにしなかった。
圧力のたまった光が衝突し、爆発を起こす。
爆音が響いた。
男の周囲に砂塵が舞う。
吹きあがる煙に、男の影が隠れる。
突然の光線にアンデット部隊はその足を止めていた。
少しすると煙が落ち着いてくる。
その中から現れたのは、無傷の男だった。