6話 冒険
今日もいい天気だなぁ。青い空、白い雲。風もなく、小鳥のさえずりまで聞こえてくる。窓の外からだけど。
ということで言語理解を作ってから3日たった。今日も今日とて、家の中で放置プレイさせられてます。まあいいんだけどね別に。前世でぼっちだった俺はこれぐらいの孤独はどうってことない。
しかし、前も思ったように暇だ。とてつもなく暇だ。自由という名の地獄である。これだけは俺には耐えられない。
ということで、今日は冒険しようと思う。と言っても移動できる範囲はこの家の中だけだ。外に出るためには玄関を通らなければならないが、玄関に向かう通路は食堂から見やすい位置にあるのでアメリーさんに気付かれる可能性が高く、そのため外に出るのは至難の技だと思う。
2階はもうすでに網羅している。何もない事を確認済みだ。1階はアメリーさんがいて自由に探索できないし、これといってめぼしいものもない。
じゃあどこへ行くか。この前、魔法陣が書かれた本を、お父さんが地下室に持って行ったのを見た。ということで、地下室だ。何度も行こうとしてアメリーさんに阻止されてきたが、今回は頑張る。今までのはウォーミングアップにすぎないのだよ。これからが本番だ。
てことで行きます。ただ、普通に歩いて行くと足音で気付かれるかもしれないので、ここはハイハイで慎重に行きます。いや、ハイハイじゃなくて匍匐前進ってことでお願いします。ス○ークみたいに行きますよ。ちなみにダンボールには隠れないよ。
ということで頑張って進んで行く。いつもの部屋を出る。扉は基本開けっぱなしにされてるので問題なしだ。そのまま階段に向かって行く。階段を降りるのはちょっと難しいが、もう何回も降りているのでコツを覚えた。手すりで上手くバランスをとりながら音を立てないようにして降りて行く。階段を降り切り廊下に突き当たる。右の方からアメリーさんが皿洗いをしている音が聞こえてくる。俺は地下室への階段がある左へ進む。この廊下が長い。ここで見つかってしまうパターンが多いのだ。なので音を立てないよう慎重に、でもできるだけスピードをだしてハイハイ…じゃなくて匍匐前進を繰り返す。
……やっと着いたぞ階段。地味に疲れるな。ハァ。少し呼吸を乱しながら階段を降りる……よし降り切った。ここ手すりないから音立てずに降りるの難しいんだよな。良かった良かった。それで最後の関門、金属扉ですよ。これはさすがに赤ちゃんの手じゃどうにもならない。今は鍵がかかってるけど、鍵がかかってなかったとしても開けられないと思うな。
それならどうやって開けるかってことなんだけど、鉄の扉の横に換気用の鉄柵がはまった四角い穴があるんですね〜。そして俺の手には木の棒一本。これは先っちょがマイナスドライバーみたく細くなってる物だ。2階の少しボロい壁から剥がしてきた。これで鉄柵をこじ開けてみようと思う。
壁と鉄柵の隙間に木を挟んで思いっきり引っ張る。うぐぅ〜。うぐぐぐぐぐ!んんぐぐぐぐぐぐ!!あれ。硬いなこれ。俺の力がないだけかもしれないが。もっと頑張ってみるか。ここで諦めたら試合……じゃなくて地下室終了だからな。地下室の何が終了するのかは知らん。
よし、うぐぐぐぐぐぐ!てりゃぁぁぁぁぁ!!
パコン。少し気持ちいい音がして、鉄柵の枠が半分ぐらい外れた。そのまま手でゆっくり外していく。
よっしゃ取れた。鉄柵を静かに床に置き、四角い穴を通って中へ侵入する。この穴、一辺が40cmもなさそうなんだよね。どうやっても普通に人が通るのは無理だろう。でも俺のこの体なら、ギリいける。今だけは幼女体形で良かったと思う。そしてギリギリの穴を通り抜けて中へ侵入。
……ふぅぅ。やっと入れたぁ。いや〜思った以上に疲れたな。しんどいしんどい。すると何か声が聞こえてきた。
「ルーラちゃーん?また地下室に行こうとしてるでしょー?」
アメリーさんだ。足音も聞こえてきた。これはやばい!バレちゃったら暇つぶしができなくなる!俺の唯一の娯楽が、パラレルワールドが!俺的某ネズミランドが遠のいて行く!どうしようどうしようやばいぞ。このままじゃ気付かれる。えーっと、えーっと、あ!そうだ!
急いで換気用の四角い穴のところへ戻り、地下室側から鉄柵を引っ張って元の位置に戻す。そしてまた急いでバックする。間に合え!間に合え!急げ俺!
「こらルーラちゃん!何してるんですっ………あれ、いない?こっちの方で音がした気がしたのだけれど…。気のせいかしら。」
少し周りを見回して食堂へ戻っていく。
アメリーさんの足音が聞こえなくなるのを確認して、俺は肩の荷を下ろす。
いやーびっくりした。危なかった。もう少し鉄柵で閉じるのが遅かったら終わってたな。ナイスファイトや、俺。久しぶりにアドレナリン出しちゃって、まだ腕が震えてるよ。初めてFPSをやった時と同じ感じだぜ。ふぅ。
さてと、んじゃ改めて中を確認しますか。
……暗いな。何にも見えねぇ。暗すぎてどこに何があるか、部屋はどれくらいの大きさなのかすら分からない。一つだけあるとすれば、鉄柵の周辺が外からの光で光源になってる。でもこれだけじゃなんにもできないじゃないか。ここにきて積みゲーかな?オワタのかな?やっぱり試合終了なのかな?
ってよくみてみれば、扉の横にランプあるじゃないか。入ってすぐ横にあったのに気付かないとか、灯台下暗しってやつだね。そうだよね?言葉の使い方間違ってないよね?うん。
俺はおもむろにランプへと手を伸ばす。ところどころ錆びついたそのランプは、俺の手が触れた瞬間、バッと勢いよく火が灯り、手から何かが吸い取られるような感覚と共にランプ自体が薄白に光揺らめく。
「わっ!」
びっくりして手を離すと火は徐々に消えていく。ランプの光も薄れて行き、少し経った頃にはなんの変哲も無いランプへと戻っていた。
「え?ナニコレ?」
いやマジでなんだこれ。ナ○コレ珍百景に登録されてもおかしく無いレベルにこのランプ変だぞ。
よし識別しようそうしよう。
《魔道具:所持者の魔力を消費して火を灯す魔道具》
……魔道具?え、魔道具ってファンタジーによく出てくるあれだよね。すごい便利なやつだよね。俺の家族はこんなものまで持ってんのか。すごいなおい。
んじゃ早速使ってみてと。おお、すごい明るいな。これで部屋全体が見渡せ………る……って、……なんだよ……これ…!?