75話 襲来
爆発にも似た轟音が響く。
突然のことに驚く暇もない。
大地が、空気が揺れ動く。
波動が伝わり、脳みそを震えさせる。
魔法の効果が発動し、音を耳にした者に恐怖と混沌が与えられる。
その音は数秒鳴り響いた。
そしてガタガタとした揺れがだんだん収まってくる。
少しして、音が止んだことを確認して立ち上がる。
頭がズキズキするが、歩くぐらいはできそうだ。
「うっ……」
耳を塞いだのに、まだ音が残ってぐわんぐわんとなっている。
数日続いた赤い領域はこれの影響だったのか。
痛む頭を押さえながら周囲の様子を見る。
ガラス窓がすべて割れて、破片があちこちに散らばっている。
食堂で昼食を食べていた生徒や、食堂のおばさんたちも全員倒れている。
どういう方法でこんな攻撃を繰り出せるのかは謎だが、甚大な被害を受けたのは確かだ。
とりあえず外に出ないと。
俺が走り出そうとしたところで、後ろからうめき声が聞こえた。
振り向くと、ガイが床に倒れながらも意識を保っていた。
思わず駆け寄る。
「ガイ、大丈夫!?」
「なん……で、お前が……耐えてんだよ……」
「あっ……なんかごめん……」
レベルとステータスの力だろう。
ガイは俺より歳は上だが、レベルは低いはずだ。
ステータスだけ見れば俺の方が上回っているので、逆にこの歳で気を失っていない方がおかしいのだ。
ガイは苦しそうに顔をしかめながらも、声を絞り出した。
「俺はいいから……セシルのことを頼む……俺はどうなってもいいから………」
「ガイ……」
「いいから……行ってくれ………頼む……」
「……あぁ、大丈夫だ。……最初からそのつもりだったよ、うん」
ガイはしかめっ面をさらにしかめて、最後の一言を残す。
「くそっ……辛辣だなっ……」
そしてもうぎりぎりだったのだろう。
目をつむり意識を手放した。
「ごめんな、ガイ。お前のことはあんまり心配してなかったよ」
思わず本音をこぼしてしまったが、まあいいだろう。
気にしたら負けだ。
「よいしょっと」
声とともに立ち上がる。
そして出口の方に少し歩いて、気づいた。
「さっきセシルが見てたのって、職員室じゃなくて校庭だったのか」
昼食の時にセシルが向けた視線の先には校庭がある。
普通何かない限り、壁を見つめる人などいないだろう。
「ていうことは、もしかして……こうなることをセシルは予見していた、のか?」
一体どういうことなのか。
俺は不安を胸に抱える。
しかし、今はそんなことを気にしている場合ではない。
セシルが予見していた事態ならば、視線を向けた先──校庭に行っているかもしれない。
今はセシルの安全が第一だ。
考えている暇はない。
俺は振り返ることなく、出口へと駈けだした。