74話 異常事態
無事午前の授業が終わり、俺は食堂で昼飯を食べていた。
二人テーブルの向かいの席にはセシルが座っている。
おいしそうに食べるセシルの姿は見ているだけで癒されること間違いなし。
なんて思いながら俺も異世界の給食を食べるのだ。
しかし、危険察知をオフにしているにも関わらず、肌にチリチリと感じる嫌な感じ。
スキルを発動させれば、今いる場所も赤く見えるのだろう。
何か起こりそうな予感を感じながらの給食。
最近ではおいしいと思えるようになってきた異世界の食事も、この状況ではあまり進まなかった。
ちらと見ると、隣の二人テーブルに座っているガイがうずうずしている。
おそらくガイも、俺と同じような何かを感じ取っているのだろう。
いつになく空気がどんよりしている気がする。
まさに悪いことが起こる前って感じだ。
しかし、セシルはいつも通りの様子で食事している。
魔法の才能があるんだし、セシルが一番に気が付いてもおかしくないはずなんだけど。
といっても、それでこの癒しが失われては本末転倒だ。
このままが一番なのかもしれない。
しかし、好奇心から俺は言う。
「なんか、嫌な感じだね。空気がどんよりしてる。セシルは、どう?」
するとちょうど食べ終わったところのセシルが水をのみ、答える。
「嫌な感じ?私はわかんないけど、そうなの?」
セシルは本当に分からないみたいだった。
「あ、いや、それならそれでいいよ。多分勘違いだから」
「うん!わかった!」
やっぱりセシルはセシルだ。
この純粋な感じが一番似合ってる。
やっぱり嫌な感じとか危険察知とか、俺の思い過ごしだったかもしれないね。
新しいスキルが使えて舞い上がってただけなのかも。
考えすぎはよくないって言うしね。
気にしたって仕方のないことは気にしないようにしよう、うん。
するとセシルは立ち上がって言う。
「トイレ行ってくる!」
「うん」
俺はセシルの背中を見送る。
立ち上がる時にちらっと壁の方を見ていた気がしたけど、何だったんだろう。
あっちはたしか……壁の向こうに職員室があった気がする。
もしくは、街で考えると役所の方かな。
って、俺は何を考えてるんだ。
これぐらいの歳の子供がそこまで考えてるわけないじゃないか。
やはり色々と考えすぎているんだな。
楽観的な気分でやってかないと。
子供なんだし。
と、不意に横から声がかけられた。
「ルーラ、お前も分かんのか」
声の主は、横の二人席に座るガイだった。
「分かるって?」
「だから、嫌な感じだ。ウェークトン家に伝わる秘伝の剣術鍛錬法を毎日欠かさず行っている俺は当然分かる。何かが起こる」
剣術うんぬんは知らないとして、ガイも一応分かるのか。
無言で鑑定してみたけど、危険察知のスキルは入っていなかった。
本当に鍛えて得た剣士の勘があるのだろう。
俺がガイの実力に関心していると、ガリガリ低身長で髪がきれいに整った男の子が出てきた。
「朝の訓練の時、空気がよどんでいると父上も言っていました、ガイ兄さん」
「それは本当か、ブル」
「うん、僕の記憶に間違いはないです」
そういえばブルってやつもいたな。
記憶に間違いはないですってきっぱり言っちゃうあたり、頭脳明細少年って感じだな。
自称だけど。
そして見えにくいけど、後ろで飯にかぶりつく奴がいる。
まるまると太った体を存分につかって、ガツガツと3人前の給食を食べて……いや、吸い込んでいる。
べちゃべちゃと食べる音にしびれを切らしたのか、ガイは怒る。
「ボウド!飯ぐらい静かに食べれないのか!」
言われたボウドは、片手にどんぶり、もう一方に水の入ったコップを持ちながら言う。
「ごめん、兄さん」
「ああもう、さっさと食べ終われ!」
そしてまた飯を吸い込み始めた。
なんて吸引力だ。
吸引力の変わらないどっかの掃除機よりも強いかもしれない。
奥の二人テーブルを横に使って一人で占領してるあたり、体積がすごいんだなと思わせられる。
座っている椅子から悲鳴が聞こえてきそうだが、そこは黙っておこう。
なんというか、この三人組は異常だな。
いつでもあわただしい。
というかうるさい。
よくこの組み合わせで三人仲良くやっていけるな。
いつおかしくなるかも分からないのに。
あ、すでにおかしいか。
なんて思っていると、ガイが話題を戻す。
「俺は今から先生に報告する。こんな嫌な気配がする中で授業なんてやれない。ルーラ、お前はどうする?一緒に来るって言うなら許可を出してやるけど」
「え、やだよ?行くわけないじゃん」
「なっ……まあいい。これでもウェークトン家の長男だ。寛大な心を持つ俺は許してやろう」
「なんで許されなきゃないんだよ」
「なんだ、許すと言っているのに逆らうのか!」
「はいはいわかりました、許されてあげますからこれ以上――」
突然、悪感が背筋を通り抜けた。
ぞわっと鳥肌が立つ。
今すぐ、何かしないとという猛烈な衝動にかられる。
嫌な予感が脳内をよぎり、俺はしゃがんでテーブルの下に隠れ耳を塞いだ。
その直後。
空気を引き裂くような轟音が轟いた。
学校中のガラス窓が全て割れる。
突如として訪れた破壊の波。
抵抗できて気を失わずに済んだ者は少なかった。




