表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/93

70話 ローブの男

「危なかったですね」


 転移陣から出ると、男はかぶっていたフードを脱ぐ。

 そこは墓地だった。

 沢山の墓石が並ぶ場所の一角、誰も訪れないようなずっと昔に作られた墓石の前。

 そこに転移陣を作り、転移石に座標を刻んでいたのだ。


 男は役目を果たし黒い石ころと化した転移石を投げ捨てる。

 そしておもむろにポケットから水晶を取り出すと、転移陣の中心に置く。

 地面に膝をつき、転移陣の切れ目と水晶に手を触れる。

 そして長い詠唱とともに魔力を注ぎ込んでいく。陣が輝く。

 魔力を注ぎ始めてからしばらくすると光は収まり、水晶は独特な光を放つ転移石に変貌していた。


 ため息を一つ吐くと、緑色の髪をかき上げながら男──サム・ケルグはつぶやく。


「まさか勇者が出てくるとは、しかもかの聖女まで見えましたねぇ」


 フフフ、とケルグは不敵な笑みを浮かべる。

 

「あそこの転移陣の活性化ができなかったのは痛いですねぇ……これでは王都に戻らずにすぐ襲撃しなければなりませんねぇ」


 ケルグの予想では、勇者と聖女はミシェートに向かっている。

 転移の軌跡を見ることぐらい彼らにはできるだろう。

 だとすれば、こちらも行動を起こさなければならない。


 状況的にはケルグが不利である。

 が、この劣勢もケルグにとっては娯楽だった。


「フフフ、面白くなってきましたよ」


 微笑しながら、この墓地を一瞥する。


「この場所も何の縁があるのかわかりませんが、かなり使いましたねぇ」


 感慨深げに言う。

 なにしろ、男にとっては昔から多用していた転移陣なのだ。

 アイザックまたはその周辺の監視任務を命ぜられ、ミシェートの町長の秘書になり潜入したときからずっとだ。

 任務の途中であの忌々しい男に気づかれてしまい、やむを得ず撤退したが。


 ケルグは舌打ちをする。


「まったく、アイザックめ。あの男さえいなければ……」


 まるでこちらを見透かしているような眼光の持ち主。そして勘の鋭さ。

 秘書を辞職するだけで済んだのは幸いだったと言える。

 もしかしたら、人生という職を奪われた可能性もあったのだから。


「まぁ、おかげでこんなに楽しい任務ができると思えば、やったかいもあったというものでしょうか」


 今回の任務は小等校で暴れるだけの、単純で最高に愉快な任務。

 

 ケルグは任務が楽しみで楽しみでしょうがなかった。

 

「まだあの時から4年ほどしかたっていませんが……まあいいでしょう。どうせ少しぐらい早めにしたところで同じことなのですから」


 水晶の男が指定したのは5年後。

 まだ5年経っていないが、この際勇者と聖女に邪魔されなければいいのである。


「フフフ……」


 ケルグはまた不敵な笑みを浮かべる。

 数日後に再現される鮮血の舞う最高の光景を想像し、彼は愉快でたまらなかった。


 ローブを被った男が、緑の髪をゆらしながら墓地を後にした。









───しくじったか……


 一瞬水晶の男の声が響いたが、それに気づくものは誰もいなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ