63話 4年生
4年生になった。
今まで続けていたレベリングも、4年生になって一区切りということでやめた。
全然経験値が稼げないのだ。
よくあるRPGゲームと同じでレベルが高いほど必要な経験値の量も多い。
まあ子供にしては十分すぎるレベルまで上がったので良しとしよう。
同じような理由で毎日魔力を使い切る訓練もやめた。
使い切っても次の日にMPの最大値が増えないのだ。
鍛えすぎたのかな?と思ったけれど、古い文献に原因が書かれていた。
本当に幼い時期──4、5歳あたりまで──に、MPを極限まで使い切ることによって最大値が増えることがある。
この時期は魔術回路の基礎を生成する大切な時期であり、その間に何らかの外的影響によってMP最大値が変動する仕組みだという説が有力。
しかし時期が過ぎると最大値の増加は止まる。
それなりの年齢になってからこれを実行したとしても、望むような効果は期待できないだろう。
つまり、俺はその時期を超えたという訳だ。ちょっと悲しい。
でも、こんなメリットしかないように思える鍛錬。実はかなりのリスクがあったのだ
ふつう、子供が未成熟なまま魔力を枯渇させると、激しい抵抗反応を起こす。
気絶したり、激痛ともいえる頭痛に見舞われたりなどいろいろだ。
大人が魔力を枯渇させてもさほど悪影響は受けないのだが、赤ん坊ともなると受ける痛みは大人の比ではない。
実際俺が体験している。今は魔力が枯渇してもそんなにでもないが、最初のころは結構ひどかった。
頭が締め付けられるようにして痛くて、目覚めが非常に悪かったのを覚えている。
その痛みに普通の赤ちゃんは耐えれないのだ。
ショック死や過呼吸で酸素不足、痙攣して泡を吹いてジ・エンド。
様々な要因があるが、魔力を枯渇させた赤ん坊はほぼ確実といっていいほどの確率で死亡するらしい。
怖いものだ。
そして第一に、赤ん坊が魔力を自分から枯渇させることなど普通はできない。
おしゃべりも食事も排便も一人ではできないような赤ちゃんが、魔法の言葉を唱えられるわけがない。
唱えたら逆に怖い。
そういう訳で、幼い頃に魔力の増強訓練はしないのが当たり前だそうだ。
まあ、転生者である俺は普通にできていたがな。
色々不幸な転生したけど、ちょっと報われた気分だ。
*
午前中の授業が終わり、昼飯を食べ始める。
基本給食だが、この学校は結構自由で自分の好きなものを選んで好きな席で食べられる。
給食というと決まったメニューを自分の席で食べるというのが俺の中では普通だったが、この学校に来てからは今の給食が普通になってしまった。
小学生なので、飯を食べるコミュニケーションスペースもがやがやうるさい。
が、この喧騒も慣れてしまった。住めば都だ。
日当りのいい窓際の、人気の少ない席を選んで座る。
今日はあいにくの曇りで、くぐもった光が僅かに雲の間から漏れる程度の光量だ。
なんとなく物寂しくなってしまう。
ぼっちだったあの頃も、俺の頭の中はこういう感じだったなぁ。
なんて変なことを考えながら飯を食べる。
すると、いつの間にか向かいの席にセシルが座っていた。
目を輝かせながら俺の名前を呼んでくる。
「ルーラ!」
なぜ名前を呼んだのか分からない。
「こんな至近距離で呼ばなくても分かってるって」
「呼びたくなっちゃったの!」
もちろん可愛いので許す。
しっかし、最近のセシルはやけに元気がいい。
こう、いつもより明るいというか、上機嫌というか。
試しに聞いてみる
「何かいいことあった?」
すると、セシルは一瞬ぽかんとして、すぐにいつもの笑顔に戻って言う。
「あった!」
ぽかんとした表情に一瞬だけ垣間見えた気がした焦りに俺は違和感を覚えたが、特に気にすることなく話を進める。
「いいことって、何?」
すると、なお一層嬉しそうにしてセシルは答える。
「フフーン♪それはね~」
「……?」
「ええとね~──ひみつっ!」
「秘密かよっ!」
そこまで煽っておいて秘密とは、こやつやるな。
でもかわいいから許す。
「まあいいや、楽しそうだから何よりだよ」
人生は楽しく、が俺の最近のポリシーだ。
楽しくするために何事も努力するのだ。
セシルも楽しく過ごせているのなら、それ以上は何も言わない。いいことだ。
「けど、あんまりはしゃぎすぎないようにね」
俺はセシルに忠告する。
セシルはきょとんとした顔で──一瞬だけまた焦りが垣間見え──かわいく首をかしげる。
俺は続ける。
「最近、近くのダンジョンで調査が行われたみたいなんだ。けど、調査に行ったはずのパーティ?というか部隊が、一週間たっても戻ってこなかったそうだ。何か嫌な予感がするから、外出歩くときは十分注意してくれ」
そう、俺がいっつも通っているダンジョンで調査が行われたらしいのだ。
その時はもうレベリングはやめていたから知らなかった。
ダンジョン内に超級の魔物が出たらしく、王都の精鋭部隊も壊滅だとか。
するとセシルは、顔をしかめて反応する。
「怖い……」
超級の魔物なんて、俺たちで対抗できるような存在ではないだろう。
俺は創神化と身体強化と極歩で逃げるのはたやすいだろう。
しかしセシルやほかの人はというと、逃げる前に敵の攻撃を受けてやられてしまう可能性の方が大きい。
危険度はかなりのものだ。
「これからはあんまり外出しない方が身のためだね」
俺の言葉にセシルは頷く。
創神化が使えると言っても俺だってリスクはある。
俺も気を付けないとな。
「ルーラ、でも……」
セシルが言い淀む。
「うん?何?」
「今度の授業って山登りだよね……」
あっ、と声が出る。
いや、がっつり外出するじゃねぇか。
しかも、魔物が出そうな山なんて。
「それは……どうしようもないなぁ」
まあ実際、そこら辺の山に入って特定の一匹だけの魔物に出会う確率なんてたかが知れている。
普通に過ごしていればあうこともないだろう。
「もし何かあったとしても俺がセシルを連れて逃げる」
なんとなくつぶやくと、セシルは満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう!」
なんてピュアなんだ。まさに天使だ。
山登りしてどんな敵が出てきても、セシルがいれば絶対に切り抜けられる気がする。