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62話 ダンジョン精査




 ミネルバ森林地帯奥地のダンジョン。その中心部にできた大きな洞窟。

 そこでは王都から送られてきた部隊約30名が、ダンジョンに異変がないか調査していた。

 というのも、近隣の学校が教育の一環としてダンジョンに来た際、あまりにもモンスターの数が少ないという報告があったのだ。

 ダンジョンは人々に恵みをもたらすが、反対に災いを招くものでもある。

 例として、モンスターの数が少なくなったダンジョンからは、強力な個体が生成されて町が壊滅するという事件も昔あった。

 調査せずほおっておくと大惨事になりかねない。

 ということで王都から部隊が派遣され調査に当たっているのだ。

 

 ダンジョン内のモンスターを駆逐しながら、調査員の一人が言う。


「報告は本当だったようだな。このモンスターの数は以前と比べてあまりにも少ない」


 通常の半分、いやもっと少ないかもしれない。

 誤差の範囲を超えている。

 これは何かが起きる前兆だと、調査員は考えていた。


 モンスターパニックというものがあり、ダンジョンにたまりすぎた大量のモンスターをダンジョン外まで放出するという厄災だ。

 これは先ほどの例と比べ被害自体は少ないが、起きる回数は圧倒的におおい。

 モンスターの数が異常に少ない場合はほとんどこのケースだ。

 対策しておく必要がある。


「強力な個体じゃ無けりゃいいけどな……」


「んなわけねぇだろ」


 調査員の呟きに強く反応したのは、この部隊のまとめ役であり部隊隊長である大柄な男だ。

 彼は部隊隊長としては珍しい、王都の兵士になってまだ1年の新人隊長だ。

 歳も若く経験も少ないが、抜きんでる戦闘センスと元貴族という地位も相まってすぐに隊長へと上り詰めた。


「俺は何度かこういうのを見てきたんだよ。これはモンスターパニックだ。モンスターの数が少ない」


 隊長はさも自分はすべて理解しているとでも言いたげな口調で言う。

 自信満々、といった様子である。


 そんな隊長に向けて調査員は反論する。


「しかし、強力な個体の出現という可能性も」


「違うだろ!傾向からしてモンスターパニックだ!」


 どうやら隊長は、モンスターが少ない場合に強力な個体が出現するということを知らないらしかった。

 しかし「知らない」と言えば自分のプライドが傷つくとでも思っているのだろうか、モンスターパニックしかありえないと繰り返す。


 調査員は反論しようとするが、開きかけた口を閉じた。

 この隊長相手ではきりがないと判断したのだ。

 それに元貴族だけあって、何か言った時の影響力だけは強い。

 

 ここはおとなしくしておくのが得策か……


 隊長の話を聞き流しながらそんなことを考えていた時だった。


「お前は経験が少ない!強力な個体がなんだというのだ!別にそんなものが出ても俺がたお──」


 突如、目の前を高速で横切る影。

 ブオン!という空気を切り裂く音とともに、何かが出てきたのを調査員は感じた。

 反射的に腕で頭を守る。

 周囲の岩が砕け塵が舞い、思わず目をつむる。

 

 急に静かになった洞窟内。

 調査員は少しずつ目を開けていく。

 砂埃も落ち着いてきて、だんだん視界が開けてくる。

 すると目の前に出てきたのは隊長。


 ──頭が無い…!


 あの一瞬で、誰にも気づけないほどの速さで隊長の命がかられた。

 戦闘センスにおいてはかなりの力量を持っていた、あの隊長が。


 調査員はそれでも冷静に行動しようとした。

 ここから出て状況を報告しなければ。

 大変なことが起きている。

 このままでは周辺の町がすべて滅ぶ。


「おいみんな──」


 来た道を振り返り声を出す。

 が、後ろにいたはずの仲間たちは全員倒れていた。

 30名いたはずの、王都直属の部隊。

 それなりの者たちが集められた部隊。

 

 そのすべてが、胴体や頭をなくして地面に横たわっていた。


「なんだよ……これ……」


 調査員は絶句した。

 どうして、いったい何が。

 

 不意にぞわっとした空気が押し寄せる。

 背中に大きな何かを感じる。

 恐る恐る、調査員は後ろへ振り返る。


 暗がりの中、大きな影がゆっくりと姿を現した。


 巨大なトラ型の魔獣。血の付いた爪がギラギラと光を反射し光っている。

 大きな体は筋肉で盛り上がってさらに大きく見える。

 肌は赤黒く、体毛は紫に変色している特殊な個体。

 鬼のような形相は周囲にプレッシャーを放ち、いかなる生物にも恐怖を植え付けるとしか思えない姿だった。

 口には調査員を銜えて咀嚼している。

 ぼりぼりと骨を砕きながら食べ終えると魔獣の体が淡く光り、少しだけ爪と体が大きくなった。


「エンシェントグリフォン……」


 調査員は王都の勇者から聞いた話を思い出していた。


──魔力のある生物を食し自分を強力な個体へと成長させる魔獣、エンシェントグリフォンが近年発生した。

 普段は温厚な性格のはずなのだが、その個体は何者かによって懐柔・変異させられ、とても危険な状態にある。

 できるだけ早く駆除したいが、普通の部隊で勝てる相手かは分からない──


 勇者の言っていた魔獣はこいつだったのか。

 こんな魔獣、いくつ部隊があったって足りないじゃないか。


「早く……知らせないと……はや──」


 喋っている途中、この部隊最後の調査員の首がはねとばされた。

 悲鳴すら聞こえることなく、たった一体の魔獣によって部隊は壊滅した。

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