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48話 創造魔法の時間2


 もとより用意してあった実験用具を机の端にどける。

 これで余計なものはなくなった。

 

 世間一般的に考えてみれば、創造魔法は使えない魔法だ。まず前準備として必要になる様々な素材を集めなければならない。集めたとしても、きちんとした手順と分量で混ぜたり溶かしたりしないと魔法の媒体としては使えない。媒体を作ったとしても詠唱が間違っていれば失敗する。詠唱があっていても魔力の消費が激しいので、沢山作ることは難しい。そして作成に成功したとしても、成果物のほとんどは質が悪い。

 コストパフォーマンス的に見ても、難易度的に見ても、燃費が悪すぎる魔法だ。昔の軽自動車だな。ハイブリット車には敵わないのだ。

 材料さえそろっていればすぐに発動できるという長所はあるものの、それを考慮してもデメリットの方がはるかに大きい。

 わざわざ創造魔法を使わなくても、別の魔法で代用したり、普通に自分の手で作ったりした方がよっぽど早いというのが現実だ。


「創造魔法をうまく使えるとかっこいいよね~」

「ネタ、というかロマンを求めるのにはちょうどいいんじゃないかな」


 普通の人の脳内での創造魔法の評価は、こんなものだろう。

 この魔法を通して人々は現実の厳しさというものを学ぶのだろうか。

 

 かわいそうに、創造魔法。

 今までそうやって排他的な扱いを受けてきたに違いない。

 かっこいい名前でロマンあるけど、実用性に欠けるよな~とか掲示板で愚痴られたに違いない。

 そして学校に行くとそれが騒ぎになってて、


「創造魔法君ってすっごいキラキラネームだよね」

「でも全然ぱっとしないよね」

「あいつ全然使えないしな」


 なんて言われるんだ。

 さぞつらい思いをしただろう。しくしく。


 ───んっっだが!!

 創造魔法君、よく今まで耐えてくれた。

 もう大丈夫、私がこの世界に降り立った。

 今まで馬鹿にされてきたその屈辱の思い、彼女いない歴=ボッチ歴=年齢だった私にはわかるよ。うんうん。

 これ以上虐げられたままでは何も変わらない。変えられないのだ。

 では何をすればいいのか?

 答えは簡単だ。

 ”創造魔法の実用性”というものを世間に知らしめてやればいいのだ!

 なあ?簡単だろう?

 ……え?そんなことできるわけないって?

 創造魔法をそこまで使える手練れは、この世界にも指で数えられるぐらいしかいないと?

 安心してください。

 私の創造魔法のレベルは53ま(ゴホッゴホッ)無限です。

 無限。”LV∞”。

 有限という万物に定められた値。絶対的な世界の理。

 それすらも超越したのが俺の持つ「創造魔法LV∞」なのである!


 燃費が悪い?質が落ちる?素材集めがめんどくさい?

 ハッ、そんなことへでもねぇ!

 素材なんぞ要らねぇ!燃費も知らねぇ!質だって知らねぇ!

 必要なのは気合と、魔力と、味付けの塩コショウと、あと気合いだ!

 クリエイトの合図で繰り出されるのは、何にも勝る「創造」のフルコース。

 この史上最高の魔法には、どんなものであっても及ばない。

 そう、及ばないのだ!


 さあ!今こそ創造魔法君という超一流の魔法シェフの名を世間の人々へ、いや世界中へ、いやいや、全宇宙へと轟かせてやりましょうぞ!


「クリエイト・ライトっ!!」


 俺の無駄な想像力がこもった創造魔法は見事成功し、ひと際明るい大きな光の玉を生成した。

 どこからどう見ても光球、それも特大サイズだ。


「創造魔法君、ずっと、俺たちのターンだね」


 謎の声を発するも、セシルがツッコミを入れてくる様子はない。創造魔法によって作られた禍々しい光球に目を奪われているようだ。

 さすが創造魔法。俺はお前を信じていたぜ。

 

 あんなに四苦八苦していた光球の生成も、創造魔法を使えば一発だ。

 われながら鼻が高い。誰か褒めて。褒め倒してくれてもいいんですよ。

 なんて考えていると、先生が教壇から降りてこちらへ向かってきた。

 そうか、俺の功績をたたえるために……


「先生、僕の創造魔法にかかれば──」

「静かにっ!」


 自慢しようとしたところで、先生の緊迫した言葉に制される。

 なんだ?俺なにか間違えたか?

 

 先生は作り出した光球を、まるで洗脳されたかのように目を大きく見開きながら見続ける。

 そして見終わったかと思うと、今度は勢いよく俺の目の前まで接近し、ぎらぎらした目つきで質問してきた。


「これはあなたが?」


「えっ、ええ。まあ。」


「先に言います。これは光球ではありません」


「…え?」


「光球のようにも見えますが、全然違います。」


 先生は目を細くし、危険物でも見るかのような目の色で光球を見つめる。


「これには魂が宿っています。つまり……精霊、ただの精霊ではなく、かなり強い精霊」


「せい…れい…だと?」


 先生の言葉に、教室にいた生徒全員が驚きと興奮の声を上げた。


「ライトソウル。光をつかさどる精霊として、魔力の濃度が高い場所だけに現れる。現れると言ってもごくわずかで、探しても見つかるようなものではないわ」


「これがライトソウル…?」


「違います。これはその更に上位種の”ライトウィスプ”だと思います。私も見るのは初めてですので断定はできませんが…」


 まじかよ…先生でも見たことないやつ召喚しちゃったのか…


「先生、これは……」


「ええ、ルーラさん…」


 これは、あれしかないだろう。


「……私の新しいペットですね!」


「「「「「……え?」」」」」


 あれ?これだと思ったんだが。みんなそうは思ってなかったようだ。


「ルーラさん、違います。このような精霊を創造できる人などこの学校には存在しません。しかしここにはウィスプがいます。いるはずのないウィスプがいます。ということは、この学校に強力な魔法を使える危険人物がいるかもしれないのです。」


「……え?」


「ですから身の安全を第一に考えて行動を──」


「この光の精霊って、結構簡単に作れるものじゃないんですか?」


「そんなわけないでしょう!私でも作れなかったんですよ!それを一瞬で作るなど人間離れしています~ほんとに!」


 まじかよ…

 創造魔法の授業だって言うし、これぐらいならやっても大丈夫かなと思ってたけど、ちょっとやりすぎた。

 やりすぎると俺のことが変に知れ渡ってしまうかもしれないし、それは避けたい。

 今はラッキーなことに犯人が俺ではないと思われているみたいだし、このままそっとしておくのが無難だろう。

 しっかし……


「俺のターン…こないな…」


 目立てない。無双できない。

 これじゃあ、一般人とやってること同じじゃねぇか!

 ていうか一般人よりもしょぼくないか俺!

 みなさん、校庭に避難しますよ~という先生の声を耳に入れながら、俺はどうしようもない落胆の気持ちをあらわにするのだった。


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