45話 最下位の実力2
俺の命令によりデブゴーレムとガイゴーレムが、ガイへと襲い掛かる。
一番最初に出したゴーレムも素早かったが、より魔力を込めたせいか、この2体はそれ以上のスピードを有していた。
まず最初にボウドの形のデブゴーレムが、ガイの前にせり立つ。
素早いゴーレムの動きに対し、しかしガイは冷静だった。
腕を縦に振り回しながらガイへ突っ込むデブゴーレム。
上から振り下ろすようにして繰り出されるデブゴーレムの連続攻撃を、ガイは反復横跳びをするかのように素早く左右へステップして躱す。
ガイは腰を落としたまま攻撃をかわしきり、デブゴーレムの攻撃が一瞬途切れたところに右手の木刀で一閃、また一閃。
デブゴーレムの両腕の根元にひびが入り、そのまま砕け散った。
両腕をなくしたゴーレムはなおも攻撃しようとガイに突進するが、ガイは正面から迫るゴーレムの突進を軽く横へよけ、ゴーレムの足元へ滑らせるようにして剣を突き出す。
ガイの攻撃によってゴーレムの片足が砕かれる。
両腕と片足を失ったゴーレムはそれでも動こうとするが、背中にガイが攻撃して魔導回路を壊した途端、ぴたりと動かなくなった。
「くそ!よくもやってくれたな!交代だ。ガイゴーレム!」
俺が言うと、ガイゴーレムがガイの前へと立つ。
ガイゴーレムは腕の先の方が剣のようにまっすぐ伸びている。
作成時に俺が細工してまともに戦えるようにしたのだ。
ただ切れ味は全くなく、防御兼打撃武器といったところだ。
切れ味があったらそれはそれで危険すぎる。
ルール違反である。
ガイとガイゴーレムが睨み合う。
ガイVSガイだ。
全く同じ人物が真剣勝負しているところはどこからどう見ても異常で、シュールな光景だ。
両者とも腰を落とし、武器を引いた状態で固まっている。
固まったままなかなか動き出そうとしない中、先に行動したのはガイだった。
右足を後ろへ、そして木刀を持っている右手を腰より少し高い位置まで引く。
その状態から、一気に右足を前に出して踏み込む。
一瞬にしてゴーレムとの距離を縮めた。
ガイゴーレムはガイの速い動きについていけていない。
木刀は既に左足の前の方に下げられ、両手で握られていた。
「はぁぁああっ!」
声とともに、木刀で斜めに切り上げるガイ。
剣を振るスピードが速く、剣筋がぶれて見える。
一瞬の中で行われたガイの攻撃は、ガイゴーレムを確実に捉えて───
───そして躱された!
ガイゴーレムに埋め込まれている魔導回路は、ガイの動きをまねして動くというもの。
攻撃されそうになればガイを真似してよけるし、チャンスがあればガイと同じような動きで攻撃する。
これがガイゴーレムの特徴であり、最大の強みであった。
なにせ相手の動きを学習・把握するのだ。
すべての動きを学習するわけではないが、一定の簡単な攻撃であれば予測して回避する。
今の攻撃も、斜めに切り上げてくることまでは予測しなかったものの、正面から切りつけてくるだろうと予測し、さっきガイが使っていたステップで後ろに躱したのだ。
思わず俺は一瞬ニヤけてしまう。
こんなにも思い通りにいったのだ。ニヤニヤしない方がおかしいだろう。
と俺がニヤけていると、止まったと思われたガイが動き出す。
斜めに木刀を振り上げていたガイは、そのまま時計回りに一回転するように勢いを流す。
そして回転の勢いを剣に込めて、右手の木刀で横なぎに振り払う。
流石のガイゴーレムとも言えども、この追撃はまったく予測していなかった。
そのまま横にぶった斬られる。
勢いの乗った一撃を受けたゴーレムは、丁度腹のあたりから上半身と下半身に砕かれた。
そのまま10mほど吹き飛ばされ、停止した。
そのガイの完璧な剣技は、周りで決闘を見ていた観客の人々をも震撼させていた。
斜めに切り上げておしまいかと思っていた俺は、その動きに驚愕を通り越して感嘆してしまう。
敵ながらあっぱれである。あっぱれすぎて怖い。
これほんとに小学生?
異世界の人間スペックたかすぎやしませんか?
今更ながら、こいつと戦うのがゴーレムでよかったと思う。
だって石像を粉々にするんだぞ?石像より柔い俺が食らったらどうなるかわかったもんじゃない。
ゴーレムを倒し終わったガイは、上がった息を落ち着かせながら言う。
「ふぅ...これで終わりか。最後の奴はなかなかだったな。一回オレの攻撃を避けられた。けど、それでも一回だけだ。弱い、弱すぎる!やはり俺の相手をするのには不十分な実力だったみたいだな、ハッハハハ!」
ガイの言葉を聞いた俺は少したじろぐも、最後のとっておきがあるのを思い出す。
あれは対ガイ用兵器といったものだろうか。
この決闘なら絶対に勝つ自信がある。
俺は調子を取りもどし、薄笑いを浮かべながら言う。
「ほう?これで終わったと?そうガイ君は思っているのかね?」
俺の言葉に、ガイは疑問をぶつける。
「なんだ、まだあるのか?もうこれで全力だと思っていたが......いいだろう!ただし、俺はさっさとこの試合を終わらせてしまいたいから、お前もさっさと戦え!このガイ・ウェークトンが相手をしてやっているのだ!早くしろ!」
ガイが嫌味をぶつけてくる。
俺は言う。
「全く、今までのは遊びみたいなものじゃないか。そうかっかとするな、ガイ君。」
「なんだ、その上から目線の言い方は......」
ガイの言葉を無視して俺は言う。
「............まあそんなことはいい!これからが本番だ!俺の本当の力は今から解放される!」
言いながら、ポケットから最後の紙を取り出し、地面に広げた。
そして、精神をゴーレムを創造することだけの一点に集中して、唱える。
「クリエイト・ゴーレム!」
広げた紙の上に光が広がる。
創造魔法で形が整えられて、ゴーレムの形が作られていく。
俺は一層集中し、魔力を注ぎ込む。
魔力を、注ぐ。注ぐ。注ぐ、注ぐ、注ぐ注ぐ注ぐ注ぐ注ぐ注ぐ!!
すると作業の途中ではっと気づいたガイが止めに入ってくる。
「そう何度も同じ手にはまるかぁっ!!」
変身中の仮面ライダーは攻撃してはいけない、これは暗黙のルールというやつだ。
が、俺がゴーレムを作っている間に攻撃してはいけないなどというルールはない。そんなことより勝敗が重要だからな。
問答無用でガイは襲ってくる。
だが、もう遅い。
光が強く放たれ、そして収まる。
ガイは光の眩しさに目をつむる。
「ぐっ...間に合わなかったか...。だが、もう一回倒せばいいだけの話...」
何体ゴーレムが召喚されようとガイの敵ではない。
今召喚されたゴーレムを倒し、またすぐにルーラを攻撃すれば全て終わる。
簡単な作業である。
そしてガイは思う。
次はどんなゴーレムだろうかと。
そして光が収まりゆっくりと目を開けると───
───セシルがいた。
「...え?は?」
ガイは突然の状況に、取り乱す。
セシル、そうセシルが目の前に姿を現したのだ。
さっきまでのゴーレムみたいに石の灰色ではない。
白いドレスを纏ったセシルは、腕は透き通るように白い肌色で、髪と目は鮮やかな水色。まるで空を映し出しているように明るい色合いだ。
頼りなさそうな体に小さな顔が乗っている様は愛嬌があり、だが清楚で、ガイからしてみればこの上ないほどに最高だった。
「これは......一体...」
ガイは言葉を失う。
──なぜセシルがここに?
──どうしてこの状況に?
信じられないセシルの出現に戸惑いを隠せない。
そんなガイの様子を見て俺は言う。
「あれぇ?ウェークトン家のガイ君ともあろうお方が?ゴーレムを前にして一歩も動けないの?」
ガイは言葉を聞いて今になってやっと気づく。
そうか!これはセシルではなくゴーレムなのか!
クオリティが高すぎて気づけなかった。
それほどまでに精巧なゴーレムだった。
ここで負けてしまえばセシルはAクラスには戻ってこない。
これは痛手、痛恨のミスとなって後々後悔する。絶対後悔する。
そうだ...今ここで勇気を出さずしていつ出すというんだ!
「...ぅうぉおおおおおおおっ!」
ガイは心を決め、断腸の思いでセシルのゴーレムへと駈けていく。
セシルを壊すというのは気が引けるが、もうこれしか道はないのだ。
ゴーレムの前まで近づき、ガイは最後の一撃と言わんばかりに木刀を突き出そうとするが......
「やっ、やぁ......やめ...て......」
その声が聞こえた瞬間ゴーレムの目前でガイの動きが止まった。
恐る恐る、ガイは顔を上げてみると───
───セシルが身を小さくしておびえながら、目に涙を滲ませていた。
その動きはもう完全に、完全に、完全体だった。
ガイは開いた口が閉まらなかった。
保っていた構えの姿勢も崩れる。
数歩セシルゴーレムから後ずさり、地面に腰をついて一歩も動けなくなった。
「だ、だめだ...俺には壊せない......こんなこと俺にはできない...絶対無理だ......」
嘆いた後、大きな声で俺に叫んでくる。
「ひ、卑怯だぞ!こんなことして許されると思っているのか!戦うなら正々堂々と戦え!!」
何を言う。
これでも正々堂々戦っているのだ。
主にゴーレムが。
しかし卑怯だと言われる筋合いはない。
お返しにちょっと煽ってみるか。
「これはゴーレムを召喚しながら戦うというれっきとした戦法だよ?そこのもゴーレムの一つだからね?まあセシルの形してるけど。ほら、ガイ君。遠慮なく倒してくれて構わないんだからね。今まで通り破壊してもらっても何も困らないよ?え?もしかして、できないなんて言わないよね?
言わないよね?ね?え?まさか?あのウェークトンの血を継ぐガイ君が、動きもしないゴーレムにやられるなんてことないですよね?あはは!」
怒りをさそって冷静さを奪う戦法だ。ああ、舌が回る回る。
すると俺に煽られてやる気が出てきたのか、ガイが再度立ち上がりだした。
「こんなことで......負けてたまるか......俺は...俺はウェークトン家の誇りにかけてこのゴーレムを倒すっ!!」
そしてセシルゴーレムの前まで高速で駆けていき、
「お願いだから......やめて......お願い...」
セシルの声を聞いて
「あぐあぁぁあっ!!」
地に伏した。
「くっ、くそぉぉお!」
ガイはセシルゴーレムには勝てないようだ。
それもそのはず。
あのセシルゴーレムはかなり手の込んだゴーレムだ。
一つの作品と呼んでもいいレベルだと思う。
まず声。
あのゴーレムの中にはセシルの動きを忠実に再現する魔導回路と、俺の命令でセシルの声を出す魔導回路が入っている。
声は実際にセシルに出してもらったものを録音し、それを再生しているだけだ。
なので出せる声のパターンは二種類しかないが、ガイ相手には効果抜群みたいだった。
次に動き。
こちらも声と同様、元となる動きのプログラムはセシルのものだ。
セシルの動きを、ガイゴーレムが相手の動きを学習するのと同じ要領で、ゴーレムに学習させたのだ。
俺が作るのではなく、元を本人のものとすることで忠実にセシルを再現できたのである。
最後にゴーレム本体。
想像するときに沢山魔力を注いで作り、見た目を完璧にした。
創造魔法では、MPを消費すればするほど創造されたものの質や再現度が高くなるのだ。
魔力を込めすぎると、限界を超えて耐えきれなくなった素材が5秒ぐらいで爆発するらしいが。
戦闘用のプログラムを組む必要が無いため回路に余裕ができ、結果としてクオリティの高いセシルゴーレムが完成した。
もちろんセシルに許可をとった上で行っている。というか許可を取った後に声とか動きとかを仕込ませてもらったしな。
俺も本当はやりたくない作戦だった。
だから作戦執行にあたって悩んでいたのだ。
しかしセシルに、
「私のことは気にしないで!だって私もルーラと一緒に...その......一緒にいたい...」
と頬を赤らめながら言われ、迷いと精神が吹っ飛んだ。
かわいすぎて。
今までは恥ずかしがるとかそういったことはなかったのに、セシルも成長するんだなと思った。
成長しても可愛さだけは減らない、というか日に日に増していくばかりだが。
それはそうと、ガイの様子を見るにもう勝負は決まったみたいだ。
ガイにあのゴーレムを倒すことはできないのは目に見えて明らかだ。
このまま決闘を続けても時間の無駄だろう。
決闘も潮時だ。
俺は勝ちが確定したと思って少し調子に乗る。
「ガイ!観念したなら負けを認めて降参するんだッハッハッハ!」
ガイに呼び掛けてみる。周りの観客からブーイングが来た気がしなくもないが、気にしない。
すると、ガイは唸る。
「このオレが......降参...だと......?」
そして地面に膝をついたまま、ぶつぶつとつぶやき始める。
目の焦点が合っていない。
地面を見ているはずなのに、目は震えるばかりで何も見ない。
それなのに、何かぶつぶつとつぶやく口は止まらない。
な、なんだ。こやつ、狂ったか!?
と思っていると、ガイはおもむろに立ち上がって俺を凝視してきた。
その強い視線に、俺は思わず後ずさる。
はっきりゆっくりと、ガイは一言一言かみしめるようにつぶやいた。
「オレには......壊せない......でもこの剣なら......壊せる......」
俺はだんだん嫌な予感がしてくる。
まだなにかするつもりなのか?
だってこれ以上ガイができることは無いはずだ。
じゃあガイは何をやっているんだ?
この剣なら壊せる、ってどういうことだ?
すると、ガイは唐突に剣を手放した。
両手で持っていた木刀を足元に落とす。
「ああ、なんだ。ふぅ~やっと降参か......」
思わず安堵の息を漏らしてしまう。
だって、剣士のガイが剣を手放したのだ。降参ということだろう。
さっさと降参してくれて助かったぜ。
いやな予感したから、まだ何か奥の手を残してるのかと焦ったよ。
セシルゴーレム以外に思いつくゴーレム無かったからな。
これが壊されたら危なかったところだ。
ほっとして胸に手を当てながらガイに目をやる。
───ガイの様子がおかしい!
ガイは開いた両手を木刀に向けていた。
何かを念じるような、魔法をかけるような様子だ。
木刀に両手を向けていると、なんと木刀が光って浮かび上がった!
白い光を垂れ流すように力を纏った木刀は、ちょうどセシルゴーレムの頭の高さまで浮かぶ。
この異常事態には、決闘を見ていた観客もざわつく。
そしてそんなことを気にも留めず、ガイは目をつぶり、言う。
「オレにはできないこと......この剣に託す!
剣よ、あのゴーレムを破壊しろ!【魔剣化】!」
ガイが命令した瞬間、木刀が白くて禍々しい光を噴出させながらセシルゴーレムへと飛んだ。
ガイは剣を飛ばすと同時に目を瞑った。壊されるところを見たくなかったためだ。
「やっ......!」
定型文を言おうとしたセシルゴーレムが、飛んできた剣に粉々にされる。
ちょうど胸のあたりにまっすぐ突っ込んだ剣は、ゴーレムの胴体を圧倒的なパワーで粉砕してバラバラにした。
俺は無残な光景に思わず叫ぶ。
「セ、セシルゥゥゥウッ!!」
俺が叫んだのもつかの間、セシルゴーレムを砕いた剣が、勢いは少し弱まったものの、そのまま俺にも突っ込んできた。
俺は、禍々しい白いオーラを纏った剣が向かってくるのを見てビクッと震え上がり、とっさに杖に魔力を込めてガードした。
間一髪のところで、奇跡的にガードに成功する。
杖に魔力を込めて発動した「硬化」のおかげで、杖は木剣をきれいに弾いた。
(あっぶねぇぇぇ......!)
俺は内心冷や汗をかく。
今杖を使ってガードしていなかったらどうなっていたことか。
受け止めた杖を持つ手が衝撃でしびれている。
硬化で鉄以上の耐久を得たはずの杖が少しへこんでいる。
今のをくらっていたら、胸がえぐられていたかもしれない。
もしものことを想像し、俺はぞっとする。
改めてあぶなかったと思う。
......前から足音が聞こえてくる。
───まだ終わってなかった!
俺がぼけっとしている間に、ガイがこちらへと迫ってきていた。
ものすごいスピードで足を動かし、猛ダッシュで俺へと迫る。
そして、俺の数メートル前で大ジャンプし、空中にはじき出されて回転していた木刀をきれいにキャッチする。
「これで...とどめだぁぁああっ!」
空中から落ちる勢いをそのまま剣にのせて、俺を一刀両断する勢いで木刀を振り下ろしてきた。
ぼーっとしていた俺は、素早すぎるガイの動きに反応できない。
ようやく攻撃されてるんだと認識できたころには、剣が俺に振り下ろされんとしていた。
剣が本当の意味で目の前に来た瞬間、俺は心から思った。
これは......死ぬ!!
「...っ!!」
とっさに、俺は攻撃を回避しようとして身体強化、極歩を使う。
目前まで迫っていた剣を横に素早く避け、カウンターを差し込むように、空中にいるガイの腹へと杖の殴打をぶちこんだ。
クリーンヒットした感触。
俺の攻撃はガイの腹に吸い込まれるようにして、綺麗に直撃した。
「ガッはッ...!」
ガイはため込んでいた空気を口から吐き出しながらすごい勢いで吹っ飛んでいく。
数回地面をバウンドした後、地面に背中をこすりつけながら吹っ飛んでいき、50mほど離れたところで止まった。
ガイは体をだらりと投げ出し、白目をむいていた。
そして、最後に一言、
「つ......強すぎる......ガハッ......」
とつぶやいて意識を失った。
終わった...のか。
ついに決闘が終わったのか。
......マジで、ほんとマジで危なかった~!死ぬかと思った~!
と俺は叫ぶ。
心の中で。
いやだってガイの攻撃めっちゃ強そうだったっていうか、かっこよすぎて見とれるレベルにヤバいというか、でもそれどころじゃなくて死ぬかと思った。自分でも何言ってんのかよくわかんないね、うん。
でも、身体強化と極歩ってこんなに強かったっけ...?
学校に登校する時使ってもエマ姉さんの歩くスピードに合わせるぐらいなんだけどなぁ...
ちょっとした疑問が頭の中をよぎるが、すぐにうやむやになって消えた。
これで決闘は終わったわけだ。なんやかんやあったが、もうセシルを奪われなくて済む。
目の保養ができるね!やったね!
ひと段落ついた達成感から、俺はため息を漏らす。
「ふぅ~...」
ため息を漏らしながら、ふと気づく。
...決闘を見ていた観客全員が唖然とした表情で俺を見ていた。
「...うっ!?」
周りの騒然とした雰囲気と自分に向けられた視線の多さに面くらってしまう。
観客は少しの間沈黙していたが、やがて大きな驚嘆の声を上げ始めた。
「なんだ!?何が起こったんだ!」
「男子が斬りかかったところから全然見えなかったぞ!?」
「今のあの女子がやったのか?」
「ありえねぇだろ!あいつは魔法使いだぞ!杖で吹っ飛ばしたっていうのか!?」
「できるわけねぇよそんなこと!剣士でもできねぇよ!」
「でも残っているのはあの女の子だぞ!」
ガイを吹き飛ばした瞬間の動きが見えなかったようだ。
身体教化と極歩って、そんな早く動けるんだ。
まあ確かに、どちらも一回進化した上位のスキルだからそれぐらいの効果があっても普通なのかな?
でも、人の目で追えない動きを2歳児の体で実現するスキルって......
異世界の力、すごい、ほんと。
っと、その話は置いといて...
......これもしかして、ちょっと有名になっちゃったり...?
いや有名になりすぎたり......?
いやでもでも!俺の動きを目で追えなかったわけだし、スキルの存在もばれてないんじゃないか?
ちょっとご都合主義すぎる考え方だけども、大丈夫っしょ。よし絶対大丈夫だ。
そんなことを自分の心に心に妄信させ、もう一回周囲を見てみる。
すごい数の人が歓声を上げ、お祭り騒ぎみたいになってる。
これは......大丈夫!ばれてなきゃ大丈夫!
ばれなきゃ嘘は真実となりうるのだ。
嘘も方便、背に腹はかえられないのである。
と、よく見てみると、観客席にはアイザックさんとお父さん、他にも貴族っぽい人たちやムキムキの冒険者みたいな人、フードを被った魔法使いっぽいひとまでいた。
アイザックさん来てたのか。
って、みんな驚きの表情を浮かべる中、アイザックさん冒険者っぽい人だけはこちらを睨むような目つきで見てくる。
「あ...」
目をこすってもう一度見てみる。
確実にこっちを見ている。
いやこっちしか見ていない。
しかも険しい顔つきで。
と、アイザックさんがたち上がった。
そして観客席から降りてこちらの方向へ歩いてきている。
やばい、ね。
やばいよ!
これは目立って浮かれている場合ではない。
自分の心を急き立て、急ぎ退散する。
と、その前に確認する。
審判の人のもとへ小走りで向かい声をかけた。
「すいません、決闘の勝敗まだ聞いてないですよね?」
声をかけた審判は少しの間ぼーっとしていたが、やがて我に返る。
「......っ!?あ、ええと?あ、は、はい。る、ルーラさん、の勝ち、です。」
よかった。これで言質は取れた。
セシルはDクラスだ。
「ありがとうございます!」
嬉しさのあまりにっこりしながら審判の人に返事をし、そしてそそくさとその場を後にする。
今日の授業はこれで終わりのはずだ。
帰りの会は今日は授業の関係でないので、家に直行するつもりだ。
早歩きしながらふと後ろを見てみると、人だかりが俺の方へ走ってきていた。
「さっきのは何が起こったのか説明を!」
「決闘の感想を一言だけでも!」
「質問に答えるだけで学校新聞に載れるから、ぜひこっちへ!」
これは────逃げなくては!
俺は小走りからダッシュに切り替える。
あれはマスコミ的なやつらだろう。
捕まったら一生抜け出してもらえない気がする。
三十六計逃げるに如かず。
そそくさに逃げるつもりだったが、もう見つかってはしょうがない。
身体強化を使い、ばれない程度の、追いつかれない程度の素早さで走る。
「ルーラ!ルーラ!どうだったの?」
途中でセシルに声をかけられるが、今はそれどころではない。
「ごめん!明日話す!」
セシルが不安そうな表情でこちらを見つめてくるが、それでも走る。
ダメだ、誘惑に負けたら死ぬ。
これは悪魔の誘いだ。
止まってはならないんだぁああ!!
使命感に似た何かを抱きつつ、俺は逃げるように家に帰った。
更新すこし停止します




