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44話 最下位の実力

更新遅れました


 ついにこの日がやってきた。

 そう、今日は決闘の日だ。


 この学校での決闘、もとい実践的訓練は、学校側からすると結構重要な意味を持つ。

 どういうことかというと、よその学校の先生や校長、たまに町長やどっかの貴族などが来るのだ。

 しかも決闘だけじゃなくて学校の授業も見ていく。

 なんていうか、先生たちの授業参観みたいな感じだ。

 

 授業参観...というか、人の視線を感じながら勉強するのはなんか久しぶりで、今日の授業は新鮮な感じだった。

 まあ授業中は寝てたけど。

 いや、だって算数と国語だったんだもん。簡単すぎて寝そう。てか寝た。

 あれは寝ない方がおかしいでしょ!俺以外寝てなかったけど!

 

 ということで決闘当日の午前の授業は睡眠時間だ。

 やる気出せって?

 いやいや、決闘のために温存してるんですよ、温存。

 ここで気力が抜けたらだめだかんね。しょうがないね。


 とまあそれは置いといて、今から決闘である。

 もうすでに授業自体は始まっている。

 2,3組決闘が終わっていて、あと3組ぐらいで俺の番だ。

 グラウンドの周りを囲むようにして人だかりができており、少し離れたところに階段状の椅子がある。

 小さいスタジアムみたいな感じだ。

 そして階段状の椅子には来賓の先生やら貴族やらが沢山座っている。

 20人ぐらいだろうか。

 意外と多い。

 

 グラウンドの中心から半径30mの地面が50cmぐらいせりあがっており、その中で決闘が行われている。

 相撲の土俵がでかくなった感じだな。

 そして相撲みたいに落ちたら負けだ。まあ普通は落ちる前に決着がつくが。


 今は男子の剣士二人が決闘している。

 木刀がぶつかり合うくぐもった音が響いてくる。

 剣の振る速度が速い。剣が風を切る音が聞こえる。俺が直撃をもらったら即バタンキューだろう。

 どう考えても小学生のやるレベルのことじゃない気がするが、異世界じゃこれが普通なのだろう。

 怖い怖い。

 

 そして今から俺も、この戦場の中に飛び込んで行かなければならないのか。

 憂鬱だ。俺は平和主義なのに。

 ......まあ、対策はしてきたんだ。自信をもっていこう。


 

 さて、試合がどんな感じかっていうのもわかったし、俺は精神統一(目の保養)でもしておこうかな...

 と思っていると、向こうからガイが歩いてきた。

 俺の前まで来て言い出す。


「オレはAクラスのガイ・ウェークトン!ウェークトン家の長男だ!」


 そして間をおいて、言う。


「オレは女をむやみに殴らない。貴族としてそういうことはいけないことだと思っている。......だがルーラ!お前はオレが与えた希望を捨てた!お前の意思で棄権しなかった!それはもう決まったことだ!だから.........せいぜい無駄にあがくんだな。」


 そして憐れむような眼でこちらを一瞥し、戻っていった。


 なんだあいつ、急に出てきたと思ったら変なこと言いやがって。

 あれだけ言うんだから、よほどの自信があるのだろうか。

 俺の作戦がばれていた?それともガイが決闘に向けて特訓していた?

 いや、作戦は隠密にやった。絶対誰にもばれていないはずだ。

 だが、あの威張りん坊のガイが特訓なんかするか?たかが決闘のために?


 それとも、剣士は魔法使いに負けるはずがないという定石があるとか?

 いずれにせよ、これはピンチではなくチャンスだな。 

 ガイがあれだけ自信満々ということは、それ相応に油断しているという証拠でもある。

 これならいける!と思った瞬間に、ラノベの主人公は敵に逆転されてしまうのだ。

 いわゆるフラグ回収というやつである。


 ガイは大きなフラグを立てた。

 ならばしっかり回収してもらわねば。

 そのためには...俺も頑張ろう。


 と思っていると、試合が終わった。

 ...俺の番が来たようだ。

 

「次は、ガイ・ウェークトン、ルーラ・ケイオス。二人とも中央へ。」 


 審判の人が指示をする。

 俺は杖を持ってグラウンドの中心に向かって歩いていく。

 ガイも向かい側からこちらに来ている。

 

 というか、グラウンドの周り一面人だかりだ。

 なんか緊張してきた。

 人の重圧というか、圧迫感あるしね。


 今更だけど、なんでこんなに人がいるんだ。

 と思ッた時に、周りの生徒が喋る。


「魔法使いと剣士が決闘!?しかも男女で!?」


「何かの手違いじゃないの?」


「いや、本当らしいぞ。だが、普通は男女一緒にはやらないし、剣士に魔法使いが勝てるはずないんだけどなぁ。」


「すごい!おもしろそう!」


 ...そういうことか。

 魔法使いと剣士が決闘するなんて異例で、その上男女で組むのはありえないと。

 というか今聞き捨てならない言葉があったな。

 

 ───剣士に魔法使いが勝てるはずない


 だと?

 

 え?まさか、魔法使いって弱いの?

 さっき言った奴は...魔法使いだ。

 剣士が言ってればただの皮肉だろうが、言っているのは魔法使いだ。

 つまり...魔法使い弱い?

 でもあいつだけの主観じゃないのか?


 ......え?みんなおんなじような顔してこっち見てくるんだけど。

 もしかして、さっきしゃべった奴だけじゃなくてみんなそう思ってるのか?

 実際本当に剣士が圧倒的で、魔法使いなんてよわっちぃとか?

 いやいやいやありえないでしょ。

 派手でファンタスティックで夢が詰まっている魔法が?剣に勝てない?

 

 いや、剣が弱いと言いたいわけではない。

 俺も昔は剣にはまってたからな。

 妖刀とか斬鉄剣とかブレイブソードとかラ〇トセーバーとか、強そう。

 だが!

 そんなものよりも魔法だ!

 

 俺は魔法が好きだ。

 無から有を生み出す魔法。

 誰もが夢見る魔法。

 前世では想像の中だけのものだった魔法。

 それが異世界に来てやっと現実となったのだ。

 そのロマンを、物理攻撃とかいうダサい方法でぶち壊されてたまるもんか。

 ていうかロマンを壊さないで。みんなの夢を物理で壊さないで。

 

 だがこれで納得がいった。

 ガイがなぜあんなに決闘に自信を持っていたか。

 そんなの決まっている。

 魔法より剣の方が強いということは定石で、すでに周知の事実であり、しかも相手は女子。

 もし俺がガイの立場だとしてこの条件で決闘するとしたら、確かに負ける気がしないな。


 魔法使いは剣士に勝てない。

 女子は男子に勝てない。

 今の俺は普通の人から見たらまさに「絶体絶命」というわけだ。


 しかし、結果はやってみないと誰にも分らない。

 絶対絶命だから必ず負けるとは限らないのだ。

 

「二人とも、ルールをしっかり守って全力でぶつかるように。また、危ないと思ったらすぐに降参するように。」


 審判の人が言ってくる。

 

 その次にガイも一言言葉を放つ。


「降参なら早めにしてくれよ?」


 やはり、ガイは俺に負けるなんて微塵も思っていないようだ。

 審判も、ガイの言うことが不適切だとわかっていながらも目をそらす。

 俺が負けることなどわかっているかのような反応だ。

 

 魔法使いで、しかも女の子が、男子の剣術に勝つなんて不可能だろう。

 そう顔に書いてそうな雰囲気だった。

 言われっぱなしというのもしゃくなので、一言言い返しておく。

 ちなみに棒読みだ。


「降参するのはどっちだろーねー?」


 ガイに言うと、ムカっとした表情になった。

 扱いやすいことこの上ない。

 

 審判の人も驚きの表情をしている。

 俺が言い返すはずないとでも思っていたのだろう。

 全く、不公平な価値観なもんで。


 審判の人はすぐに表情を戻し、言う。


「で、では決闘を始めます。互いに10歩離れてください。」


 俺とガイは、迷いない足取りで10歩ずつ離れる。

 審判の人も離れ、

「では、第六試合......はじめっ!」

 

 決闘が始まった。

 

 俺は杖を構える。


 ...が、ガイは動かない。

 いや、剣を方に担いでいる。余裕の表情だ。

 完全に舐められてるな。


 だが、今の俺に遠距離攻撃の魔法は使えない。

 スキルはあるが適正がないのだ。くそ。

 

 嘆いてもしょうがない。というか、ここまでは予想通りだ。

 いや、ガイが何もしてこないというのがうれしい誤算だが。

 ということで、俺はポケットから一枚の紙を取り出し、地面に広げる。


「おーい、俺はまだ何もしてないぞ?怖気づいて足がすくんじゃったか?」


 何もしない俺を見て、ガイが結構な声量で言ってくる。

 周りに見せつけるためか?

 まあいい。

 俺はガイの言葉を無視し、作業をする。

 

 広げた紙に魔力を通し、紙に書かれた魔法陣を起動させる。


 そして俺は誰にも聞こえない小さい声で言う。


「クリエイト・ゴーレム」

 

 すると、まるで魔法陣が発動して生み出されたかのように、紙の上に等身大の石像が出現した。

 

 周りの人が困惑の声を上げる。

 魔法陣を使ってこんなことできるのか?

 という疑問からだろう。

 

 結論から言えば、俺にはできない。

 だって魔法陣の書き方知らないし。というか覚えるのめんどそうだし。

 だが、魔力を入れると光を放つという魔法陣は教科書の後ろの方に載っていた。

 この魔法陣はそれを移しただけの物だ。


 つまり、光るだけ。

 ただただ光っているだけ。

 

 そう、ゴーレムは俺が創造魔法で作り出した。 

 魔法陣の上で完成するように。

 それだけで、あたかも魔法陣が作用してゴーレムが作られたのかとみんな勘違いする。

 この作業を経ることによって、俺が創造魔法を使えるということをごまかせる。


 周りからしてみれば怪しいところはいくつもあるが、怪しいだけなので創造魔法の存在には気づかないだろう。

 これぞ俺の考えた作戦の第一ステップ。


 そして今から第二ステップ。


 まだ光輝くゴーレムに、手を加えていく。

 創造魔法を使い、集中して仕上げていく。


 十数秒して、ゴーレムはその姿を俺に変えた。

 そう、俺だ。

 光が収まるとその全容が明らかになる。

 背中にくぼんだ部分があるが、それを除けば下から上まで、全部俺だ。

 細部に至るまで精密に創造魔法で作ったおかげで、見てくれはもう完全に俺だった。影分身かな?


 しかし、ゴーレムは瞼を開かない。

 当たり前だ。この状態ではただの石像とさして変わらない。

 動力なしで動きはしないのだ。


 そして第三ステップ。

 俺はおもむろにポケットへと手を突っ込む。

 ポケットの中から取り出したのは、バッジのような形をしたもの。

 薄い六角形の金属の板が何層も重なっているような構造だ。

 全部の板の表面に、魔法陣がぎっしりと詰められている。

 

 このバッジみたいなものは、俺が事前に用意しておいた魔導回路だ。

 学校の実験室で試行錯誤しながら作ったあれだ。

 俺はこれでも元プログラマーだし、回路作りは電子回路をいじるみたいでとても楽しかった。

 結局は創造魔法で完成させたけど。


 それはさておき、取り出した魔導回路を、ゴーレムの背中にあるくぼみにはめ込む。

 カチャッ、と音がした。これでセッティング完了だ。

 

 最後に、ゴーレムの背中に手を当てて魔力を流し込む......

 

 するとゴーレムはゆっくりと瞼を開けた。

 目に魔力の光がともっている。

 戦闘用ゴーレムの完成だ。

 

 このゴーレムには命令型魔導回路という回路を入れた。

 回路は、俺が指定した対象に対して攻撃するという簡単な命令式が書いてある。

 敵の攻撃を回避するという能力はない。

 というか、そこまで細かく作るのが面倒だった。

 回路のプログラムの部分は自分で作らなきゃないからしょうがない。

 きちんとした施設がそろってない中で作るにはそれが限界だったのだ。

 今度機会があればもっと高度な回路を作ってみたい。


 ともかく、今は決闘だ。

 俺はゴーレムに指示を出す。


「ゴーレム、目の前の敵を攻撃!」


 するとゴーレムは動き出す。

 石を擦らせる音を出しながら、ガイに向かって進んでいく。

 

 周りの観客の人はゴーレムを見て唖然としている。

 異世界でゴーレムってよく聞く話だけど、意外と珍しかったりするのかな?

 まあいいか。それよりゴーレムだ。


 俺の指示通りに動くのは見ていて楽しい。

 気分はさながらポケ〇ンバトルだ。


 野生のガイが飛び出してきた!

 いけ、ゴーレム!


 ...ちょっと違うな。


 俺がジムリーダーでガイが挑戦者のトレーナーだと考えるとそれっぽいかも。

 それだと、ポケモンがトレーナーに直接攻撃を仕掛けてることになっちゃうけど、まあいいか。

 

 ゴーレムは石造りであるせいか、のそのそとした足取りでガイの方に進んでゆく。

 その歩みは、遅い。とても遅い。

 千里の道も一歩よりという言葉がお似合いな動きだ。

 あまりの遅さに、ガイがへらへらと笑いだす。


「な、なんだよ。最初はオレもびっくりしたが、こんなスピードじゃただの的だな。分身を作ったところでお前は俺に勝てないんだよ!ハハハッ!」


 と、ガイが油断しているさなか、急にゴーレムがスピードを上げる。

 ガイに向かって猛ダッシュし始めた。

 もうその動きは石造りの石像ができるものの域を超えていた。

 少し魔導回路にMPを注ぎすぎたみたいだ。 

 

 油断していたガイは、そのゴーレムの突然の動きに目を丸くする。


 そのうちにゴーレムはガイの目の前まで迫り、石の腕でガイに殴りかかった。 


 これはガイに直撃したな。

 と俺が思った時、ガイが動き出す。

 さすがは剣士といったところか、ガイは慌てながらも体制を立て直す。

 腰を低くして隙なく構え、持っていた木刀でゴーレムの腕を切りつけた。

 どうせ木刀だし、流石に石のゴーレムが一発でやられることはないだろう。

 と俺が思っていると、ゴーレムの腕が粉々に吹き飛ばされた。

 

 周りに砂煙が立ち込める。

 小石がいくつか飛んでくる。

 俺は思わず腕で顔を隠す。

 

「何だ、何が起こった!?」

 

 つぶやきながら砂煙の中を凝視する。

 だんだん視界が晴れてきた......

 そして砂煙の中から────無傷のガイが出てきた。

 外傷は一切見当たらない。それどころか、ガイの体からパワーがみなぎっているように感じられる。

 俺は思わず息をのむ。

 

 ...剣士ってこんなに強いのか。 

 予想斜め上、いや予想の大幅に上だ。元のステータスが圧倒的に違う。

 こりゃ、木刀だとしても一撃もらったらただじゃすまないな。

 

 するとガイはさっきと同じことを言う。


「この手は使いたくなかったが...まあいい。やはりこれしき、オレの敵では無いことなど最初から分かっていたことだ!底辺のルーラがどうあがこうと俺には勝てないんだよ!フッハハハ!」


 くそ、剣士補正でかすぎだろ。RPGだったらバランス崩壊してるぞこれ。

  

 さっきは恐らく『剣技』という魔法使いでは使えないスキルを使ったのだろう。

 それなら石を木刀で砕かれたのもうなずける。

 しかし、スキルを使ったとはいえゴーレムを簡単に砕かれてしまうのは厄介だな。

 まさかそんな方法で突破されるなんて思ってもみなかった。

 ジムリーダーの出したポケ〇ンを、トレーナーが素手でワンパンしたようなものだ。

 なんて凶暴な挑戦者だ。

 成敗しなければ。


 ガイのスキルの威力を懸念していてもしょうがないので、次の行動に移る。


 俺はポケットから紙を取り出し、素早く地面に広げる。

 そして詠唱する。


「クリエイト・ゴーレム」


 光と共に紙の上に出現したのは、ボウドの形をしたゴーレム。通称デブゴーレム。

 デブならガイの攻撃にも耐えてくれるだろうという思いつきだ。

 

 ゴーレムが一体完成したが、俺はまだ手を止めない。

 もう一枚紙を取り出し地面に広げ、また詠唱する。


「クリエイト・ゴーレム」


 すると今度は、光とともにガイの形をしたゴーレムが創造された。

 こちらは名前そのままガイゴーレムと呼ぶ。

 これはとある格闘ゲームの話なのだが、同じキャラクター同士での対戦はとてもやりずらいらしいのだ。

 通称ミラー対戦というらしい。

 相手も同じ動作をしてくるわけだから、普通に戦うよりもずっと神経を使うという。

 なので、対戦相手と同じゴーレムにしてみれば勝てるんじゃないかと思いついたわけだ。

 

 早速2体のゴーレムに魔導回路をはめ込む。

 ボウドの方は最初俺のゴーレムに入れたものと同じ回路だが、ガイのゴーレムに入れる魔導回路はちょっと応用した回路だ。

 どう応用したかというと、敵の動きをまねて攻撃や回避などをするプログラムを入れたのだ。

 これでほぼ完全にミラーである。

 

 俺はほくそ笑みながら言う。


「じゃあ第2ラウンドといきましょうか、ガイ」


 二つのゴーレムに、さっきよりも多めに魔力を流し込む。

 するとゴーレムが起動し、目をゆっくりと開ける。

 

「いけ、ゴーレム!」


 俺の命令で、2体のゴーレムが飛び出した。


長いので決闘は2つに分けました

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